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手紙

 朝食を終え自室に引き籠ると、さっそく羊皮紙と羽ペン、インクを用意する。


 今日の予定はリリアム様に手紙を書き、それを使用人に渡してクロッカス家まで届けてもらう事だ。


「昔は、まどろっこしいって思っていたけど……」


 この世界では、手紙一つ届けたり、受け取ったりするのにも時間がかかる。メールや電話のような文明の利器に慣れている私にしてみれば、牛の歩みのような日常だ。でも、今ではそんな文化が好きになりつつある。


 不便さの中にも、待つ楽しみを見つけたから。まあ、待っている間、妄想を膨らませたりする程度の楽しみだけど。


 ちなみに、魔法は存在するが、生活に便利な魔法はないらしい。前に読んだ本には、魔法の種類は攻撃魔法、恵みの魔法、光の魔法、闇の魔法、加護の魔法の五種類と書いてあった。


 もちろん、私に魔法は使えない。


 前世の記憶を持って異世界転生したという特別な背景はあるけど、すぐに捨てられた。身分も名前もなかった私は孤児院に入り、その後子爵家の養女として育てられた。不自由ない生活を送れているのだから、この上ない幸運だろう。そんな生い立ちがある私は間違いなく“訳アリ令嬢”だけど、魔法の適正はなかった。


 そもそも、魔法を使える人は希少で、特別な存在なのだ。このマリンティア王国で魔法が使える人は、現在五人にも満たなかったはず。


 魔法が使えれば、国と契約を結んで特別待遇を受ける事が出来るし、将来王家の側近として働けたり、それなりの地位は確率される。もちろん爵位も与えられ、その一族も陞爵しょうしゃくする。私が読んだ本に、そんなていの良い字面が並べてあって、魔法に憧れた時期があったけど。




「まさか、リリアム様が加護の魔法を……?」


 あの頃は気にも留めなかったその言葉が、今では重く響く。


 顔も良いし、性格も今のところ問題ないし、魔法が使える可能性が非常に高いとなると、もうハイスペック過ぎて逆に怖い。そんなリリアム様に手紙を送る事になるなんて……。


 ああ、もう! 女は度胸!


 社交辞令も季節の挨拶もない文を簡潔に書く……のはさすがに失礼だから、机の引き出しから家庭教師に貰った手紙の見本を取り出す。いつの時代も有難いのは、やっぱりテンプレートだろう。


 言葉文字をアレンジして、手紙に綴った。



「……ふぅ、やっと書けた」


 婚約の事、私の前に2回現れた毒蠍の事、別荘で開かれたパーティーの事。知りたい事が山のように積もっているので、リリアム様とお話がしたいです、とまぁそんな感じに綴った。少しばかり猫を被ったような文章になったけど、受取人が喜んでくれるような手紙なら、先生は大丈夫だと言っていたので平気だろう。


 異性に直接手紙を書くのは初めてで意外に時間がかかったけど、羽ペンを置いたら満たされたように気持ちが良かった。


 手紙を封筒に入れ、さらに封蝋を押す。後はこれを使用人に託すだけ。



 ◆



 今夜も例外なく舞踏会が開催される。


「リリアム様はどこだろう……?」


 視線を左右に忙しなく動かす。


 リリアム様からの返信を受け取ったのは、昨日の事だ。昨日の夜は、私にしては珍しく舞踏会を欠席してしまったから、リリアム様には会っていない。体力に自信がある私でも、毎夜毎夜に開かれる舞踏会は寝不足になるし、社交界疲れも溜まるから休息は必要だ。


 それに、今日の舞踏会で話がしたいと手紙に書いてあったから、都合良く昨日は休めたとも言える。


 必要最低限の事以外、昨日はだらだらと一日中部屋に籠っていた。リリアム様からの手紙を舐めるように見ては首を傾げ、溜め息を吐いて。


 そう、今と同じように。




 はぁ……。


 リリアム様ってぶっちゃけ何を考えているのだろう……? 全然分からない。そもそも何で話し合いの日をわざわざ舞踏会に指定してきたの? “壁に耳あり社交界に目あり”って思うけど、大丈夫なのよね? 令嬢たちを追い払ったところで、素直に従うとは思えないけど……。


 ああ、落ち着かない。デビュタント並みに落ち着かない。


 リリアム様を探しながら、そわそわする気持ちを和らげる為に会場内を彷徨ってみるものの、ちっとも気が紛れない。


「ロメリア、こっちだ」

「あ、リ…………。アムなの?」

「懐かしいな、そう呼ばれるのは」


 そこから昔話に花が咲くかと思いきや、そんな事はない。私の気になる事は取り巻き令嬢たちの行方だったりする。とてもじゃないけど、話に集中する余裕がなかった。リリアム様の周りにいつもいる令嬢たちの姿がどこにもいないのだ。


 おかしい。絶対どこかで見ているわよね……? 人に嫌がらせをするくらいだから……。


「いつもいる令嬢たちには、断ってきた」


 私の視線の流れを読むように、リリアム様が答えた。


 ああ、なる程……。でも、殺気は薄っすら感じるから、舞踏会ここのどこかで見ているのね。ま、人払いしてくれるだけでも有難いけど、どうやって令嬢たちを追い払ったのだろう。


 リリアム様と目が合うと、微笑み返された。


 その後、やっと他愛もない話に耳を傾ける余裕が出てきて、昔話も少しした。途中で曲が流れて、二曲程ダンスを踊ったのは良いけど……。




 ああ、視線が耐えられない! もうダンスやめたい……! 何でリリアム様はずっとこっちを見てくるのよ。しかも、笑顔で!


 視線が纏わりついて、ダンスどころじゃなかった。いつもなら息切れもしない軽やかなステップが、酷く疲れる。二曲が限界だった。


「……あの、休憩しても?」

「そうだね。同じ人とずっと踊る事は出来ないから、庭園で少し話をしよう」


 リリアム様が指示を出すと、壁に控えていた使用人が二人分の外套を運んできてくれた。外に出て庭園の方へ歩いて行くと、お馴染みの狂い咲いたライラックの木がある。


 逞しい、まだ咲いてる……。


 外の気温は外套を着ていても吐く息が薄っすら白くなるくらい寒い。育つには劣悪な環境なのに、それでも花には栄養が行くように、葉を枯らしながらも咲き続けている。目を見張る程の生命力に感動すら覚えた。


 ま、私の手はどういう訳か温かかいけど……。


 私の手を辿ると、リリアム様に繋がっている。


 いつの間に……。リリアム様ってさり気なく、自然に、ポイントが高い事をさらっとしてくるから、心臓に悪い。


 ……って、あれ?


 そのままライラックの木を通り越して庭園の奥の方へ行くと思っていたら、立ち止まったのはライラックの木の真横だった。この場所は良くも悪くも思い出の場所。また、カナリア様が婚約を破棄された場所でもある。


 こうして見ると、リリアム様と私の関係性を象徴するような木かもしれない。


 寒空の下でもライラックの木が花を咲かせたのは、毎日が寒空だけではなかったからだろう。狂い咲きしたくなるような暖かさを知ったからかもしれない。ライラックの木に私の心情を重ねてみるのはやや強引かもしれないけど、この木を無くして私の婚活は語れない。


 あの時は、まさかリリアム様とこんな風に話せる日が来るなんて、思わなかった。考えもしなかった。今日、リリアム様とのお話でどういう展開になるのか分からないけど、落ち着く所にすとんとおさまる事を願いながら、私は話を切り出した。




「婚約の話は、全ての話が終わったらお答えしたいと思います。それでも、良いですか?」

「分かった」


 イエスでもノーでも受け入れるという意味の“分かった”なのよね? 随分、簡単に返事をしてくれちゃうけど……。


 リリアム様の表情は読みにくい。容姿端麗で線は細いのに目力は半端なく強く、まるで獲物を狩るような目をしている。笑顔から滲み出る圧力が容赦なく降り注ぐ感じがして、油断ならない相手だという事は分かるのに、肝心な事は何一つ分からない。


 でも、そんなリリアム様が急に目尻を下げて優し気な目をするから……。

読み終えて続きが気になると思った方は、ブックマークして読み続けてくれると嬉しいです。広告下の☆☆☆☆☆☞★~★★★★★にして評価も宜しくお願いします(お手数おかけします)。評価が★でも、嬉しいです。その★を増やしてやる~と意欲を燃やすタイプですので。執筆の励みにもなります。もちろん、感想も受け付けています。



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