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第2章:生まれた時から決まっていた運命なんてない(3)

 千春の父は料理が上手い。母が早くに他界し、祖母も、掃除洗濯着物の着付けは完璧だったのだが、料理は目玉焼きを作ろうとして玉子を握りつぶす腕前。

『飯を作るのはわしの役目ではないわい! そう生まれついたんじゃ!』

 そう豪語していたので、洋輔が、小学生の頃から食事係であったという。まあ、巡り巡って今役に立っているので、祖母は全面的に間違っていたわけではなかったのだろう。

 ダイニングテーブルの上には、エビチリソースがけ炒飯、レンズ豆と溶き卵のコンソメスープ、シーザーサラダに自家製ヨーグルト。澤森家の夕飯は大体いつもこれくらい振る舞われる。

「いただきます」

 両手を合わせて、箸を持つ。エビチリはピリ辛なのが美味しく、スープは濃すぎず薄すぎない。サラダもお手製ドレッシングがよく合う。

 いつもずっと家にいる洋輔が、どうやってこれだけのものを出せる生活費を稼いでいるのか。実は千春は知らない。ただなんとなく、祖父母の遺産でまかなっているのだろう、と薄々察するばかりだ。

 足元では、タマがむしゃむしゃとドッグフードにありついている。昔から、やけに味の好みにこだわりがあり、安いえさは食べないと思っていたが、人語を解するほどの知力を持っているならば、当然だったかもしれない。

 しばらく無言の食事が続き、千春が「ごちそうさま」を言うと、タマも「うむ、美味いメシじゃった!」と、ひっくり返ってふわふわの毛の腹をさする。よくやるこの仕草は、まったく犬らしくないと思っていたが、ただの犬ではなかったのだからこれも当然だ。

 千春が空になった食器を流し台へ持ってゆき、洗う。その間に洋輔は、余った料理の皿にラップをかけて、冷蔵庫へしまう。澤森家の無言の役割分担だ。

 それが終わると、普段ならば、千春は自室へ引っ込んで宿題をし、洋輔はだらだらとオンラインゲームを始めるのだが、今日は違った。父がコーヒーをれ、自分はブラック、千春にはミルクと砂糖をたっぷり入れたカフェオレに。タマにカフェインは大変危険なので、犬用ミルクを注いだ皿を置く。

 それぞれがそれぞれの味をちまちまなめながら、お互いに話を切り出す機会をうかがっていたのだが。

「ええい、まだるっこしいのは俺様に似合わねえ!」

 突然洋輔が声をはりあげ、どん、とテーブルを拳で叩くと、ポメラニアンのほうを向いた。

「おいタマ! こいつにカレンの話をしてやれ!」

 千春の心臓がどきりと大きく脈打つ。どうして、亡くなった母の名前が今出てくるのだろう。

「……わかった」

 千春の困惑もよそに、タマはミルク皿から顔を離し、小首を傾げて、真ん丸い黒の瞳でまっすぐにじっとこちらを見つめてくる。

「千春」

 やけに優しい声で呼びかけて、タマは語り出した。


「お前の母カレン、いや、カレン様は、お前を襲ってきたあのラパスと同じ、『自在なるもの(フリーマン)』だったのじゃ」

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