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 金の髪の半分を複雑に結い上げたその人は、少しだけ申し訳なさそうな表情をしていた。


「マリアンナ殿下……」


 確かに、招待状は出した。だけれど、今日までその返事はなく。だから、来ないのだと思っていた。今まで、一度もほかの招待に応じたことがないように。だけれど今、いつもとは異なる雰囲気のマリアンナ殿下が向こう側から歩いてきていた。


「ま、マリアンナ殿下、ですか?」


「どうして、こちらに……」


 私の口から滑り出たことばと周りの様子から、今こちらに向かっている令嬢がマリアンナ殿下だとほかの参加者も思い至ったのだろう。よく教育された令嬢にしては珍しいほどに目を丸くしている。マリアンナ殿下の方を見ている人もいれば、私の方を見て戸惑っている人もいる。私とマリアンナ殿下との関係性を知っている人はここにはいないから、その戸惑いも当たり前のものよね。


「遅れて申し訳ありません、フリージア様。

 この度は招待していただきありがとう。

 途中からになってしまうけれど、参加しても大丈夫かしら?」


 一度もお茶会に出たことがないとは思えないほど、堂々としたふるまいを見せるマリアンナ殿下。そんなマリアンナ殿下に驚きながらも席を勧める。ほかの令嬢方は慌てて殿下に挨拶をし始めた。


 一通り殿下との挨拶が落ち着いた後、私にギフトを聞いてきた令嬢が真っ先に口を開く。この方、本当に勇気がある方ね……。


「あの、マリアンナ殿下とフリージア様はどのようなご関係なのですか?」


「どのような、ですか?

 親しい友人であり、将来の姉妹ですわ。 

 ね、フリージア様」


 にこりとほほ笑んで、こちらを見るマリアンナ殿下。その笑み一つもうっかり見とれてしまいそうなほどに美しい。マリアンナ殿下は、こんな人だったかな。もっと無邪気な、感情豊かな人だと思っていたけれど。


「そんな、恐れ多いです。

 ですがとても嬉しいです、マリアンナ殿下」


「まあ、いつものようにマリーと呼んでいただいていいのに」


 くすくすと上品に笑った後、殿下は紅茶に口をつける。マリー様なんて、この関係性になってから一度も呼んだことはないのに。今日のマリアンナ殿下はなんだかいつもと違いすぎて戸惑ってしまう。


「そうなのですね!

 そのように仲が良いなんて羨ましいですわ」

 

 一人の令嬢がそう口にすると、すぐに他の令嬢も本当に、と賛同していく。そんな周りの人に何とか微笑みを返した。


 マリアンナ殿下の参加もあって、お茶会は無事に終了した。最初は私もほかのご令嬢も緊張した様子があったけれど、それも会話しているうちになくなっていったし、みんな上位貴族のご令嬢なだけあって変に持ち上げたり取り入れられようとしたりといった様子がなかったのも大きいと思う。マリアンナ殿下以外の同年代の人と話すのは私としても久しぶりで思っていたよりも楽しい時間を過ごすことができた。


―――――――――

「そう、マリアンナも来たのね」


「はい!」


 お茶会の2日後、今日は王妃様と会っていた。翌日は疲れもたまっているだろうからとお休みになったのだ。その日はほとんど一日寝て過ごしてしまった……。


「マリアンナもそろそろ王女としての自覚をもってもらいたかったから安心したわ。

 ……それよりも、初めてのお茶会お疲れ様。

 招待したご令嬢の反応も好意的だったわ」


「ありがとうございます。

 王妃様のおかげです」


「今日は特別なお茶を用意したのよ」

 

 どうぞ飲んで、と勧められたお茶を口にする。口に入れた途端、複雑な花の香りと優しい甘さが口に広がる。それでも後味は紅茶のすっきりとしたものでとても飲みやすい。


「おいしいです……。

 これは、はちみつ紅茶ですか?」


「ええ。

 茶葉は私の実家から毎年送られてくる一級品よ。

 そしてはちみつは……、センタリア商会から献上されたのよ。

 一年で小瓶3つ分しか取れない最高級品。

 お金を出したって買えるものではないわ。

 それを私とあなたにそれぞれ一瓶」


 思わず言葉を失う。どうして、そんなに貴重なものを。しかも献上という形で……。私は何も言わずに、恩も返せずに去っていったというのに。


「あなたが贈ったもののお礼だと話していたそうよ。

 ……愛されているのね」


「そんな……」


 贈り物なんて、そんな価値があるものじゃないのに。確かに一針ずつ丁寧に、願いを込めて刺繍していったけれど……。王妃様の愛されている、という言葉に涙があふれていく。本当に大切にしてもらった。もう、つながりを持てないと思っていた。それなのに。


「私はあなたがここに来る前、どのような暮らしをしていたのか知りません。

 でも、そのときの自分を、出会った人を、大切にするのはいいことだと思うわよ」


「っ……、はい」


 王妃様から手ずから渡してくれた小瓶を受け取る。小瓶に詰められたはちみつは黄金色をしていて、それ自体が芸術品のようだった。


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