替玉
11月のある日、龍希は族長に呼ばれて本家にきた。
昨日はスミレ亭の守番だったのに朝一で呼び出すとは容赦ない。
族長の執務室に入ると、龍栄、竜湖、竜夢となぜか竜染が居る。
『なんだこの組合せ?』
「なんで竜染が?」
女の守番は竜の子の転変まで巣を離れないはずなのに・・・
「龍算様と族長の許可を頂いて・・・龍希様、申し訳ありません。龍希様の仰ったとおりでした。」
竜染は龍希に頭を下げる。
「は?何が?」
龍希は意味が分からない。
何の話?
「龍算様の奥様のことです。奥様は族長の姪ではありませんでした。替玉でした。」
「はあ?」
竜染はとんでもない話を始めた。
ソラ様の真名はソル。族長とは全く血縁関係にない孤児だそうです。実父の死後、母が鹿族本家の使用人と再婚し、弟と一緒に本家で下働きをして育ち、成獣してからは弟とともに鹿族の兵士になったそうです。
その母も弟も、母の再婚相手も死亡しています。うちから龍算様の再婚を持ち掛けた時に族長の姪の身代わりとして本家に呼ばれたそうです。
姪と同じ年頃で容姿が似ているという理由で。
「はあ?いや意味が分からん。なんで身代わりを?」
「龍栄の妻と一緒。その姪が紫竜との結婚を嫌がったからって。」竜湖はため息をつく。
「はあ?嫌なら断れば済む話でしょう?」
「馬鹿ねえ。結納金目当てに決まってるでしょう。鹿族は他種族との境界争いで財政難だから。」
「だからって・・・そんな赤の他獣人を?なんで事前にわからなかったんだ?」
龍希は竜染を睨む。
「申し訳ありません。まさか・・・替玉なんて・・・思いもせず。」
「あんまり竜染を責めないの。龍栄の時だって竜夢は気づかなかったんだから。てか私だって対策のしようがないわよ。こんなの。」竜湖は肩をすくめる。
「どうやって分かったんだ?」
「それが・・・奥様自ら白状されたのです。いえ、白状と言うか・・・先月、龍希様から言われたことが少し気になって、龍栄様にご相談したら龍栄様がニャア様にきいてくださって。そしたら龍希様の奥様と同じことをニャア様も仰ったということで、驚いて龍算様の奥様に尋ねたら・・・大笑いされたのです。やっと気づいたのかって。」竜染は今にも泣きそうな顔だ。
「はあ?けんか売ってんのか?」
「売ってきたのよ。龍算の妻は鹿族を裏切ったみたいね。芙蓉ちゃんたちに本当の身の上話をして私たちが替玉だと気づくのを待ってたみたい。私と龍峰で鹿族の本家に行って問い詰めたら、鹿の族長は認めたわ。」竜湖は竜染を慰めながら答える。
「はあ?裏切った?なんなんだあの鹿は?紅葉の山の嘘だって・・・意味が分からん!」
「ああ、あれは噓じゃないらしいわよ。あんたが護衛についていった山は、龍算の妻が産まれた山らしいわ。まあその後、人族との境界争いに負けて鹿族は追い出されたらしいけど。ソラ・・・じゃないソルの実父はその時に戦死したんだって。キノコは嘘。最後に生まれ故郷の山を見たかったらしいわ。」
「最後?」
「そう。ソルは死を覚悟してる。替玉とあの小鹿。」
「やっぱりあの小鹿は・・・」
「問題はそこよ。もし龍算の子じゃないなら父親は誰で、どうやって?ソルは答えなかったわ。あの雌は・・・拷問しても無駄でしょうね。」竜湖は悔しそうに唇を噛む。
「まだ姫様が龍算殿の子ではないと決まったわけではないのでしょう?」龍栄が初めて発言した。
「そういえばあの白猫は?」
龍算の妻を訪ねてきた白猫も共犯か?
「そう、その猫の素性が分からなくてね。替玉と分かった後、竜夢と龍栄に協力してもらったんだけど・・・」
「結論から言いますと、白猫族にはニャコなんて雌猫はいないと。族長は白猫が柘榴亭を訪ねたことすら知らないそうです。」答えたのは竜夢だ。
「信用できるのですか?」
「だから龍栄様にもご同行頂いたのです。白猫族長からはもう悪意は感じなかったそうですから嘘はついていないかと。ただ白猫が偽名を名乗っていた可能性はあります。」竜夢の言葉に龍栄は頷く。
「じゃあ結局、妻が替玉だと分かっただけですか・・・」
龍希はがっくりと肩を落とす。
「それなんだけど・・・どうしてソルは本当のことを芙蓉ちゃんとニャアちゃんに話したのかしら?それに、あんたを護衛に希望した理由も・・・ソルは何かしらの理由や目的があって行動してると思うの。」
「拷問してきいてみるしかないですね。」龍希はイライラして仕方ない。
「龍算が許すと思う?それにもし龍算の子だったらどうするのよ?今の状態ではソルには何もできないわ。替玉でも龍算は十分執着してるから今更、離婚は無理よ。鹿族にはそれなりの報復をするけど・・・子どもの問題を解決しないことには・・・」竜湖は龍栄と龍希を見る。
「・・・なんですか?」
嫌な予感がする。
「あんたたち、妻を連れて柘榴亭に来てくれない?」
「嫌です!」
龍希と龍栄は即答した。




