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 ナフェルのことは気になるけれど、今は目の前のことだ。一度着ていたドレスを脱ぎ、部屋着を着せてもらう。コルセットがないだけだいぶ楽になった。一息ついていたらアンナがお茶と軽食を持ってきてくれた。朝から忙しくてお腹がすいているはずだけれど、なぜか空いていない。軽食くらいがちょうどいいから助かったかも。


 ってそうだ。今だったら聞けるのでは?


「ねえアンナ?

 それで、どうしてあなたがここにいるの?」


 私の言葉に、驚いたようにぱちぱちと目を瞬かせる。それから、ああ、とうなずいてくれた。


「ユースルイベ殿下にお声がけいただいたのです。

 お嬢様のお世話をしてもらいたいから、王城に上がってもらいたいと。

 本当に驚いたのですよ?」


「ユースルイベ殿下が……?

 わざわざ?」


「はい。

 ある日急にシュベルティー家の御屋敷にいらっしゃって、旦那様方と何かお話をされていました。

 そのあとに私が呼ばれて、そう伝えられたのです。

 急に新しい環境にさらされるから、フリージア様の支えになってほしいと頼まれたのです」


 ……どういうこと? ちょっとアンナの話についていけない。なぜユースルイベ殿下がわざわざ私の実家に出向いて、一侍女であるアンナに願いをしたの?


「見つかってしまった、と焦りましたけれど、ユースルイベ殿下を見て安心いたしました。

 大切にしていただいているのですね」


 にこにこと笑うアンナに何も返すことができない。はは、と笑ってごまかしておく。不思議な顔はしたけれど、それ以上は何も言わないでいてくれた。


「もう少し休んだら、着替えましょうね」


 それまで休んでいてください、とアンナが部屋を出ていく。部屋に誰もいなくなったところで、私は机にうつぶせた。ユースルイベ殿下は優しい。私にもかなり気を使ってくれていると思うし。でも、それはきっと本心ではないよね。


 ぐだぐだと考えていたら、時間がやってきたようだ。また着付け要員と共にアンナがやってきた。今度は先ほどよりも軽装。だけれど、しっかりコルセットはつけるし、それなりにドレスも重い。これが終わったら今日は休めるんだものね。あとひと頑張り。


 手早くドレスを着せてもらい終わったあと、ユースルイベ殿下が部屋へとやってきた。こちらも先ほどとは服装が変わっている。フェルベルトのさらに後ろには見慣れない男女が2名ずつがついていた。


「そのドレスもよく似合っているね」


「ありがとうございます。

 あの、そちらの方々は?」


「ああ、また後日きちんと紹介するけれど、君に付くことになった事務官たちだ。

 恒例通り、王城から2名、神殿から2名いる」


 その言葉になるほど、とうなずく。ギフトで視るといつもいてくれたら、と思っていた事務官。正式にギフトが認められたから、付くのは当然だよね。


 国民への顔見せの時に私の後ろにつくために、ひとまず顔合わせが行われたのだろう。自己紹介だけ軽くしてもらって、さっそく場所へと向かうことになった。


 そこには私が想像していたよりも多くの人が待っていた。今回顔を出した後、私は基本的には外に出ることがない。王太子妃、王妃が顔を出さないわけではなくて、多くの場合結婚できる年齢には体の体調が整わないことが多いだけだけれどね。


それを知らない国民が、最初で最後の機会だと詰めかけたのだろう。私を見ることにそんな価値はないのに。そんなことを考えながら、笑顔を張り付けて手を振ってみる。それだけでわっと声が上がる。


すごいな、と隣で殿下の声がした。うん、本当にすごいよね。『神の目』に対する人々の期待は。私は視る内容を選べないのに、このギフトで自分が救われる日が来るのではないかと期待する目。ああ、重いな。


 そんなに長い時間ではなかった。けれど、なんだかどっと疲れて私は自分の部屋へと戻ってきた。もう休みたい、と告げるとすぐにドレスを脱がされて部屋着を着せてくれた。お化粧も落としてもらうと、ベッドにもぐりこんだ。


 今だけは何も考えたくない。ユースルイベ殿下との関係、王太子妃に必要な勉強、ナフェルのこと、国民の期待。


 区切りをつけないと。今までのフィーアとは。センタリア商会の皆への贈りものはもう完成する。アンフェルタさんのこともきっと事務官の方たちがどうにかしてくれる。私が、あの優しい人たちにしてあげられることは、もうない。


 ユースルイベ殿下はきっともう区切りをつけたのだ。王太子でも、王族でもなかったルイさんに。私たちの関係はこれから作っていくものだけれど、ユースルイベ殿下は私のことをどう思っているのだろう。サラシェルト殿下の時のように裏切られるのかな……。


 ぐっと目をつむる。今は、休もう。なにも考えないで。



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