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第一章、最終話

「ははッ、魔物だと? ロメリアが魔物の子か。カナリアは面白い事を考えるな」

「クッ……ククッ」

「リリアム様、笑い声が漏れてます」

「すまない。ロメリアの人となりを表現する言葉が、思いの外たくさんあるなと考えると、つい面白くて……」


 段々、自分が何をしにこの場に来たのか分からなくなってくる。


 大体、私を表わす言葉がそんなにあった? “子爵家の長女”は普通の表現だとして……。“酔っぱらい令嬢”とか? “訳アリ令嬢”? そう言えば、“毒蠍使い”だと言われた事もあったわよね。それで今は、“魔物”……。うん? どんどん人間離れしてる!? そう考えると、確かに私の人となりや置かれた環境で色々ネーミングが……。


「でも、魔物では断じてありません!!」


 これだけはしっかり念を押しておいた。


「はは、それは分かっている」

「もちろん僕も、ロメリアが魔物だなんて思っていない」


 うう、ジル殿下もアムも無駄に顔が整っていて美形だから、笑顔で肯定されると眩しい! でも、私を笑った事は少し恨みますからね。


 ジル殿下は笑っていた顔を急に引き締めて、足を組みかえた。


「さて、この問題について今から答え合わせをしようと思う。カナリアの回答は残念ながら不正解だが、冗談としては悪くなかった。しかし、薄々本当の答えに気付きながら、答えを誤魔化した点については見過ごせないな」


 先程の笑顔からは考えられない程に、ジル殿下の目は冷たく威圧感がある。


「い、いえ、そんな事は……」

「俺の目を見てもそうだと言えるか?」

「あ……。た、確かにその可能性も考えましたが、(わたくし)にはどうも納得が出来ない部分が……あります。その可能性は低いと……思っていますわ……」


 カナリアの声はどんどん小さくなっていった。


 答えに辿り着いた? カナリア様が? 私には何も思いつかなかったのに。どうしよう……。自分の不甲斐なさを嫌でも感じるわね。 


「……そういう事にしておこう。それで、ロメリアはどう思う?」

「あの……。私の至らなさ故に何も思い付きませんでした。ただ、リリアム様の魔法ではないと確信しています」


 申し訳なくてそっと頭を下げる。すると、ジル殿下はコツコツと靴音を鳴らしてこちらにやって来たのだろう。俯いた私の目に、黒を幾重にも塗り込んだ光沢のある殿下の靴が映った。


「顔を上げてくれ」

「え……?」


 顔を上げると、ジル殿下と目が合う。


 殿下が私と同じくらい、いや、少し低めの目線の高さまで下げて跪いている? どうして?


「や、やめてください! 殿下! 私なんかにそんな……」

「ロメリア、毒蠍の人形ぬいぐるみに命を吹き込んでまるで本物のように動かしたのは、キミだ」

「え……?」


 私が犯人? 私が結果的に殺人未遂を犯した? いや、そもそもどうやって?   


「まさか、私は魔法が使えるのですか?」

「いや、そうではない」

「じゃあ、私は罰を与えられますよね……」

「まぁ、そうだな。罰と言っても舞踏会事件の名誉挽回、といった罰だが」

「それは一体どういう事ですか?」

「やっとこのマリンティア王国にも聖女の資格を持つ者が誕生したと思うと、感慨深いものがある」

「…………聖女? 誰がですか?」

「ロメリア・グレイス以外に誰がいる?」


 何を言っているのか分からず、首をこてんと傾けた。


 ……は? はぁああ? はぁあああああ? 聖女!? 聖なる女!? 私が? また私を表現する言葉が増えたわね、わーい! とか全く思わないし、むしろ要らない。そんな華美で重たい「聖女」資格要りません。自分が聖女だと聞いても、全然しっくりこないし。


「辞退します」

「それは無理だ。資格を得た時点で強制だからな。国の為にその力を存分に発揮してくれ」

「き、強制……。ぐッ……分かりました。それで私は、リリアム様と結婚を許されるのですか? 生まれながらにして高貴ではありませんでしたが、聖女となった今、効力は遡りますよね? つまり、生まれながらにして高貴になった訳ですから、法律には触れない筈」

「ああ、そうだな。法には触れない。()()()()()()()いつでも結婚出来る」


 視線をカナリア様、いや、カナリアに向けて、無言の圧力をかける。


「い、今まで私が貴女にしてきた事は、取り消したいと思いますわ。まさかライラックの木で叫ぶような令嬢が聖女だとは……。クスッ、あら失礼。つい……まだ慣れなくて。フフッ」


 ああ、嫌だ。聖女だと分かったからって、未だに下に見られているのね。


「殿下、聖女を侮辱したら不敬罪ですよね?」

「それはそうだろう」

「なッ! クッ……。申し訳ありません。以後気を付けます」


 おお、聖女効果すごい! あのカナリアが自分の行いを反省して謝った! でも、結局私って“聖女”という権力に守られているだけなのよね。こういう形で他人ひとを従わせるのは何だか良い気はしない。


「“聖女”としてその地位を存分に使うのも良いだろう。しかし、それが嫌ならば、舞踏会事件の名誉挽回も兼ねて貴族や平民の心に寄り添い、悩み事を聞き、手を貸してみるのはどうだ? 人々は“聖女”としての肩書よりも、何をしてくれたかでロメリアを見てくれるだろう。特に平民はその人となりを大切にする。評判も上がるし一石二鳥だが?」

「なんか私、ジル殿下の良いように使われていません?」

「どの道、名誉挽回は必要な行為だ。今のままでは名ばかりの聖女になり、皆に祝福される結婚には程遠くなるぞ?」


 あー察し。つまりジル殿下の言いたい事は、私が聖女として聖女らしく振る舞い、その力を平民・貴族の為に発揮しないと結婚を許可しないという事よね? 私の夢は幸せな婚活→結婚だったはず。それなのに、いつの間にか幸せな婚活→聖女活動→結婚になってしまった訳!? ああ、結婚が遠のいていくぅう~。神様は私にどんなけ試練を与えたいのよぉおお! 


 ジル殿下の横暴っぷりに少しばかり心が折れた。


「そんなに気を落とすな。聖女活動をしているロメリアを待てずに、リリアムが他の女に走るようなら、その時は俺がロメリアを嫁にもらう」


 ジル殿下の手が私の手に触れようとした瞬間――――。


 床の一点が抉れたような音がした。


 良く見ると、私と殿下の間を毒蠍の太い尾尻が引き裂いている。殿下の俊敏さがなければ、水晶のように綺麗な毒針が突き刺さっていたかもしれない。幸い、地面に刺さり、穴を空ける程度で済んだけど。


 その毒針がどこから出ているのか辿ると、アムの背後からだった。


 毒針や尾尻程はっきりとは見えないけど、薄っすら蠍の加護を纏っているのが分かる。でも、アムったら容赦ない。殿下とアムはてっきり親友だと思っていたけど、仲が良過ぎて遠慮がない関係だったりする……?



「ジル、心配は無用です。どれだけでも待てるし、何ならロメリアの活動を手伝っても良い。結婚までの共同作業だと思えば、むしろ幸せ過ぎて堪らない程だ。だが、もしロメリアを奪う気なら、僕は傾国の魔術師ウィザードとして毒蠍の大群をこの国にけしかけよう」


 傾国の美女ならぬ、傾国の魔術師ウィザード!? 初めて聞いたけど、アムったら笑顔ですごいワードぶっ込んでくるじゃない。


「それはまた……本気か? リリアムは本当に冗談の通じない奴だな」

「冗談が通じないのはロメリア絡みの時だけです。これでも色々我慢して聞いていた。ただ、これは個人的な話になるが、ロメリアが聖女だとはジルにも気付かれたくなかっただけで……」

「聖女を独り占めするつもりか? その行為は処罰に値するぞ」

「違う、そう言う意味じゃない。好きになった人がたまたま聖女になってしまっただけだ。昨日の舞踏会で聖女の力だと気付いたが、本当は隠しておきたかったくらいだ。でも、それは出来ないから、こうしてロメリアとここに来たんだろ」

「ま、分からない事もない。男なら誰しも、自分が惚れた女に悪い虫が付くのは嫌だからな。聖女になれば、全国民の“聖女様”だ。ロメリアも大変だな、リリアムは毒蠍より手強くて、嫉妬深い」

「おい、ジル。それはどういう意味ですか……?」


 アムの顔が真っ赤っか。耳も……。


「アム……。あっ!」


 咄嗟に手で口を隠す。


「ほぅ……。リリアムの事をアムと呼んでいるのか。フッ、仲睦まじい二人に免じて、今日はこのくらいにしてやろう。解散だ」


 ジル殿下の尋問はそんな言葉で幕を閉じた。


 なんか……、めちゃニヤニヤして殿下がこっち見てくるんですけどッ!? でも、やっと終わった。な、長かった~~~!!! 


 殿下に挨拶と一礼して、退室する。すっかり存在感のなくなったカナリアを横目で見ると、下を向いて俯いていた。これに懲りて、何かが変わると良いけど……。





 そうして、尋問から解放された私たちは帰りの馬車に乗ると、疲れがどっと出てしまった。


 今日一日、色々あり過ぎて処理が追い付かないわね。エリオットも魔法が使えて、私は魔物だ聖女だと言われて……。聖女活動、やれるかのか……。いや、結婚の為だ。やるしかない!


 決意に燃える私の鼻に、突然ふわっと良い匂いがする。


「ア、アム……?」

「ごめん、少しだけこうさせて」

「う、うん……」


 密室の中、隣に座っていたアムが甘えるようにもたれかかってきた。アムの銀色の長い髪が私の顔に当たり、変な気分になる。触れている先を意識すると、おかしな事に身体中が熱くなってくる。しかも、もたれかかっているアムは、全然重くない。


 もうどういう状況なのよ。近過ぎて、心臓が止まりそうじゃない……。



「まだ先の話だが、ロメリアと結婚出来るのが嬉しい」

「は、はい」

「聖女活動、出来るだけ僕も協力しよう。ロメリアは可愛いから男避けがあった方が良い」

「はい?」

「あと、ジルに呼び出されても一人で王城に行くのは禁止」

「は……い? それってヤキモチですか?」

「ああ、そうだ」

「そう言ってもらえて嬉しいです」


 私もアムに寄りかかる。



 ああ、そういう意味では、私は幸せな婚活が出来たと思う。


 色々あったけど婚活は上手くいき、婚約破棄はされなかった。納得がいく形で相思相愛になれたのは、五年前からロックオンされていたからという理由もあるけど、私は自分の婚活物語に満足している。一人で空回りしたり邪魔されたりしたけど、私は随分周りに恵まれたし、障害物を一つ乗り越えた。


 だから、こうしてこの先にアムとの未来があるのだから。



 でも、結婚までの道はまだ遠く続いている。これから聖女活動をして、色々な人に出会い名誉挽回していく訳だけど、それはまた次のお話。

お付き合いいただきありがとうございました。少しだけ間が空くかもしれませんが、第二章も続けて読んでいただけると嬉しいです。


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[良い点] うーん 高貴なる者 まではおもしろかったーーーー なのに( i _ i ) [気になる点] 弟くんの秘密の結果サラッとしすぎー
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