舞踏会、再び②
見開いた群青色の瞳が寂しそうに見えた。でも、そう感じたのは一瞬で、すぐにいつものリリアム様に戻ってしまったけど。
「社交界の悪夢、か……。父が勝手に取り付けた婚約を適当な理由を付けて破棄していたら、いつの間にかそんな異名が付いていた。それだけの話だ。相手の令嬢の方も僕の容姿や家柄だけで判断して肝心な中身を見ていないから、婚約破棄しても相手に悪いとは思っていない。そんな結婚は無意味で吐き気がする。それに僕は、好きな人と結婚がしたい。そんな考え、少数派かもしれないが」
ああ、同じだ。私もリリアム様と同じ考え。嬉しい。この世界にもこんな風に考える人がいたのね。
「リリアム様、私も同じです。本人の意志がない家同士の結婚なんてまっぴらごめんです。私も好きな人と結婚したいから、こうして人となりを見るために社交界に足を運んでいて……」
「僕はどう? 僕はロメリアの目から見て、その人となりは合格?」
「え? そ、それはまだ分からないけど……」
「そうか、もう少し頑張らないといけないかな」
リリアム様は考え込むような仕草をして、黙ってしまった。
どうしよう、話題が途切れた。気まずい……。何か話を続けなくちゃ……。話題、話題……。
「……あ、あの、リリアム様は結婚相手に何を望みますか? あと、好きな女性のタイプは?」
ああ~、最悪。これじゃあ見合い相手に聞く質問まんまじゃない。もっと心の距離が近付くような会話がしたいのに、どうやったら自然な会話が出来るのか分からない……。お酒の失敗といい、会話の不自然さといい……。はぁ。
質問した瞬間に落ち込んだけど、リリアム様は私を小馬鹿にしなかった。
「好きな人と結婚出来る事が望み、かな。欲を言えば、一日一回は愛情表現をしたいから、受け入れてくれると良い。好きな女性のタイプは、思いやりのある人。怖いものを嫌悪し排除するのではなく、怖くても慈しみを持って接する女性には好感が持てるね」
胸がズキッとする。質問に真面目に答えてくれたのは嬉しいけど、好きな女性のタイプが妙に具体的だった。それってやっぱり……。
「好きな人が……?」
「鋭いな。さすが人を良く見てる」
誤魔化しもしない程、一途に想っている相手がいるのだろうか。じゃあ、もし私がリリアム様の人となりを好きになっても、片思いのままで終わる? もっと話がしたいって思った男性は、初めてだったのに……。
残念だけど、ここが引き際かもしれない。
だって聞く勇気がない。好きな人は誰ですかって聞く勇気が……。それで知らない令嬢の名を告げられたら、立ち直れない。私の意気地なし。きっぱり断られた方が後腐れないのに。
婚活ばかりしてると、臆病になるのよね。
「……上手くいくと良いですね、その令嬢と」
「そうだね。その女性がもう少し周りで起きている事に敏感だと良いけど」
「?」
どういう意味? まぁ、私は望み薄だし、これ以上踏み込んじゃいけないのよね。気持ちを切り替えていこう。
「お話出来て楽しかったですが、そろそろ次のダンスが始まります。先に行きますね……」
「誰かと踊る予定が?」
「さあ……。適当なパートナーとか? 踊って会話をしてみないと、何も分かりませんから」
踵を返し去ろうとしたけれど、リリアム様が私の手を離してくれない。
……え、何!? リリアム様、急に機嫌が悪くなった? 何でそんな目で見るのよ。さっきまであんなに優しそうな顔をしていたのに、今はまるで隠し持っていた武器を突き付けられているような……。例えるなら、そうね。蠍オーラが半端ない感じ? 毒針でグサッみたいな……。ああ、エリオットの影響ね、こんな例え方をしてしまうのは。
「ロメリア。舞踏会が終わるまで、僕と一緒に過ごして欲しい」
はいぃぃ? どういう意味でしょうか。自惚れる前に、説明が欲しい。
「それは、令嬢避けが欲しいという事ですか?」
「違う。そのままの意味で受け取ってくれ」
そんな事を言われても、私にはリリアム様の考えが分からない。好きな女性がいるのに、私にそういう発言をする事も。
有り得ない仮定話。リリアム様が私を好きでこういう事を言っているのだとしても、私にはその理由さえ分からない。むしろ、その仮定話にさえ寒気がする。色々な男性と話している内に、私は酷く自分は愛されないんじゃないかという思いが強くなった。幸せな結婚を夢見る一方で、誰からも愛されずに一生涯を終える事を想像している。
――――ああ、そうか。これはリリアム様の気まぐれだ。いつも令嬢たちに囲まれているから、たまには羽休みがしたいのね。そういう理由なら、納得出来る。
そう思ったけど、この日からリリアム様と私の距離は間違えなく変わった。
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