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「ここが君の部屋。

 僕の部屋とは続き部屋になっているから、何かあったらすぐに来てくれて構わない」


「続き部屋、ですか……?」


 部屋が隣だという時点でおかしいのに、続き部屋? それではまるで妻のような扱いじゃない。いくら私のギフトが特殊とはいえ、それは許されることではないはず。


「すぐに別の部屋をお願いします。

 まだ婚約者なのに、続き部屋なんて」


 そう言うと、なぜだか気まずそうに目をそらされた。……今更だけれど、どうして殿下が直接案内をしているのだろう。普通、侍女が侍従がやらないかしら? 立太子したのだし、きっと今はお忙しいはずなのに。


「これは……、陛下からの提案なんだ。

 その、僕から使うことは基本的にはないから安心してほしい」


「陛下からの?」


 ますます意味がわからない。一体何をどう考えたらそういう気の使い方になるのだろうか。


「その、詳しい話はまた後で。

 今は部屋を確認してもらいたい」


「……はい、わかりました」


 納得はできないけれど、ひとまずうなずいておく。ここだよ、と部屋の扉が開けられる。……明るい。思わず感嘆の声が漏れてしまいそうになる。センタリア商会でも十分すぎるほどにいい部屋を用意していただいていたけれど、ここはそれ以上ともいえる。桃色と白色を基調とした色合いでとても可愛らしい。床に敷かれているカーペットも一歩踏み出すだけでその高級さが分かる。


「本当にここが私の部屋なのですか?」


「ああ。

 気に入らなかっただろうか……?」


「いいえ、十分すぎるほどです。

 ありがとうございます」


「それは良かった。

 何か希望があれば伝えてもらいたい。

 それで、あなたに付ける侍女なのだが……、明日紹介させてくれ。

 護衛騎士にはもちろん聖騎士殿をつけている」


「わかりました」


 侍女をつけてくれるのか、と一瞬思ったけれど、王太子の婚約者なら当たり前か。むしろ今ついていないのが不思議かもしれない。


「部屋の中は後でゆっくり見てもらうとして、少し話をしようか。

 そうだな、僕の部屋でいいか?」


「で、殿下の部屋、ですか?

 大丈夫、ですが」


 驚きから抜け出せないまま、部屋をでる。扉の傍にはいつの間にかフェルベルトが待っていた。そのままユースルイベ殿下の私室だという部屋に入る。私用に用意された部屋と対になっているはずのその部屋は、雰囲気が全く違っていた。


 必要なものを最低限用意した、という感じの殺風景な部屋。置かれているのは一級品のはずだけれど、どうにも寂しい。とても王太子の私室とは思えなかった。


「ああ、こんな部屋ですまないね。

 すぐにお茶を準備させよう」


 そう言うと、部屋の隅に控えていた侍女に視線を送る。侍女は一礼すると部屋を出て、少しししてワゴンと共に戻ってきた。生活感のあまり感じられないこの空間はなんだか緊張する。ユースルイベ殿下も侍女がワゴンをもって戻ってくるまで何も言わないから、余計気まずい……。ちらりと盗み見ると、やっぱりルイさんとは違う気がする。


 無言で侍女がお茶を淹れて茶菓子を置いていく。一礼して部屋を出ると、部屋にはユースルイベ殿下と私の二人きりになった。婚約者だけれど、未婚の人たちがいいの……? まあ突っ込みはしないけれど。


 侍女が出ていったのを確認すると、ユースルイベ殿下は長く息を吐きだす。そしてぐしゃぐしゃと上げていた髪を乱し始めた。ちょっとびっくり。王太子が人前でいいのかな、なんて。でも、乱したあとの髪を下ろした姿がルイさんと重なる。同じ人物なのだから当たり前かもしれないけれど。


 そのまま、用意されたお茶とお茶菓子に口をつける。それを真似するように私も口をつけた。うん、おいしい。ちらりとユースルイベ殿下の方を見ると、カップを置いてこちらを見ていた。


「こちらへついてからバタバタとしていて申し訳ない」


「いいえ、気にしないでください」


 私の言葉にユースルイベ殿下は薄く笑う。その笑みはなんだか寂しそうだった。


「疲れているところ申し訳ないが、明日の確認をしてもいいかな。

 明日もかなり忙しくなる」


 私がうなずくとユースルイベ殿下はつらつらと予定を述べていく。ああ、これは本当に忙しい一日になりそうね。


「そうだ、弟君との面談はどうしようか。

 子爵令嬢に戻ったから、一度今のシュベルティー家の面々に会う必要があると思う」


「ナフェルに、会えるのですか」


「うん?

 もちろん」


 ナフェル。かわいい弟。今どう過ごしているのだろう。もしかしたら私のことを恨んでいるかもしれない。それでもいい。あの子は一体どんなギフトを授かるのだろう。


「私はいつでも大丈夫です。

 早く会いたいくらい」


「そうか。

 君に会いたい気持ちがあるのならば明日……、明後日くらいには場を整えられるかもしれない」


「そんなに早くですか⁉

あ、ありがとうございます」


「ああ、明日の婚約式に参加してもらう予定だからね」


「そうだったのですね」


 でも、考えてみれば当たり前か。両方の親族、最低でも父親は参加するものだものね。


「……、君はもうルイとしては接してくれないのだね」


「え……?」


 どうして急にそんなことを。ルイさんではなく、ユースルイベ殿下として接したのは殿下の方だ。私はむしろ、そこにルイさんの面影を探しすぎている。


「いいや、なんでもない。

 ここからまた始めればいいのか」


 最後の一言はよく聞き取れなかったけれど、また寂しそうな眼をしている。どうして。


「今日はもうゆっくりと休んで。

 ひとまず王城のメイドを君に付けよう」


「ありがとうございます……」

 

 なんだろう、このもやもやは。やっぱり、センタリア商会の方が好きだったな。


 ちなみに疲れ切っていたけれど、例の家庭教師という女性が部屋にやってきて、明日やらなければいけない礼を特訓させられました。



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