尋問①
第二話の冒頭部、少し書き足しました。
それからアムと私は、誰もいなくなった舞踏会場から、いつの間にか動かなくなった毒蠍の人形を回収して外に出た。途中、入り口付近にいた王国憲兵の一人に捉まり、事情を聞かれる事になった訳だけど。
「ですから、それは……」
う~ん。やっぱり先に会場を出た人から事情を聞いている分、何を言っても信じてもらえない雰囲気だ。しかも、所々話が誇張されてるし。私が毒蠍使いだ? 蛇使いならまだしも、毒蠍使いって……。そんな令嬢がいたら間違いなく面白いけど、今は中立の立場で話を聞いて欲しい。言い訳さえ聞いてくれない上に、突き刺さる猜疑の目は完全に罪人扱い。うんざりだ……。
反論する事を諦めた私は、王国憲兵の言う事に「はい、はい」と機械的な返事をする。
「待ってくれ。彼女は疲れているようだから、明日王城に出向いて説明しようと思う。もちろん、許可が下りればの話だが」
「分かりました」
すんなり話がまとまり、思わず王国憲兵の男性を二度見した。
え……! ええ!? 何、この対応の差は……。長い物には巻かれろ的な? 王国憲兵とはいえ、元を辿れば貴族の端くれが集まった夜警団だった筈。腕に自信のある誇り高き貴族が有志で集まった団体が時代を経て、王の勅命の下、王国憲兵として名前を変え活動を認められた団体。私も一応貴族なんだけど……。
喉の奥から言葉が出かかったけど、飲み込んだ。
……ああ、そっか。
対応に違いがあるのは当たり前。名前も身分も持たなかった私が貴族の皮を被っただけで貴族になれる訳がないと思っているのね。魔法を使える貴重な人材で、国にとっても価値のあるアムとでは、差は歴然。
「アム、ありがとう」
「僕はロメリアの味方だから、心配はいらない。明日が楽しみだ」
「え、楽しみ?」
アムはにっこり笑っただけで何も言わなかった。どこに楽しむ要素があるのかこれっぽっちも分からないけど、深くは聞かない。だってアムはきっと私を助けてくれる。
取りあえず、今は早く屋敷に帰って休みたい。明日に備えたい。
その後、アムに別れを告げて馬車に乗り込み、屋敷へ帰った。家政婦以外の誰とも顔を合わせないように移動し、自室に籠る。
「ふぅ……」
明日は朝から王城に行かなくてはいけない。ちゃんと国王陛下の前で説明出来るだろうか。そもそも、私はあの毒蠍の人形がどうやって動いたのかも知らないのに、説明なんて……。
いや、待って。きっとあれは、魔法の類よね。エリオットから渡された時も動いていたから、アムの魔法じゃないとしたら、誰の……? まさかエリオット? でも、屋敷から舞踏会場まで距離があるのに、遠くまで魔法を飛ばせるとは思えない。でも、これはエリオットから貰った毒蠍の人形だし……。
カナリア様に踏まれて形が崩れた人形を思い出す。
汚くても、くっきり踏まれた跡が残っていても、エリオットが作ってくれたこの人形が大事な事には変わらない。家の中の事を手伝ってくれているグレイス家の家政婦に、この人形を綺麗にして欲しいと先程お願いしたくらいだ。
エリオットも人形も、私にとっては両方大切。
「まさか、ね……。エリオットに限って、私に隠し事なんて……。ないない。毒蠍を本物のように変える魔法なんて、そんな高度な技術……」
でも、たまに伏し目がちになるエリオットは、どことなくアムと同じ空気を感じる。性格は全然違う二人の共通点と言ったら、秘密が多い事かもしれない。
何かを隠してる……。
寝る支度をした後も、私は毒蠍の事や今日一日に起きた事を考えた。考え過ぎて目が冴えて、仕方なく『毒蠍が一匹、二匹……』と数えながら自分で眠気を誘ってみる。その作戦は意外と上手くいき、やっと眠りに落ちた。
その所為か、夢の内容は婚活に失敗して死ぬまでお一人様の老後を楽しむいつもの夢ではなく、毒蠍に囲まれる夢だった。顔を真っ赤にして逃げ出したカナリア様を思い浮かべながら、一匹ずつ毒蠍を撫でていく途方もない夢。
◆
次の日早朝。
お父さまやエリオットと充分に話す時間も取れないまま、アムの馬車に乗り込んだ。遠くの景色をぼんやりと眺めていると、いつの間にか城門が後ろに見える。眼前には聳え立つ贅沢な銀城や、綺麗に剪定された庭園。その場所が立ち入る人間を選んでいるとさえ思えてしまうのは、今の自分の置かれた状況と重ねて見た所為かもしれない。
あ~、出来る事なら事件を起こした罪人としてではなく、一人の人間として何かを成し遂げた時に招待されたかった。胸を張って堂々と……。それにしても、アムは目の前の風景に臆する事もなく、いつも通りね。私は緊張体質で手の震えが止まらないのに。
「あ……」
小刻みに震えている私の手の上に、大きな手が重なる。
「アム……」
「大丈夫、行こう」
「はい」
馬車を下りて案内された先に歩いて行く。通された部屋は誰かの仕事部屋だろうか。それにしては豪華絢爛で、どこを見ても無駄に輝いている。
「ごきげんよう」
見知った顔が口元に手を添えて、クスっと笑う。カナリア様だ。
「今日の尋問で証言したくて、ここに来ましたのよ。楽しみね。私たちのように婚約破棄されたのなら、お仲間になれたのに」
「そうですか……。婚約破棄された腹いせにこんな事をしていると、婚期を逃しますよ」
「酔っぱらい令嬢風情が口を慎みなさい。どうせリリアム様を下品な方法で誘ったのでしょう?」
「――――ッ!」
敵意を隠す事なくカナリア様は責め立てる。これ以上の口論は、自分を貶めるだけだ。言わせておけばいい。私が弁明したい相手はカナリア様じゃない。ここに来るのは大臣? 国王陛下? 誰にしても、その人に許しを請うだけよ。
口を閉ざして前を向く。横でカナリア様がピーチクパーチク言っていたけど、相手にしない事にした。すると、後ろの扉が開き、誰かが颯爽と部屋に入ってくる。
だ、誰……? まさか……ジル・エリュシュバーン殿下?
すぐに頭を下げる。
「久し振りだな、リリアム」
「ジル殿下、お久しぶりです。どうして貴方が……?」
「いつも通り、ジルと呼べ。俺とお前の仲だろう? それに、リリアム絡みの舞踏会事件と聞いたら、俺が参加しない訳がない。楽しみ過ぎて仕事を早めに切り上げてきたからな」
ジル殿下は目を眇めて私を見た。
「キミがロメリア?」
「は、はい。子爵家の長女、ロメリア・グレイスと申します」
「そうか。キミが……。頭を上げてラクにしてくれ」
殿下の指示に従い、頭を上げる。
「大丈夫、緊張しなくていい」
手が微かに震えているのに気付いたのだろうか。殿下が私の手に触れようとすると、アムは手刀で殿下の手をスパッと遮った。
「あっはは、リリアムは独占欲が強いなぁ」
「ジル、揶揄わないで下さい。それと、ロメリアには触れないでいただきたい」
「そう言われると、ちょっかい出したくなるな」
あのアムが焦ってる姿は珍しい。殿下の方が一枚上手なのかもしれない。でも、ピリピリしていた空気が和らいだ気がする……。
殿下の戯れが終わった後、話をする為に椅子に腰をかける。アムの両脇に私とカナリア様が座り、大理石にも似た素材で作られた机の向こう側には、ジル殿下が座った。
う、気まずい……。ジル殿下がめちゃくちゃ笑顔で見てくるけど、どうして? ああ、それにしても……。ジル殿下もアルと同じで美目麗しくて、目の保養になるな。瞳も綺麗な翠玉色で綺麗だ。光に透ける薄茶色の髪は、一部色が抜けて白髪。そういえば、王家の血を継ぐ男子はいずれもこの特徴を持って生まれてくると聞いた事があるけど、本当だったのね。
「俺の顔に何か付いてる?」
「あ、いえ、申し訳ありません」
「それじゃあ始めようか。舞踏会事件の概要はもう頭に入ってる。双方、言い分があるなら聞かせてくれ」
「それでは、まず私から申し上げますわ。ジル殿下」
カナリア様は場慣れしているのか、動揺など微塵も感じさせない。しっかりした口調と笑顔で流暢に話し始めた。
もうすぐ第一章が終わります。第二章は悩み中。




