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セリアンヌ・シュタベル

ロメリアの親友の短いお話(時系列的にはもう少し後のお話)。

 世襲貴族として爵位を絶やすことなく継承する――――そんな栄誉称号に縛られた古臭い考えの家、それがシュタベル伯爵家です。わたくしはその家の長女として産まれ、お人形のように育てられた令嬢でした。


「華奢で小柄で愛らしいね。青い瞳と金髪の縦ロールが人形みたいに整っていて、綺麗だよ」


 ()()から囁かれるその言葉は、海の藻屑となって消えて欲しいくらいの侮辱でした。わたくしの心を壊すには丁度いい破壊力で殺意を覚えました事、大げさだと他人は思うのでしょう。



『――――もう、うんざり。わたくしはお人形じゃないわ!』


 昔はそう可愛く反抗した事もありました。でも、無知で何も持っていないわたくしは人間にはなれず、お人形のわたくしに出来る事と言ったら、口を閉ざす事だけ。


 成長するにつれて、異性たちはわたくしの容姿ばかりを見ては、契約を持ちかけてきました。彼らはいつも、心を持っていない従順で綺麗なお人形を欲しがっています。欲を満たすのは、他のお人形で良いと考えている自分勝手な化け物なのです。



 ねぇ、お父さま。


 わたくしが異性をそう思うのも、お父さまをそう認識しているからです。お母さまはお飾りのお人形で、欲を満たすのは愛人という名のお人形。


 婚約とは薄っぺらい約束で、結婚とは形ばかりの家族ごっこ。



 反面教師として両親を見ていたわたくしは、やがて人と接する事が怖くなり、臆病になりました。緊張しやすいのも、きっとその環境のせいなのでしょう。



 デビュタントとして、初めて舞踏会に足を運んだ日。


 その日は、人生の節目となる日でした。なぜなら、舞踏会後にわたくしは立派な大人のお人形として、化け物の家へ嫁がされる予定だったのです。お父さまが選んだ最上級のメリットを持っている化け物と家族ごっこをする予定が……。


 そんな心を殺すような日々の始まりは、舞踏会デビューの終わりと共にやってくるはずでしたのに……。



 あの日、わたくしはロメリアに声をかけられました。わたくしは本当に運が良かったと思います。人生最悪の日は、人生の転機となる日に変わりましたから。


 全部、ロメリアのおかげ。ロメリアに出会って、わたくしは初めてこの世界に光を見ました。お人形を求める化け物たちに、震えが止まらなかったのに……。


 ロメリアのお話は、わたしの考えを芥屑にして吹き飛ばしました。空っぽだった頭と心の中に、花が咲くまでの時間はそうかからなかったと思います。咲いた花ですか? 


 それはもちろん、“友情の花”と“恋の花”です。


 友情の花は絶対に枯れさせません。与えてもらったものが返せても、ロメリアの手を離さず一生涯握り続けたいと思っています。恋の花は……。実らなくても問題ありません。お人形だったわたくしが化け物だと思っていた異性を好きになれた事、それだけでもう奇跡ですから。



 そうそう。無知で何も持っていないと思っていたお人形は、成長する事が出来るお人形だったと、今気付きました。


 古い殻を突き破り、新しい時代を切り開くようなロメリアの考え方に影響されて、行動を起こした事が成長でしょうか。お父さまに逆らい、お父さまの意見を説き伏せ、自分の我儘を押し通した事が、お人形であったわたくしを変えて――――。




「セリアンヌ? さっきからボーっとしているけど、何か悩み事!? 今日は新しい茶葉を用意したから、飲み比べをしながら相談に乗るわよ」

「ふふ、それは楽しみだわ」

「それから、今日はカイルの新情報を手に入れたのよ。私の勘だけど、カイルには裏の顔がありそう。だから、心配なのよね」

「ロメリアは、わたくしの保護者みたいですわ」


 わたくしは毎日が楽しくて、幸せです。心強い友達がいて、人を好きになる喜びを知って、幸せが胸にいっぱい詰まっています。



 もう、わたくしはお人形じゃない。わたくしの名は、セリアンヌ・シュタベルだから。

明日は仕事があるのでお休みします。

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