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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第3章 後継候補編
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エイナの悲喜

 年の瀬も迫るころ、エイナにいいニュースと悪いニュースが同時に飛び込んできた。

 いいニュースは息子の妻の妊娠が分かったことだ。順調にいけば来年2~3月ころの出産らしい。今度こそ男の子であればいいが・・・一番は生きて産まれてきてくれることだ。

初孫の竜縁はすくすくと育ち、愛娘の話をするときの息子は本当に幸せそうだ。エイナは嬉しくて仕方ない。

成獣してから何年も妻と子どものことで苦労してきた息子はこれからもっと報われてほしい。


 悪いニュースは、鹿族の花嫁替玉事件だ。

5日前、紫竜一族から驚くべき発表があった。

夏前に産まれた龍算の子どもは転変前に亡くなり、嘆き悲しんだ鹿族の妻は、自分が替玉のせいで罰が当たったと白状して自殺したというのだ。


 白猫族に続き鹿族も花嫁の替玉なんて・・・一体何が起きているのだろう?


それに紫竜も・・・息子の妻が替玉であることは公表されていない。紫竜は表立った処分はせず、息子夫婦は白猫族の侍女を殺して白猫族と絶縁することにとどめたために、熊族としても結局、大事にはできなかった。

 だが、今回は違った。鹿族の替玉事件を公表し、なんと紫竜一族は鹿族との全取引を打ち切ったのだ。

 鹿族は族長をはじめとする関係者の首と金銭での解決を求めたらしいが、紫竜は結納金の返金以外は何も受け取らず、絶縁を決めたそうだ。


 そうなると、紫竜の取引先も次々と鹿族との関係を見直し始めた。すでに鹿族の妻や婿を実家に帰した種族もいるらしい。

 花嫁のすり替えは許されざる背信行為だ。しかもそれを紫竜相手にやったとなれば、小心者の取引先は迷わず紫竜にならって鹿族と絶縁するだろう。


 熊族にも鹿族本家からきた嫁がいる。鹿族長の姪らしい。紫竜の替玉事件に関与していたのかどうか、妹夫婦が調べてくれているが、例え無関与でも離婚は避けられないだろう。もし関与しているなら・・・今度こそぶち殺す!

 ただでさえ熊族は白猫の花嫁すり替え事件に巻き込まれたのだ。鹿族との関与まで疑われてはかなわないし、紫竜が大々的に処分を下した以上、今までどおり鹿族と懇意にするわけにもいかない。

 最悪、鹿族との取引打ち切りも・・・しかしそうなればさすがに熊族にとって大打撃だ。



 それはそうと、龍算が次期族長になる可能性はほぼなくなった。ただでさえ後継候補の最年長なのにやっと産まれた娘も亡くなって、再婚にも時間がかかるだろう。

もしかしたら、後継候補からも外されるかもしれない。


 むしろ警戒すべきは龍光だ。まさか今さらになって息子が産まれるなんて!

龍光はかつて後継候補だった時期もあるので、龍算と交代する形で後継候補に戻るかもしれない・・・そうなれば孔雀の息子と並ぶエイナの息子のライバルになる。


 孔雀の息子には・・・次の子がいつできてもおかしくない。

まさか妻を黄虎の谷にまで同行させるなんて!

孔雀の息子はいつの間にこうも子作りに必死になったのだろうか?

 エイナはかつて娘にせがまれて、夫のもとに戻って間もなく黄虎の谷まで同行したが・・・黄虎領に入ってすぐにダウンした。

いくら子ども達のためとはいえあの黄虎の臭いには耐えられなかった。

どんなに自分を叱咤しても恐怖で足が進まなかったのだ。

 幸いだったのは、あの孔雀も同じくダウンしたことだ。

藍亀の島ではなんとか耐えたらしいが、黄虎の臭いは無理だったようで・・・

まあ、同じ宿で夫と子どもたちの帰りを待つことになった。


 帰ってきた娘はショックを受けていた。藍亀の島の時と同じく、息子は黄虎の臭いを嫌がり夫にべったりだったらしい。

対して、転変したばかりの孔雀の息子は・・・母の不在を気にも止めず虎の子と喧嘩を始めたというから驚きだ。

 短気で乱暴ものの阿呆なのに、なぜか藍亀も黄虎も孔雀の息子の方を気に入っている。

慎重で礼儀正しいエイナの息子の方が一族の長にふさわしいはずなのに!

それを理解してくれるのは朱鳳と獣人の取引先だけだ。


 だが、そんな孔雀の息子は今や後継候補筆頭としてかつて息子がやっていた仕事を、いやそれ以上のことをこなしている。


一体なぜ?


少し前まで、結婚もせずフラフラと飲み歩いて、いつ後継候補から外されるのかと陰口ばかりたたかれていたバカ息子だったのに・・・

人族の妻との再婚と懐妊を発表した時からまるで別竜になったかのような変貌ぶりだ。


 それとも、フラフラしていたのは見せかけで、妻選びに時間をかけていたのだろうか?

息子も龍算も龍灯も後継候補でありながら、妻に恵まれなかったゆえに何年も子どもが産まれないという悲劇に見舞われている。

 なのに孔雀の息子は、カラスはともかく今の妻は早々に懐妊して跡取り息子を出産し、続けて娘を出産した。

・・・結婚して何年も流産に泣いたエイナは妬ましくて仕方ない。


 孔雀の息子の真似をして、様々な種族が人族から妻を買ったらしいが・・・まだ子どもが産まれた事例は聞いていない。熊族は買っていないが、方々の取引先から人族の妻ははずれだと落胆の声を聞いている。

 そうだろう。人族に大金を払って妻にする価値などないとエイナは思っていた。


あの孔雀の息子の妻を除いては。


やはり結納金目当てに売られているような娘だからダメなのだろうか?

 しかし、孔雀の息子がどうやってあの妻を手に入れたのかいまだに謎だ。


 孫娘と枇杷亭の姫の転変祝いで久々に見た人族の妻は孔雀の息子に対する態度がかなり変わっていた。

愛想笑いを止め、孔雀の息子に優しい眼差しを向けていた。

まるで愛しい夫を見るかのように・・・

あり得ない。

人族はエイナたち以上に他種族である紫竜の夫を憎んでいるはずなのだ!


ああ、この歳になってもまだ紫竜なんかに悩まされるなんて・・・腹立たしいが仕方ない。

愛する息子のためだ。あの子には一生かけて償うと決めたのだから。

エイナの最大の過ちを、あの子が許してくれてもエイナは許せないでいる。


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