ティータイム
評価とブクマ、ありがとうございます。嬉しくて泣きそうです。明日(水曜日)は更新お休みします。
昨日の寒空とは打って変わり、今日の空は麗らかに晴れ渡っている。私は伯爵家の美しき令嬢、セリアンヌ・シュタベル様のお屋敷に招かれて、ティータイムを楽しんでいる最中だ。
「……という訳なんだけど、どう思う? セリアンヌ様は」
紅茶を啜り、ジャムとバターを使ったお菓子を頬張りながら、昨夜の舞踏会の事を相談する。
「あの、ロメリア。前にも言ったけど、わたくしの事はセリアンヌと呼んで?」
「あ、うん。セリアンヌ」
ついつい様付けで呼んでしまいたくなるけど、我慢、我慢。気品があって、綺麗かつ可愛い人を見ると、自然と様付けしたくなるのよね。もちろん、爵位が私より上の令嬢たちには様付けで呼んでいるけど、セリアンヌの場合、例え爵位がグレイス家と同程度でも様付けしたいくらい魅力的なのよ。
そんなセリアンヌと私の仲は、デビュタントとして舞踏会に足を踏み入れた日以来、着々と友情を育んでいた。何回か舞踏会や夜会で顔を合わせ話をしていく内に、こうして屋敷に招いたり招かれたりする仲になったのだ。自分では解決出来ない事も、頭でっかちになって身動き出来なくなる事も、セリアンヌがいれば心強い。緊張体質の話下手で上手くいかない者同士、情報や客観的な意見を交換し合い、幸せな結婚へと切磋琢磨し合っている。
「わたくしが思うに、リリアム様はロメリアの事が好きなのだと思いますわ」
「ええ!? どうして?」
「リリアム様は少なくとも昨夜、ロメリアを誰とも躍らせなかったでしょう?」
「それはさっきも説明したけど……」
「それに、パーティーでロメリアに会った事を覚えていたのも気になります。ロメリアは覚えていないのに、リリアム様は11歳のロメリアを覚えていた……。そこに何か鍵がありそうですわ」
「なる程……」
「ふふ。ロメリアはもっと自信を持って、リリアム様を押し倒せば良いのですわ!」
た、頼もしい……。初めて会った時、緊張して震えていたセリアンヌとは思えない程だ。振り上げた拳も可愛いな。席を立ってしまう所も見た目と性格に生じているギャップも、全部可愛い。
どれだけ見ても飽きないセリアンヌの可愛さと美しさに、うんうんと頷いておいた。
「さてと、私の話はこれくらいにして……。セリアンヌはどう? 気になる人見つけた?」
「み、見つけましたわ。わたくし、男性に運命を感じた事なんてなかったのですけど、あれは運命でしたわ」
腰を下ろし、拳も下げて、セリアンヌは頬を赤らめた。
「運命……の男性か。相手の名前は?」
「カイル・シュレーゲル様です」
ゴフォ、ゴフォ、ゴフォ……。盛大に咽た。
「だ、大丈夫? ロメリア」
「い、いや、大丈夫……じゃない。カイル・シュレーゲルって私の幼馴染じゃない」
カイル・シュレーゲル。伯爵家の子息で、私の幼馴染。私のデビュタントパートナーをしてくれた相手でもある。名前で呼び合う気心知れた仲だけど、そこに恋愛感情は全くない。気弱で優しそうな外見なのに、中身はがっつり肉食系で物怖じしない性格。そこが人気ならしいけど、色々手強そうだ。
「……わたくし、ロメリアと出会わなければ、今頃は結婚をして子供を産んでいたってお話を前にしたでしょう? 家のために心を殺した結婚をして……」
「セリアンヌ……」
「ロメリアに出会って、友達になって、結婚に対する価値観が変わった事は、わたくしにとって救いでしたわ。お父さまに我が儘を通して良かった。だって、気持ちがある“コンカツ”が出来ますもの」
以前、セリアンヌに前世の話を少しだけした事がある。その時に話した“婚活”の話や私の結婚観を覚えていたのだろう。私の話が少なからずセリアンヌに影響を与えた事を喜ばしいと思ってしまうのは、悪い事ではないわよね。
目の前にいるセリアンヌが嬉しそうな顔をしているのが、きっと全てだ。
「それで……。カイルのどこに運命を?」
「それはね……」
それから小一時間、ずっと運命の話を聞いた。セリアンヌは恋に落ちた乙女の瞳をして、嬉しそうに話をする。カイルについて少し助言をしたら、すぐに行動に移すと言っていた。どこまでも真っ直ぐで、純粋な彼女を見ていると眩しい。この恋が実る事を祈るばかりだ。
セリアンヌの話を十二分に聞いた後、私は別れを告げて屋敷を出た。
帰りの馬車の中で、セリアンヌに言われた事を考えてみる。
「……リリアム様が私の事を好き?」
セリアンヌはそう言ったけど。
デビュタントとして初めて舞踏会に行った時、リリアム様に出会った。その時から昨日の舞踏会まで幾らかの月日は経っているのに、私はリリアム様に一度も声をかけてもらっていない。私は私で、他の男性の人となりを見るので忙しくて……。リリアム様だってそうよ、令嬢たちに囲まれていて、私の事を見向きもしなかった。
私が出席した舞踏会や夜会には、いつもリリアム様がいたというのに。
もし、私の事が気になるなら、もっと早く話しかけていたはず。だから、セリアンヌの予想は外れそうね。
「でも、11歳の時に出席したパーティーの事は気になっているのよね。何か引っかかるというか……。お父さまに聞いてみようか」
そんな結論を出してから、馬車の揺れに身を委ね瞳を閉じた。
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