表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/42

舞踏会①

 後から詳しく聞いた話、社交界でのリリアム様の人気は凄まじく高く、婚約中でも諦めずに猛アタックする女性が後を絶たないらしい。というのも、リリアム様は婚約しても破棄する可能性が高いそうで、あわよくば奪えると思う女性が多いのだとか。


 もちろん、そんな話を聞いたからといって、私の行動指針はブレる事もなく。


 デビュタントとして一回舞踏会へ足を踏み入れてしまった後は、何回か舞踏会や夜会へ足を運び、色々な男性と話をしたり踊ったりして、社交界の経験値を順当に積んでいった。異性との会話も、微々たる程度で向上中だ。



 で、肝心の結婚相手候補だけど、リリアム様以上に気になる男性がいなかったりする。


 自分に言い訳するようだけど、決して面食いな訳じゃない。ただ、リリアム様以上に心を動かされた相手がいなかったのだ。容姿が受け付けないとか、そういう問題じゃない。


 見え隠れするマザコン気質、度が過ぎる女性蔑視発言、手が早い、口が軽い、金銭感覚の違い、家同士の結婚に何も疑問を抱かない、愛のない結婚をしながら他に愛人を作る思想を持っている、など結婚相手に選びたくない理由はそんな所だ。前世とほぼ変わらない結婚相手に譲れない部分で、結婚が遠のいていく。


 選べる立場じゃないけど、結婚相手に好意は持っていたい。尊敬する部分も欲しい。婚約して欲しいという手紙ももらったけど、何かと理由を付けてお断りした。


 私は自分で結婚相手を見付けたい。


 でも、色々条件を付けると、どの男性も候補から外れていく。


 ただ一人を除いては。




「望み薄そうだし、あまり気は進まないけど……。後はリリアム様……か」


 近付いた時、とても良い匂いがしたっけ。思い出せば思い出す程、記憶を美化してしまうわね。


 ――――いけない、いけない。


 良く知る前から先入観持っては、正しい判断が出来ないから……。あ、そう言えば、リリアム様と出会ってから、一度もリリアム様とお話していないかも。


 ん? ちょっと待って。


 私、リリアム様の性格や結婚に対する考えを知らない以前に、好きな食べ物さえ知らない! そんな初歩的な事も……。


 リリアム様は、私が断りたくなるような部分を持っているだろうか。


 持っていたら諦めも付く?


「リリアム様の人となりを調べてみても良いかも」


 善は急げ、だ。




 それから私は、リリアム様の情報を集め始めた。


 知れば知る程興味を惹かれる一方で、肝心な性格は分からない。誠実で優しいとみな口を揃えて言うけれど、それだけじゃないはずで。


 婚約破棄で泣かせた令嬢がたくさんいるという事は、何か問題があるのかもしれない。でも、婚約破棄理由を調べてもおかしな点はなく、それが余計に腑に落ちない。見えないベールがリリアム様を覆っていて、ミステリアスにもしているのだ。


 せめてリリアム様とお話が出来れば何か分かりそうなのに。


 令嬢たちのガードが堅過ぎて近付けないのよね。う~ん。



 ◇◆◇



 寒さが深まってきた頃、舞踏会は連日のように行われる。


 野外の冷たい空気に身体の芯まで冷えるこの季節も、連日行われる舞踏会で結ばれた熱い愛の話題で持ち切りになる。同時に、男女間のドロドロした噂も絶えないので、寒さを忘れるくらい社交界はネタが尽きず、噂好きには有難い季節でもある。



 私にとっても有難い季節で、気合の入り方もデビュタント(初心者)だった頃とは全然違った。


 リリアム様と接する機会が多いという事はチャンスなのだ。リリアム様に顔と名前を覚えてもらうチャンス。


 少しずつ外堀を埋めて、リリアム様を取り囲む令嬢たちとの水面下の戦いを勝ち取り、懐に飛び込む。最終目標である『リリアム様の人となり』を知れれば、例え意に沿わなくても、私の婚活に未来が見えそうだ。


 色々と未熟だった頃の私はもういない(会話は除く)。陰口を囁かれようが、靴を踏まれようが、髪を引っこ抜かれようが、淑女らしく毅然に優雅に撃退するのみ。



 今日は、そんな舞踏会ラッシュの初日。


「落ち着いてやれば大丈夫よ、ロメリア!」


 まずは自分に言い聞かせる。


 舞踏会場に足を踏み入れると、中は熱気に包まれて暖かい。手袋をしていてもかじかんでいた手に、やっと血が巡ってくる。



 さてと、リリアム様は……?


 ダンスホールを見渡すと、普段リリアム様の周りを固めている令嬢たちが、手持無沙汰そうに壁の花、いや、枯れた雑草となって壁にもたれていた。



 あれ、おかしい。いつもの覇気がない。どうして?


 今日の舞踏会にリリアム様は出席すると聞いていたから、余程の事じゃない限り来ているはず。そう言えば、リリアム様の今の()()()もいない。


 嫌な予感がする。


 もしかして、2人で舞踏会を抜け出して愛の言葉でも囁き合っていたりする? ついに婚約破棄せずゴールインとか……。




「…………そんな」


 傷は浅い方が良い。


 振り出しに戻っただけだと思い込めるから。


 完全にリリアム様に恋に落ちてから、他の令嬢と婚約から結婚へとステップアップした話を聞くよりは、断然良い。


 そう結論を出すのは早いかもしれないけど。


 壁の花どころか枯れた雑草となっている令嬢たちの顔色が良くないから、当たらずも遠からずの可能性が高いと判断した。婚活歴7年(前世含む)の悲しい勘とも言う。




「はぁ、帰ろう」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ