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5年前①

 セリアンヌのお屋敷から馬車に揺られて帰った後、お父さまの書斎に突撃し、挨拶よりも先に侯爵家のパーティーの話を聞きたいとせがんだ。お父さまは私の行動に吃驚したのか、眼鏡を落としてしまったけど、すぐに普段のお父さまに戻って話をしてくれた。


 それが『パーティーで知り合った男の子と遊んでいる内に、迷子になった』という話だったのだ。


 迷子の話の概要を聞いただけで、そのパーティーの時の事を思い出した私は、リリアム様があの時の男の子だという点については、にわかに信じられなかった。何度も何度もクロッカス侯爵家主催で、別荘で行われたパーティーだとお父さまに確認したのに、記憶の中の男の子は今のリリアム様と似ても似つかない。面影すらない。


「別人……の可能性はないですか? それか、お父さまの記憶違いでは?」


 色々お父さまの言葉を受け付けない私に、何事かと書斎を訪ねたお母さままでもそうだと言うのだから、正しい情報なのだろう。夕食時には、エリオットに「姉さん、過去よりも大事なのは今だよ?」と可愛く窘められる始末で。


 まぁ、私が認めたくなかっただけなのよね。


 幸いなのは、私自身が今の今まであの男の子がリリアム様だと認識していなかった事だろうか。でも、認識した今、色々と申し訳なくて……。ああ、寝込みそう。11歳の私がリリアム様と遊んでいたなんて……。ちょっと信じられない。


「それにしても、人間って変わるのね……」


 夕食を終え、自室に戻った私はベッドに横たわった。目を閉じて、あの日の事をもう一度思い出してみる。確か、確か……。



 ◆



 ――――今から5年前。

 11歳の私がお父さまに連れられた先は、侯爵家の別荘で行われるパーティーだった。


 侯爵家の前は伯爵家のパーティ―に行き、その前も確か伯爵家のパーティーだった気がする。もう何のパーティーか忘れてしまうくらい毎日がパーティー続きで、貴族は暇なんだと子供ながらにして思っていた。


 それなりの身分がある大人は社交界やパーティーに足を運び、人付き合いを大切にする。


 両親もその考えを持っていて、人付き合いをとても大切にしていた。パーティーに招かれると、両親はいつも色々な人と会話をし、その場を楽しんでいる。そんな両親を見るのは気持ちの良いもので、好きだったけど……。



 まぁ、子供にしてみれば、楽しくはない。だって、ほら。小腹が満たされた子供たちって、すぐに席を立ってしまうでしょ?


『お母さま、少し遊んでも良い?』

『迷惑にならないようにね』

『はーい』


 広い園庭で開かれたパーティーに飽き飽きしたのか、小さな子供たちはお上品に両親の許可を取ると、薔薇の木の向こうへ集まって遊び始めた。


 良いな、楽しそうで。混ざりたい……。


 でも、何度も言うけど、私は11歳。


 侯爵家のパーティーで、他の家の小さな子供たちと一緒になって遊ぶ程、子供でもない。親を見習い、その真似事をして表情を作る。遊びたい気持ちを抑えながら、ただ時間が過ぎ去るのを待つしかない。


 ああ、つまらない。




「退屈だよね……。2人で遊ぶ?」


 そう声をかけてきた男の子は、私よりも少し年上だろうか。切り揃えられた銀色の前髪が長過ぎて、目が隠れている。顔が全然見えない、変な人。それが第一印象だった。


「貴方、誰?」


 そんな事を聞いた気がする。主催者の侯爵家の子息だとは知らずに、そんな不躾な事を……。


 でも、男の子は笑っていた。


「僕は、……アムだよ」

「ごめんなさい、周りの笑い声で良く聞こえなかった。アム?」

「……の誕生日なのに、大人のためのパーティーだから……。いいよ、アムって呼んで」

「私はロメリアよ」


 アム? 変なの。髪型も変だし、名前も変。でも、まぁ良いか、暇潰しだし。どうせ、パーティーが終わったら会う事もない。


 今日一日限定の遊び友達。礼儀ありきの階級社会で、今だけはきっと無礼な関係。


「じゃあ、かくれんぼしよう。私が隠れるから、アムが見つけてね」

「え……!? 範囲は?」

「もちろん、敷地内! 大丈夫、そんなに遠くにはいかないから」

「う……うん」


 アムが目を隠して、数を数える。


 ああ、やっぱり自由に遊べるのは、楽しい。あの男の子には感謝ね。


 鼻歌交じりで、隠れる所を探す。


「庭はあの子たちが遊んでいるから、別荘の中にしよう」


 隠れる場所を別荘に限定した私は、誰も使われていない部屋を求めてぐるぐる彷徨った。


「あ……れ? この別荘の作り、おかしい」


 子供ながらにして違和感を覚えたのは、私が前世の記憶持ちという土台のある子どもだったからに違いない。どうも別荘の作りが普通と違うのだ。


 いや、その違和感に気付いた所で、どうにも出来ないけど。


「私、方向音痴だった……」


 窓が極端に少なく、昼間なのに薄暗い。使われていない部屋や廊下は、埃っぽくてすぐに分かる。空気が綺麗な場所へはどう行けばいい? 引き返そうか。


 でも……。この部屋、隠れるのに丁度良いかも。


 物が置かれていて、だからと言って整頓されていない訳でもない。高価な物やガラクタ同然の物もある。その物の多くは書物で、本棚に入りきらない書物が床に積まれ、山を作っている。昔は頻繁に使っていて、今は使用されなくなった思い出のある部屋なのかもしれない。


「もっと奥の方に……っと。ああっ…………!」


 足場の悪い場所で、転んだ。転んだ拍子に壁にぶつかり、額縁に入れられて絵画の留め具が外れてしまったのだろう。額縁ごと落下した先は、私の頭。


 ――――間に合わな。


 鈍い音がした。




 どのくらい意識が無くなっていたのかは分からない。


 目を開けると、心配そうに見つめるアムの顔があった。床には額縁に入れられている絵画が転がっている。その絵は蠍の絵で少し怖かったけど、額縁が落ちたのに割れていない事に安堵した。お父さまに迷惑をかけないで済む。


「……アム、泣いてるの?」

「ロメリアが目を覚まさなかったから……。心配したんだ」


 やっぱり、アムは変。こんな事で泣いちゃうなんて、優しい通り越して心配だ。


「ほら、心配しないで。私は石頭だから、このくらい平気。それより、アムの顔が見えない方が心配」


 手でアムの前髪を全部上げてみる。


「ほら、こっちの方が世界が良く見え……」


 あまりに美少年だったアムを見て、言葉を失った。アムの陶器のような肌が、少しずつ赤くなっていく。たぶん、アムに影響されて私の顔の温度も上がった気がする。


 でも、次の瞬間。目の前からアムは消えた。


「――――ひぃ、アム? どこなの? 怖がらせないでよ」


 情けない。アムが泣いていた事を心配していた私が、今度は泣く羽目になるなんて。だって、目の前にいたのがアムのお化けだなんて、思いたくない。


「アムー! どこなのー? 出て来てよぉ……」




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