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 フェルベルトの裾をつかんだまま静かに泣いていると、扉が開き誰かが入ってきた音が聞こえた。その人とフェルベルトが何かを離しているけれど、頭に入ってこない。少しして、今度はその人が出ていく音がした。


そのあとフェルベルトはガシャリと音を鳴らしながら、鎧を脱いでいく。すべて脱ぎ終わったのか音がしなくなると、すみません、と言ってベッドに上がってきた。


「なにか、怖い夢でも見ましたか?

 大丈夫です。

 私が傍におりますから」


 優しい声でそう話かけてくれると、体を抱きしめて頭をなでてくれる。手が少し冷たく感じて、自分が発熱していることに気がつく。頭をなでてもらえると、ひどい痛みが少し緩和していく気がする。


「うん、ありがとう……。

 私の、傍にいて、最期まで」


 久しぶりに近くに感じる人の気配に、ほっとする。まだ涙は止まらなかったけれど、少し落ち着いた。今世は、フリージアはどんな結末を迎えるのだろうか。


 頭の痛みを遠くに感じてまどろみ始めたころ、再び扉が開く音がした。さっきの人、とか?


「ランパーク卿、連れてまいりました……、っ!

 何を⁉」


「静かに、ようやく落ち着かれたところだから」


「で、ですが……」


「少し失礼します」


 何かを言い合うフェルベルトと男性の声が聞こえる中、別の人が私に触れる。体調はどうですか? と聞いてくる声に、この人は医者だろうとあたりをつける。本当はしゃべるのも億劫だけれど、頭が痛い、と伝える。


「辛いですね。

 今痛みを緩和する薬を出しますから。

 熱も……かなり高いですね」


 医者の言葉に何とかうなずく。医者と話している間にフェルベルトの方は話が付いたようで、いつの間にか静かになっていた。一度医者が出ていった後に、お水を、と言われてのどが渇いていたことを思い出す。おとなしくお水を飲んでいると、すぐに医者は戻ってきた。


 言われるままに苦い薬を飲むと、ベッドに横たえられる。さすがに目が覚めた時よりは落ち着いていたから、今度は素直にしたがっておく。きっちりとベッドに入れられると、片手で頭をなでられ、優しい声で子守唄をうたわれた。


 もう、子供じゃないのに……。でもそれが心地よくて、私はそのまま眠りに落ちていった。


――――――――


 次に目が覚めたのは明らかに朝ではなかった。というか、夕方……? ああ、そっか。私が体調を崩してしまったから、予定が押してしまったのか。もういっそ私のことを置いて行ってくれればよかったのに。いや、もしかしたらそうしてくれた? なんて。


 まだ体が重いし、熱もある気がするけれど、頭痛は少し楽になっていた。のどが渇いたな、と思って横を見ると水差しが用意されていた。良かった、人を呼ばずに済む。


 はぁ、また聞かれるのかな。何を視たのか。まあ過去の自分を視たときはその内容を離さなくていいという不文律があるから、今回は見逃してもらえるだろうけれど。どうなるんだろう、これから。ずっと考えていたけれど、考えないようにしていたこと。


 コップを持つ自分の手を見てみる。そっか、私の手はまだこのくらいなんだ。いろんなことを視てきた。過去の自分を視たとき、直接感情が入って来ることもあった。そうすると自分が誰なのか、何歳なのか見失いそうになることがある。


 でも、今の私は、フリージアはまだ11歳……。まだ、11歳なんだ。マゼリアだって、この歳はまだ親の庇護のもとで、サラシェルト殿下と楽しく過ごしていた。どうしてこうなってしまったのだろう。


 もしも人生を選べるとしたら、私は何を望んでいたのだろう。公爵令嬢はだめだった。子爵令嬢も。平民は幸せだったけれど、ギフトは苦しかった。いいえ、きっとこのギフトがある限り、どの身分でも苦しい。ならきっと身分は望まない。


でも、じゃあこのギフトを捨てられるかと言われたらきっと無理だ。このギフトがあるからこそ救えた命もある。そこは後悔していないもの。


きっと私はとても恵まれていて、恵まれすぎているからこそ贅沢を言っているのだろう。そう思っても割り切れない想いが多すぎるけれど。ああ、本当に。今世こそはギフトを隠し通しておとなしく、平和に生きようと思っていたのになぁ。


 まとまらない思考でそんなことを考えていると、ノックの音が聞こえる。それに返事をすると、焦ったように扉が開かれた。


「フリージア様⁉ 

 目が覚めていらしたのですね。 

 安心いたしました」


 その人は着替えや湯を持っていて、身を清めに来てくれたことが分かった。ちょっと大げさでは? と思っている間にほかの人を呼びに行ってしまった。


「汗をかかれたでしょうから、まずは身を清めましょう」


「次はお食事を」


「それが終わったら……」


「わかった、わかりましたから!

 一つずつ進めてください……」


 そんなに一気に言われてもわからないよ……。結局侍女のなすがままになってしまいました。


 一泊の予定だった屋敷を出発することができたのは、到着から4日経った日のことだった。マリアンナ殿下だけでも先に行けばよかったのに、待って一緒に行くことになったみたい。警備の関係と言われてしまうとそれ以上何も言えなかった。申し訳なさはあるけれど、領主は嬉しそうだったから、まあいいの、かな?



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