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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第3章 後継候補編
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竜音の昔話

翌日、紫竜本家では緊急会議が開かれた。

龍算は自分の巣を離れられないので欠席だ。今日の日中の守番である龍光りゅうこう龍範りゅうはんもいない。あと女の守番の竜染も。


龍海と龍緑は昨晩から今朝まで徹夜で守番をしていたはずなのに出席している。


「・・・というわけだ。」

族長と竜冠の説明に会場中大騒ぎだ。


「一体何が?」


「ようやく龍算様にもお子様がお生まれになったのに!なんてこと」


「こんなこと前代未聞だ。」


「・・・いや、前にもあったよ」


「え!」

老婆の声に皆が竜音りゅうおんに注目した。一族の最年長で、75歳を超えている。


「だが、龍算様の参考にはなりませぬ。それでもお話しましょうか?族長」


「頼む。聞かせてくれ。」


「あれは・・・まだ私が成獣になる前の出来事でした。妻は胎生でお子様は生きて産まれたのですが、娘たちは誰も竜神様のお声を聞いておらず、誕生から何日経っても巫女は現れませんでした。その上、トリの襲撃が一度もなかったのです。」


「・・・」

龍算と全く同じ状況だ。

龍希が枇杷亭に戻った後から今朝、龍海たちが龍光たちと交代するまでの間もトリは姿を現さなかったと先ほど聞いた。


「ふ~」

竜音は息を吐いてお茶を飲む。


早く続きをと文句を言いたいが、紫竜の平均寿命を超えた婆様だ。無理をさせるわけにはいかない。


「原因は、何だったと思われます?ヒントはその妻は嫁いで1年もしないうちに出産したことです。」


「え!?ちょっと竜音様!」


『クイズを始めるな!早く教えろくそババア』


龍希はのどまで文句が出かかったがぐっと堪えた。もしこれが自分の娘の出来事だったら迷わず殴りかかっていたところだ。


「・・・その妻は嫁いですぐに妊娠したということですか?」

竜紗が尋ねる。


「ふふ。さすがだね。違ったのさ。驚くべきことにね。」

竜音はニヤリと笑った。


竜紗は小さく悲鳴をあげて両手で口を覆う。


「なるほど。確かに龍算様の参考にはなりませんね。」

竜色が吐き捨てるようにそう言うと他の女たちも頷いているが・・・


龍希には分からない。



「嫁ぐ前に妊娠してたってことよ。」


龍希の隣に座る竜湖がため息をつきながら教えてくれた。


「は、はあ?んな馬鹿な!」


龍希は驚きのあまり大声で叫んでしまった。

ほかの男たちも同じように驚きの声をあげている。


「当時だって信じないものの方が多かった。だけど、1歳になってもその子は転変せず、竜の子の匂いもせず、トリは襲ってこずで・・・ほかに説明がつかなかった。そこで妻の親と族長も呼んで妻を詰問したら白状したのさ。嫁ぐ数日前にほかの雄と・・・その時の子だろうとね。」


「・・・」

竜音の説明に会場はしんとなってしまった。龍希だって言葉が出ない。


「妻の種族は誰もこのことを知らなかったと言うたが、まあその妻は処刑し、妻の種族からは相当な賠償を受けた。そしてこれを教訓に、胎生の妻との結婚が決まったら月の物が来たことを紫竜の女が確認してから夫の巣に連れていくことになったのさ。なのに・・・」

竜音は龍希を睨む。


「・・・なんですか?」


「女たちが嫁入りのたびにどれほどの苦労をしてるのか知ってくださいませ。」



「わかりましたよ。もうしませんから。」

龍希は苦笑いする。

女たちは事あるごとに結婚の件で説教してくるが、まあ説教だけで済んだのだから甘んじて聞かなければならない。


「龍算様の妻も胎生ですから当然、世話役の竜染が嫁入り前に確認しています。何より嫁いでから妊娠までに1年以上ありますから、結婚前の懐妊はあり得ません。」


結婚後に夫以外の子を孕むこともない。結婚してからほかの雄が妻に触れようものなら龍算が匂いで気づかないはずがないし、妻の侍女が常に側にいるのだ。


「原因はやはり分からんか。」

族長はため息をつく。 


「あ、ただ・・・気になることが一つ。龍算様が黄虎の谷への遠征でご不在中に、白猫族の雌が1匹、奥様に会いに来ていたそうです。」


「え?なんで龍算様の不在中に?」


「奥様は遠征中は実家に一時帰宅したいと申されたそうですが、龍算様はお許しにならず。ただ不在中に勝手に出ていかれては困るとのことで、特別に奥様のご友人と会うことをお許しになったそうです。まあ雌ですし、本家の侍女かんしがおりましたから、この件とは無関係ですが一応ご報告しておきます。」

竜色は肩をすくめる。


「白猫族と言えば、龍栄様の奥様のご体調はいかがですか?」


 龍栄の妻は3月に旅行先で意識不明となり、2日後に目を覚ましたものの、5月の初め頃はまだ体調が悪く、シュグがつきっきりだと聞いたが・・・


「今はもうすっかり回復しましたが、原因は結局分からないままです・・・」

龍栄の表情は暗い。


「あの謎の筒は?」


「中身が残っておりませんでしたので、正体は分からず仕舞いです。鴨族と鹿族にも確認をとりましたが、あんな筒は見たことがないと。」


この件もこれ以上どうにもならなさそうだな・・・



「枇杷亭の奥様にもご心配をおかけしました。」

龍栄は龍希に軽く頭を下げる。


妻と白猫は毎月のように本家で顔をあわせていたので、白猫の不調は妻には隠しきれなかった。


「い、いえ、とんでもありません。今日は久々に奥様とご一緒できると妻も喜んでいました。」

龍希は慌てた。

こいつに頭を下げられるのはどうにも落ち着かない。


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