尋問②
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「私が懸念している事は、リリアム様とロメリアの婚約問題ですわ。殿下もご存知でしょう。高度な魔法が使える者は、生まれながらにして高貴な者と結婚しなくてはいけないという法律を……」
「ああ、もちろん知っている」
「リリアム様は魔法が使えます。一方、ロメリアは子爵家の長女ですが、時を遡れば捨てられた赤子です。おそらく口減らしの為に平民が捨てたのでしょう。孤児院の運営者に拾われた後、グレイス家に引き取られたようですが、彼女は高貴ではありませんわ」
「リリアム、それについてはどう考える?」
「法律によって僕たちの仲を引き裂かれるなら、どこか違う国でロメリアと暮らすつもりだ」
「ふーん、なる程ね……。あくまで隠すつもりか」
ジル殿下は見透かすような目をしてアムを見据えているけど、隠すって何を? 殿下もアムも見つめ合って、無言で会話しているみたい……。
「殿下、もう一つ宜しいですか?」
「ん? ああ、言ってみろ」
「はい。ロメリアは私の忠告が気に入らずに、毒蠍を手渡しました。これは殺人未遂だと思いますわ。然るべき処罰をお願いしたいと思います」
さ、殺人未遂? ちょ、ちょって待って。話が段々大きくなって……。
「ロメリア、何か反論は?」
「あ、あります。私がカナリア様に手渡したのは、毒蠍の人形です。舞踏会という場で、しかも周りの貴族を巻き込んだ形で、カナリア様はリリアム様に婚約破棄を催促されました。でも、これは私とリリアム様の問題で、他の方とは関係のない事です」
「あら、私は親切に教えてあげたのよ」
横からカナリア様が口を挟んだ。
「はい、でも私にはそれが嫌でした。だから、つい仕返しに毒蠍の人形を……」
「あっははは……!」
急にジル殿下はお腹を抱えて笑い出した。
「ああ、すまない。何度聞いても面白くて笑える。“社交界の悪夢”と言われたリリアムをめぐって起きた、舞踏会事件の内容。いつ聞いても傑作だ! 毒蠍の人形で殺人未遂? しかも舞踏会にいた全員が毒蠍に怯えて逃げて行ったとは……。貴族も腑抜けになったものだな」
「で、殿下……。笑い事ではありませんわ! 最初は毒蠍の人形だった気もしますが、動いていました。それから大きくなり、数も増え、最終的には本物と同じ姿をして、会場内にいる人々を襲ったという証言も多数あります!」
「ふむ。それについては、どう説明する? ロメリア」
……きた。絶対に聞かれると思っていた質問だ。でも、有難い。ジル殿下は私の言葉にも耳を貸そうとしてくださるのだから。
「はい、毒蠍の人形は弟のエリオットから貰った物です。今日のラッキーアイテムだと言っていました。ですが、弟は何も悪くはありません。運気が下がっている私を見兼ねて、手渡してくれただけだから……。姉思いの良い子です」
「それについては僕も同じ意見だ。エリオットは敏い子だと思う。それに、僕と同じで魔法が使える」
「え?」
思わず、横にいるアムの顔を見た。
「エリオットは自分が魔法を使える事を知って、隠している。だから僕も彼の気持ちを汲んで黙っていたが、ジルの前で隠し事は不要だろう」
そっか。エリオットが……。何か隠しているとは思ったけど、やっぱり魔法だったのね。今までも、魔法が使えるのかもしれないと思った事はあった。でも、ずっと見ないようにしてきた。だって、エリオットは何も言わなかったから。エリオットが自分から教えてくれるまでは、見ない振りをと……。
「……確かに、エリオットから毒蠍の人形が入った袋を貰った時、動いていました。でも、動いていたのはその時だけです。カナリア様にお渡しするまでは、動いていませんでした」
「毒蠍の人形が入った袋を貰った時に動いていたのは、エリオットの魔法だろう。でも、舞踏会で毒蠍の人形を動かし、最終的には本物に似せて動かしていたのは、エリオットの魔法ではないな」
ジル殿下はそう言うと、カナリア様を見た。
「グレイス家は魔法を使える者がいる以上、それなりの地位は保たれる。エリオットが望めば将来王家の側近として働く事も出来るだろう。エリオットに爵位が与えられ、その一族も陞爵する。エリオットが国の為にその力を尽くす限り、一族の繁栄は約束されたも同然だ」
「グレイス家の地位が上がる事と、魔法が使える者がいるという理由で特別待遇を受けられる事は、納得出来ますわ。ただ、ロメリアだけは例外だと思います」
カナリア様は真っ直ぐジル殿下を見据えて、冷静に言葉を返す。
……なんか、カナリア様の事が少しだけ分かった気がする。カナリア様はあくまでも私だけに制裁したいのね。生まれ付いた身分に執着しているのは間違いない。ジル殿下を目の前にしても、臆する事無く堂々と発言するくらいだから。もしかして、私がアムに婚約破棄されるまでは食い下がるつもりでは……?
「その問題は、一旦置いておく。話を戻すが、毒蠍の人形を動かし最終的には本物に似せて動かしていたのは誰だと思う? カナリアとロメリア、二人に問おう」
「「それは……」」
私もカナリア様もその後の言葉が続かなかった。
取りあえず足りない頭で考えてみる。
えっと……。原因を作ったのは私で、その結果をもたらしたのは誰って話よね? アムも魔法は使えるけど、アムではない。あの時のアムの表情と言葉で判断するなら、アムは白だ。それに、アムの中では答えを出している筈。毒蠍の人形を本物に変えた犯人を……。それから、ジル殿下も絶対に何かを知ってるわね。知ってて聞いてくる殿下と、知っていて黙っているアムか。両方ズルいわよ。だったら、私は……。
チラッとカナリア様を横目で見ると、随分顔色が悪そうだった。
さっきまでの勢いはどこへ? いやチャンスかもしれない。
「殿下、私には考えも付きません。ですが、殿下もリリアム様もその答えを知っているように思います。もしよろしければ、何かヒントを――――」
まだ話の途中なのに、カナリア様が言葉を被せて話し出す。
「わ、私は答えが出ましたわ。毒蠍を本物のように操ったのはロメリアです。ですが、殿下とリリアム様が考えているような結果ではありません。ロメリアの正体は魔物だと結論付けます。きっと、人と魔物から産み落とされた子ですわ」
反射的に私の首は、九十度ぐるんとカナリア様の方へ向いた。
はあ? はあ? はぁああああ? 魔物? MA・MO・NO!?
カナリア様の言っている事があまりに突拍子もない答えで、呼吸をするのを忘れるくらいガンつけて睨む。でも、その憤った感情はジル殿下の笑い声ですぐに搔き消された。
次で第一章終わりです。




