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ジル・エリュシュバーン王太子

ロメリアに会う前の短いお話です。

 名はジル・エリュシュバーン。このマリンティア王国の王太子だ。


 貴族、王族が通う王立学校を卒業した俺は、隔離されたこの部屋で公務に必要な準備の手配や、嘆願書などの書類仕事を主にしている。ああ、あと駄目な部下や癖のある部下を可愛がるのも仕事の一つだな。ま、他人に話して面白い事は特にしていないし、退屈な毎日を消費している訳だが。



「ん? またか……」


 令嬢の詳細が書いてある釣書と絵姿を机の端に放った。


 ――――くだらない。名だたる家の令嬢たちの詳細は薄っぺらく、絵姿はどれも同じに見える。実際会ってみれば、話す内容も皆ほぼ同じで、何の生産性もない時間をうだうだ過ごす事を強要されるのだ。これではどこを好きになれるのか、ちっとも分からないな。相手の令嬢たちも、俺に対してそう思っているのだろうが。


 結婚とは時として、残酷な儀式だ。



 相手の一生を縛り、価値観を縛り付け、子を作らなければ相手の居場所を失わせてしまう。


 王宮に足を踏み入れた令嬢は王妃や第二夫人以下となった後、段々と偏った考えに染まっていき、自身で考える事をやめ、王族の道具となり果てていった。そんな話が王族史に数え切れない程書いてある。


「王族史は……恥の上塗りだ」


 昔は保守派ばかりで今より酷かった。リリアムに出会わなければ、俺も未だに保守派に傾倒していたかもしれない。


 そう言えば、リリアムにはずっと思い続けている人がいるのだったな。


 社交界の悪夢(ナイトメア)と言われていても、実際は一途で、一点の曇りもない純粋な愛を持ち続けているのだから、面白い。面白くて、この上なく羨ましい。相手は一体どのような令嬢だろうか。


 もし、その令嬢と話す事が出来たなら、俺自身も何かが変わるのか。それとも……。


「いや、馬鹿な真似はよせ、ジル・エリュシュバーン。リリアムは俺の唯一の友だ。その友の想い人を興味本位で知りたがるなど……」


 部屋に飾ってある高価な壺を一睨みすると、とても良い音を響かせて割れた。粉々に割れた破片はどれも均等で、壷に力が平等にかかった事を意味している。


「……少し気が乱れたな」


 壷の周りにはにゅるにゅると蛇が這っていたが、扉を叩く音が聞こえると同時に消えた。


「失礼します」

「リリアムか、待っていた」

「何か用で……。ジル、また壷を割りましたか?」

「ああ、悪い。心の靄を晴らしたくてな」

「壷に八つ当たりをするのはやめてくれと何度も言った筈ですが? この壷一つ買うのも、税金からですよ」


 リリアムは笑顔で圧をかけてくる。


「落ち着け。この壷を一つ割ったら、貧しい村や子供たちに寄付する事にしている。それなら良いだろう?」

「寄付は壷に関係なくし続けて良いですが、それとこれとは別です」

「では、今後俺が壷を割らなくていいように、一つ教えて欲しい。リリアムの想い人の名前は何だ?」

「勝負に勝ったら教えます」


 リリアムからスッと笑顔は消えて、その代わりに毒蠍の加護が舞い降りる。リリアムの背後から蠍の太い毒針が地面をブスッと突き刺した。


「フンッ、望むところだ」


 魔法が使えるからと言って、リリアムに臆する事はない。俺にも魔法が使えるからな。


 毒蛇の加護魔法で、リリアムの毒針をぬるりと躱す。


「こうやって戦っていると、学校時代を思い出す。生まれた時からその身に宿している魔術をコントロール出来なくなって変化した後、それを見た生徒たちに()()の如く嫌われた。記憶は消したが、あの時は三日三晩思い出し笑いしたな。蛇蝎という言葉は、まさに俺たちの為の褒め言葉だ。で、結局勝負はどうだったか……」

「付いていません。今ここであの時の続きをしますか……?」

「余裕だな……。その首を噛んで、お嫁に行けなくしてやろうか」

「そんな趣味、ないですね。それよりも、その変態趣味に付き合ってくれる令嬢を早く探したらどうです?」

「それも悪くない」


 このマリンティア王国では、今現在魔法が使える者は俺を含めて三人。そのいずれも毒を持つ生き物の加護を受けているのが特徴だ。毒があるという事は、個性があると言い換える事が出来る。つまり、皆、個性的で変わり者。


「むさくるしくて、陰湿で、粘着質だな。俺以外の魔術師ウィザードは……」

「……一緒にしないでいただきたい。ジルこそ、昔、“伯爵芋”の夢を見て夜泣いていたと聞きましたが」

「父上から聞いたのか? そういう事をいつまでも憶えていてネチネチ言ってくる所が、陰湿だと言われるんだ」


 フッ、と互いに笑い合う。


蛇炎雪花フィ・エレーヌ

蠍死化粧デスコート


 冗談を交えながら煽り合い、魔法をぶつけ合う。恵みの魔法以外の魔法を唱えると、部屋の至る所で物が壊れた。


「ジル……、少しやり過ぎました。壁にも穴が……。特別手当から修理代を引いておいて下さい」

「俺からも寄付金を増やそう。ま、どうせこの部屋は隔離部屋だ。魔法攻撃される前提で作られているから、気にする事はない。それに、リリアムがさっさと令嬢の名前を教えれば良いだけだ」

「……断る」


 そんなやり取りを嫌という程繰り返す。夜鳥が「ギィギィ」と鳴いて夕刻の訪れを告げる頃には、リリアムがやっと折れた。


「ふぅ……。分かりました、教えます」

「本当か!」

「ジルのしつこさには負けましたが、彼女に惚れても自分の心を殺してくださいよ」

「良いだろう」

「子爵家の長女、ロメリア・グレイスです」

「ロメリアか、可愛らしい名だな」

「くれぐれも、約束は守っていただきますよう……」


 その目は脅迫だな。約束を違えれば命をも奪うつもりか? だが、それで構わない。粘ってその口から名前を聞き出した訳だが、俺は今、嬉しいと感じている。


 学校時代からずっとリリアムに憧れていた。誰にも興味がないような顔をして、心に燃えるような想いを滾らせているお前をいつも羨ましいと思っていた。


 いつか俺にもそんな風に人を愛する事が出来るだろうか。もし、俺にもそんな人が出来たら、その人を泣かせる事はしないと誓おう。王族史を塗り替えて、この悪しき王族の慣習を断ち切り、居場所を失わせないと……。


 そういう意味では、リリアムとロメリアはこの国の希望となるだろうな。このイカれた結婚観が未だ根付いているこの国で、二人はきっと何かを成し遂げるような予感がする。

ブックマークも評価もレビューも感想も良いねも嬉しいです。ありがとうございます。あと、お気に入りユーザーしてくれたら、泣く(/ω\)


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