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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第3章 後継候補編
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ソルの告白

「ふふ。やっぱりね・・・」

ソルはリュウカの扉の向こうから感じた匂いに笑ってしまった。

 でも、あいつがこんなところに妻を連れてきたということは・・・紫竜たちはまだ全てわかった訳ではないのだろう。

もう12月なのに・・・思った以上に時間がかかった。



「お久しぶりです。ソラ様。突然お邪魔してすみません。」

龍算に連れられて執務室に入ると、人族の妻が作り笑顔を向けてきた。

「紫竜の花嫁は本当に憐れですね。何も知らされずにこんな危険な場所に連れて来られて。」

ソルは鼻で笑う。

「なんだと!」

人族の肩を抱いている夫の龍希がソルを睨み付ける。

これが紫竜の殺気か・・・歴戦のソルでも恐怖で動けなくなってしまった。

「あなた!」

人族の妻の一言で殺気が緩む。

「ふふ、変なの。」

ソルは笑ってしまった。

丸腰の人族なんて紫竜にとっては虫けら同然のはずなのに・・・なぜ妻になると力関係が逆転するのか?

ソルには理解できない生き物だ。


「あなたは、私にソラと名乗られましたから。」

人族の妻は挑発してきた。

「あの時は紫竜の花嫁になったソラでしたから。でも今の私はソルです。人族が私に何の用です?」

「私は妻として夫のお手伝いにきました。夫の質問に答えて下さいませんか?」

「嫌です。私はバカな男は嫌いなので。奥様の質問ならいいですよ。」

「な!龍希様になんてことを!」

龍算は怒って叫ぶが、バカであることは否定しない。

人族の妻が龍希の顔を見ると、不愉快そうな顔をした龍希は頷いた。

やはりこのために妻を連れてきたようだ。


「では、ソル様。どうしてニャア様を殺そうと?」

「今日は無駄話はなしですか。私もその方が好きです。龍栄夫婦に恨みがあるのは弟ですよ。私はその手伝いをしただけ。」

「弟さん?」

「ええ。弟の(つがい)はニャアの侍女をしていましたが、龍栄に殺されたのです。」

「え?どうして?」


「あのバカ猫を花嫁の身代わりにしたことがばれた責任を押し付けられてと聞いています。」


「え?」

人族の娘は本気で驚いている。

ニャアと仲が良さそうに見えたが身代わりのことは知らなかったようだ。

「なんでお前が身代わりのことを知ってる?」

龍希はそう言って睨むが、やはりバカだ。侍女をしていた白猫に聞いたに決まっているのに。

「殺された理由は誰から?」

人族の妻はバカ夫を無視して、まともな質問をしてきた。

「内緒です。」

「白猫族からではないのでしょう。鶯亭に内通者がいるのですね。」


『この妻は鋭いな。確証があるのか?当てずっぽうか?

表情から頭の中が全く読み取れない。隣のバカとは大違いだ。』


「ええ。あれは金で雇ったバカ猫です。妊娠直前に会いに来たとなれば、紫竜は白猫を疑うでしょうから。」

ソルは鼻で笑う。

龍希は歯軋りしているが、人族の妻は無表情のままだ。


「弟さんは鴨族の宿で待ち伏せを?」

「ええ。仕損じたようですが。」

龍算からニャアが回復したと聞いたのはもう随分前だ。

「あの死んでた鹿の獣人か?」

龍希の言葉に人族は驚いた顔をする。

これも知らされてなかったようだ。

「龍栄に返り討ちにされたようですね。」

まあ弟の死は覚悟していたことだ。


「は?すでに死んでたそうだぞ。」


「え?」

この龍希の言葉はさすがに予想外だった。

「龍栄殿が見つけた時には、鹿の死体の一部は骨になってたそうだ。死んだのは昨冬だろうと。」

「なら、なぜニャアは死にかけたのです?」

ソルは意味が分からない。

「鹿の死体のそばにあった変な臭いのする金属の筒のせいだろ。」


『こいつはペラペラしゃべるなぁ。自分の妻にも隠してたんじゃないのか?』


と思ったら、案の定、龍算と竜染が龍希を睨んでいる。

『どうやら弟は龍栄たちが宿に来る前に何者かに殺されたらしい。ニャアを殺すために用意していた毒筒は、弟が死んだ後も効力を発揮したということか・・・』

ソルはまた笑ってしまった。なんという悪運の強さだろう。


「その金属の筒でニャア様を殺すつもりだったのですか?」

人族の妻はもう切り替えて次の質問をしてきた。見かけによらずかなり肝が据わっている。

「さあ。弟がどうやって殺すつもりだったのかは知りません。しかし、先に殺られてしまうとは。運のない子。」

「あまり驚いてはおられないのですね?」

「ええ。私たちは最前線で戦ってきた戦士ですから。何十と殺してきたので、恨みなどいくらでも買っています。」

「あなたは紫竜にどんな恨みが?」


「紫竜に恨みはありませんよ。私が憎いのは鹿族本家の奴らです。」


「え?」

人族の妻はまた驚いた顔をする。

「私は戦士として鹿族のために戦ってきた。生まれ故郷を奪われる屈辱は私たちで最後にしたい、そう思って。どんな相手でもどんな場所でも命懸けで戦って、時には族長の命令で族長姪のふりをして戦場で戦士たちを鼓舞したこともあった。

汚れ仕事だろうとそれで戦いに勝てるなら、私はどんな泥だってかぶったわ。

なのに!本家の奴らは、戦士としての私を何一つ評価しなかった!姪の替玉として紫竜に嫁げと命じられた時には族長を殺してやろうかと思ったわ。だけど弟の復讐と私の復讐、2つを同時に叶えられるチャンスだと思うことにしたの。」

ソルは笑った。ずっと抱え込んできた恨みをやっと吐き出せる日がきたのだ。



「・・・龍算様は関係ないのでは?」

人族の妻は驚きと怒りの感情を向けてきた。

「ええ。でもお互い様です。鹿族の雌なら誰でもよかったのですから。もっといえば子を産める雌なら誰でもいいのですよ。紫竜は。」

「な!ふざけんな!」

龍希がまた殺気を飛ばしてきた。二度目でも変わらず恐ろしい。


「・・・本当の父親は鹿族ですか?」

人族の妻は龍希をなだめながら、また感情を隠して質問してきた。


本当に切り替えが早い。


「不思議なことを仰る。私は龍算以外の雄には触れてもいませんよ。」

「・・・白猫の来客が精子の入った注射器を持ってきたのでしょう。」

人族の妻は確信を持った言い方をする。

「ご明察です。やはりあの時、奥様に接触しておいて良かった。」


ソルは今日一番の笑顔になった。


「どうして私に?」

「人族の賢さはよく分かっているつもりです。私の悪巧みを見抜いてくれる方がいて初めて、私の復讐は成功するのですから。」

人族の妻は困惑した表情になる。

「人族はあなたの父の仇ではないのですか?」

「父の仇はもう死にました。叔父がその場で討ち取ってくれましたから。それとも奥様は1人の鹿が人族を殺したら、すべての鹿を仇として恨むのですか?」

「いえ・・・でも私が気づかなかったらどうなさるおつもりだったのです?」

「私は誰かが気づくのを待つことしかできません。私には1人で、いえ弟と2人だけでは紫竜はおろか鹿族本家に一矢報いる力すらありませんから。」

ソルは肩をすくめる。


「おい!雄の協力者はどいつだ?」

怒りで顔を真っ赤にした龍希が叫んだ。

「さあ。誰の精子か知らないわ。白猫に金を握らせて適当に用意させたんだもの。」

「はあ?ふざけんな!」

「ほんとにバカねえ。まあ生まれながらに力を持った紫竜には分からないわよね。どこの誰かも分からない雄の子を孕まされるなんていくらでもある話なのよ。」

ソルの言葉に人族の妻は暗い顔をして俯いた。

『やはりこの女も温室育ちのお嬢様ではないようだ。』


「でも私の夫まで騙して紅葉の山に連れて行ったのは?」

「ああ。バカな白猫が自分で精液の注射器を用意できると思います?」

「まさか人族に?」

人族の妻は真っ青になるが・・・

「残念。私は人族と手を組んだりしません。奴らは信用なりませんもの。」

ソルは笑う。

「では誰の依頼で?」

「ふふ。ほんとに賢い奥様。でも質問はここまでです。紫竜を恨む種族はいくらでも居ますから、自分の身は自分で守りなさいませ。紫竜は簡単に妻を切り捨てますからね。」


「いいえ。訊問はこれからですよ。」

竜染が殺気を向けてきた。

「まさか逃げられると思うなよ。」

龍希からも殺気を感じる。


「逃げる?私は戦士ですよ。背を向けて逃げることもしなければ、捕虜になりもしません。

・・・奥様、ありがとう」


ソルはにこりと笑うと口の中のカプセルを噛み砕いた。

龍算がリュウカの部屋に呼びに来る直前に口に含んだものだ。


真っ青な人族の顔

それがソルが見た最後の光景だった。


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