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「回復したばかりで申し訳ないのですが……。
明後日には王城のお茶会に招待されています。
侍女を通してお嬢様が体調を崩されたことは話したのですが、奥様がそれでも出るように、と」
翌朝、気まずそうに部屋に入ってきたアンナに話を聞くと、気がかりはどうやら明後日のお茶会のことらしい。うん、そうよね。外面重視のあの母が体調を崩したからと言っていかなくていいと言ってくれるわけないわね。寝込んでいる最中ならまだしも、もう回復しているのだから。
「ちゃんと行くわ。
お母様も納得されないでしょうし」
今回は王子殿下も参加されるお茶会。お母様はいつも以上に力が入っていたもの。それでも心配そうにしているアンナに少しだけうれしい気持ちになる。アンナはいつでも私自身のことを想ってくれているから。
「あの、お茶会用にとても素敵なドレスを仕立てましたから!
その……」
そういえば、先日合わせたドレスがあったわね。全体的に色が薄い私によく合う薄ピンクとレースをふんだんに使ったドレス。流行を勉強して、始めて自分の意見を取り入れてもらえたドレス。誇らしく思っていたけれど、そんな気持ちもこの数日で薄れてしまった。
それでもあのドレスはとても好きなデザインだった。いつも最期は着飾ることもできないまま、寝間着で寝込んでいることが多いから。好きな服を着て、自由に動ける。それだけでも気持ちが上がってくる。
「ありがとう、ドレスを着ることを楽しみにしているわ。
後でナフェルのところに行ってもいいかしら?」
「あ、はい!
朝食後に行きましょう」
アンナに髪を整えてもらって、部屋着用のドレスに着替える。まだ本調子ではないし、本当は部屋で食べられる方が楽なのだけれど。ナフェルがまだベッドから出られていないのなら、きっと両親が朝食の場に姿を現すことはないと思うけれど……。万が一食堂に来ていたら、私がいなかったらなんて言われてしまうか。
一つため息をついて、私は食堂へと向かった。
食堂に着くとやはり誰もいない。いつものことよね、と思いながら席に着くとまだ温かいパンを口にする。うん、おいしい。それにしても、と周りを見渡してみる。すると、シェフやメイドが気を使ってくれているのがよくわかる。パンの他のメニューがほとんど私の好きなものだった。
……私、こんなにも周りの人に大切にされていたのね。今までは全然気が付かなかったわ。愛してもらいたいって両親にばかり目を向けていたから。なんだか、朝から元気になれた。
ゆっくりと好きなものを食べておなか一杯になった後は、庭園に寄ってからナフェルのところへ。今日からお茶会まで、授業は免除になっていた。こんなにもゆっくりと過ごせるのも久しぶりかもしれない。
「ナフェル、今日の調子はどうかしら?」
庭園で摘んだ私たちの瞳と同じ水色の花を差し出しながら尋ねると、ナフェルはゆっくりと瞳を開けた。よかった、今日はずいぶん顔色がいい。すぐに体を起こしたところを見ると、体調がいいのだろう。
「姉さま!
体調を崩されていたと聞きました。
もう大丈夫なのですか……?」
「ええ。
ナフェルも今日は元気そうね」
「はい!
お花、ありがとうございます」
にこりと無邪気な笑顔を見せる弟はかわいい。ぴょこんと寝癖が付いている頭を優しくなでると癒される!どうしてこの家でこんなに素直に育ってくれているんだろう。まあ、それだけ両親もこの子には甘いのかもしれないけれど。
「姉さま、王城のお茶会に行かれるのですか?」
「あ、ええ」
「いいなぁ。
きっと王城にはとってもきれいな花が咲いていて、お菓子もおいしいんだろうな……」
「あなたも元気になれれば行ける機会があるわ。
きっと大きくなれば体も強くなっていくし」
「本当?
僕、ちゃんと我慢しますね」
「偉いわね」
「えへへ。
明日、王城に行く前にドレス姿見せてくださいね?」
「ええ、きっと。
あとで庭園でもお散歩しましょうか」
私の回復にもちょうどいい、と誘ってみるとナフェルは大きな瞳をさらにまん丸にした。
「え、いいのですか⁉
でも、姉さまお忙しいのでは?」
「今日と明日は授業がないの。
だから大丈夫よ」
そういうとやった、と嬉しそうに笑うナフェル。本当に、この家での癒しだわ。うん、やっぱりアンナによく頼んでおかないと。人によって態度を変えまくるあの両親に毒されてはだめだわ。
そうして2日間、両親に会うこともないまま平穏に過ごした。
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