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 自室に戻った後、急に開けられなかった手紙の中身が気になってきた。怖くて、ずっと開けることができなかった手紙。あの時はどんな言葉が並べられているのだろう、と弱気になっていた。でも、リミーシャさんが私を傷つける言葉を書くわけがないって、そんなことわかっていた。


「ねえ、アンナ。

 はちみつミルク、作ってくれない?」


「あら……、ええ、喜んで」


 アンナは嬉しそうにほほ笑んで、はちみつの瓶を預かってくれた。アンナが部屋を出て行ったあと、リミーシャさんの手紙をしまい込んでいた箱をあける。そこには変わらず手紙が入っていた。


 何をそんなに緊張しているのか、手紙をとった手はかすかに震えている。それでも、意を決して手紙を箱から取り出した。


 ペーパーナイフを使って封を開ける。緊張に反して、手紙はあっさりと開いた。


「お待たせいたしました。

 はちみつミルクでございます」


「あ、ありがとう」


 アンナが入れてくれたあたたかいはちみつミルクを口にする。先ほどと変わらず、複雑な花の香りと優しい甘さ。緊張していた気持ちが少し和らぐ。


「少し、一人にしてくれる?」


「はい。

 何かあったらすぐお呼びくださいね」


 詳しい事情は知らないはずだけれど、アンナは優しく笑って部屋を出ていった。もう一口、はちみつミルクを口にする。それに勇気をもらって、私は手紙に手をかけた。


 リミーシャさんからの手紙には、ただ優しい言葉だけが並べられていた。私の身を心配する言葉、リミーシャさんたちのことは気にしなくていいこと。そして、いつでも帰ってきていいと、そう書いていた。ここは私のお家でもあるから、と。


 私がどんな存在でも、どんな名前でも、大切な存在だからとそう……。


 涙が、あふれていく。拾っておいてもらいながら、何も返せずにいなくなったのに。大切な存在だと、いつでも帰ってきてよいと、そう言ってくれた。本当に温かい人。私は大切にしてよいのだろうか。迷惑じゃないのだろうか。不安はある。でも、きっとそれを決めるのはこれからの私の行動次第だ。


 リミーシャさんを、センタリア商会の皆を大切にしたい、だから大切にする。大切にできる自分になろう。だから、いつか会いに行ってもいいですか……? きっと、元気なアンさんに会えるって信じても、いいですか。


 当然返事は聞こえないけれど、それでもきっと笑顔でうなずいてくれると信じられる。この手紙は大切にしよう。また会いに行く日まで、そしてそれからもずっと。


―――――――――

  順調にお茶会を重ね、王妃様からのご指導ももう合格点をもらっている。最初は怖かった交流だったけれど、快いものも多いと知って今は楽しみになっているくらい。

 そんな日々の中で、ギフトによる頭痛や発熱はよりひどいものになっていた。そのせいで急遽お茶会を欠席することも度々あった。その時はマリー殿下がフォローしてくださっている。


 そんな風に過ごしていると日々が過ぎるのはあっという間で。14歳のデビュタントが間近に迫っていた。ユースルイベ殿下とは相変わらず……。もしユースルイベ殿下の口から私が婚約者であることに不満があると言われてしまったら、そんな考えが捨てきれなくてゆっくりと話すことを避けてしまっている。それがよくないことはわかっているけれど、どうしても勇気を持てないのだ。


 その分、というわけではないけれど、パルシルク殿下とは以前にもまして話すようになったけれど。


「フリージア様!

 見てください、デビュタントのドレスができあがりましたよ」


 嬉しそうなアンナは部屋に運び込まれたドレスを示す。純白な布と糸で織り込まれたそれ自体が輝いているかのようなドレス。このデザインを決めるまでが本当に大変だった……。私より一足先にデビュタントをしたマリー殿下、王妃様、そしてアンナ。3人ともこだわりがね、うん。当人よりも白熱してらっしゃいました。


「本当にきれい……」


 それでも、完成されたこのドレスを見るとこだわりをもつのも納得かもしれない。ちなみにドレスの費用は実家と陛下が持ってくださいました。そして、材料や制作はセンタリア商会、リンガー布店が請け負ってくれた。私のためなら、とかなり特別扱いで作ってくださったそう。本当にありがたい。


 フィーアとして過ごしてきた時間がこうして今もつながっていることが、こんなに嬉しいことだとは思わなかった。


「本当に素敵です。

 このドレスを着たフリージア様を見られることが楽しみです!」


「うん、私も楽しみだわ」


 このドレスをつくるために尽力してくれたセンタリア商会の皆やリンガー布店の方に見せられないことは残念だけれど。それでも、当日は叔父様も、夜会には出られないけれど、ナフェルも来てくれる。どうか当日はギフトに邪魔されませんように、私にはそう願うことしかできなかった。


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