ハギレ
年末から少しづつ進めていた、押入れの大掃除の終りが見えたとある日。
ハーフサイズの衣装ケースの奥から、ダンボールが二つ発掘された。
封をしたガムテープが風化している。
ずいぶん古いもののようだけど・・・これはなんだろう。
恐る恐る箱を開けると、中からハギレがたくさん出てきた。
…ああ、そうだ、これは!
一時期パッチワークにはまっていた時代のお宝である。
一時期手作りの服にはまっていた時の時代のお宝である。
レースにリボン、チロリアンテープも少しある…布の間から顔を出すのは、様々なハンドメイド素材。
・・・その昔。
レースやフリルが大好きで、かわいい人形にドレスを作っては大喜びで着せていた、私。
自分には着こなすことのできない、夢のように乙女チックなドレスを作っていた、私。
娘が生まれたとき、それはもう喜んだのだ。
私の作った、フリフリの服を・・・思う存分、着せることができる!
よーし、自分でデザインしたとびきりのごってごてのドレス着せちゃお!
よーし、自分の趣味丸出しのもこもこの着ぐるみ着せちゃお!
よーし、自分の着たかったアニメキャラの服作って着せちゃお!
大喜びで、来る日も来る日もミシンを踏んだ。
大喜びで、来る日も来る日も毛糸を編んだ。
大喜びで、来る日も来る日も刺繍を施した。
作っては着せ、作っては着せ、作っては着せ、作っては着せ…!!!
「ひらひらのやつ、やだ。」
間もなく4歳になろうという時、娘は突如手作りウェアの一切を拒否するようになった。
ギャザーの多いふわりと広がるフレアースカートも、やけにフリルの多いジャンパースカートも、リボンが溢れるワンピースも、娘は一切着用しようとしなくなったのである。
それどころか、レースだらけの給食のナプキンや、ゴテゴテにデコられた手提げ袋、みっちりイラストを描き込んだ上履きすら使いたくないと、使いたくないと―!!!
何も言わずにニコニコして大人しく着飾られていた時代は…四年に手が届かぬうちに終了し、かわいらしい布その他もろもろが大量に残った。
・・・仕方がない、じゃあ人形作りに戻るか。
私は久しぶりにしまい込んでいた人形を出し、精を出したのだが。
「なんか怖い。」
変な所で怖がりの娘は、カントリー人形や球体関節ドールを怖がった。
大切なお人形を、泣く泣くお嫁に出した私は…人形用の服も作れなくなり―!!!
そうこうしているうちに、愛用の足踏みミシンが壊れてしまい、急速に裁縫全般から遠ざかる事になった。
リボンやレースは、その後ハマったフェルト工作でずいぶん消費したものの、ハギレはあまり使いどころがなくて…そのまま残ってしまったのだな。
ハギレは、あっという間にタンスの肥やしと成り果ててしまったのである。
およそ20年ぶりに開いた段ボールの中の、お宝たち一枚一枚と、丁寧にご対面させていただく。
ブルーのストライプ生地はアリスのワンピース用だな、チェック柄が多いのは私の趣味だ、可愛いキャラクタープリント生地は娘に着せたジャンパースカートの残りだな、ソフトチュールはドレス作ろうと思って買ったやつで、プリントガーゼはスモック作ろうと思ったんだった。
…どれもこれも、今の今まで存在を忘れていたというのに…捨てるのがもったいない、とても捨てられない!!
しかし、この生地を使う予定は・・・微塵もない。
愛用していた足踏みミシンはすでになく、いまはエレキテルな暴走ミシンしかいないのだ。
このところの目の衰えが、私に再びの裁縫ライフを迎えさせてくれないはずなのだ。
・・・さあて、どうしたもんかな。
明らかに端切れである、カット済みのものは・・・細かく裂いて、クッションカバーの中に入れ込んでみた。
・・・なかなかいい感じだ、でもなんとなく手触りが悪い。
そうだ、もこもこのカバーをかけたらよさそう。
・・・ソファの上に転がしたら、早速猫が枕にしている。
あとは・・・ほとんど未使用の布か。
わりと大きなサイズが多い。
シーツにでもしようか、でもちょっと生地が薄いんだよね。
カーテンにするにも、丈が短いし・・・。
ソファカバーにするにしては小さすぎる。
全部まとめて縫って、犬さんの座布団にしようか。
でもなあ、あんまり分厚くなると針が折れそうなんだよね・・・。
ミシンの直線縫いぐらいなら、多少目が衰えていても縫えるんだけどな。
ハンカチでも作って配ろうか。
でも枚数がものすごいことになりそうだ。
直線縫いで作れて、ある程度大き目の布が消費できる何か・・・。
・・・。
そうだ、エコバッグ作ろうかな。
長方形にカットして、綿テープ使ったら簡単に作れる。
思い立ったが吉日、膳は急げ。
私はさくっとすべての布をカットした。
空いた時間を見つけては、暴走ミシンを動かし続けて二週間。
私は38枚のエコバッグを完成させた。
ずいぶんかわいい、色鮮やかなエコバッグ。
少々作りすぎたかもしれないけど、まあ、使うものだし、何枚あってもいいよね。
私は玄関横に、いつでも持ち出せるようにエコバッグの入ったケースを置いた。
買い物前にケースの中からかわいい袋を一枚とって出かけるのが常になった頃。
「ねえねえ!これもらっていい?」
旦那がエコバッグの箱を指差している。
「いいけど、なんで。」
今度のグラウンドゴルフ大会の参加賞として、エコバッグを配りたいらしい。
「参加者が40人いるんだよ。これ何枚あるの。」
「38・・・いや、使ってるのが三枚くらいあるから、未使用なのは・・・ひいふうみい・・・34枚しかないよ。」
残念ながら6人分足りないな。
あきらめてもらうしかない。
「じゃあさ!追加で作ってー!よろしく!!」
「もう布ないよ!!無理!!」
ようやくハギレを処分したばかり、もう追加で布を買うつもりはない!
ぴしゃりとエコバック作成をお断りした私だったが。
「ねーねー!加藤さんがハギレくれたから追加作ってよ!!!」
「はあ?!」
その週の金曜日、旦那がダンボールを抱えて帰ってきた。
・・・中を見ると、ハギレが大量にはいっとるがな!!!
「げえ!!これ毛じゃん!!しかもなんか高そうな布ばっか!!」
「ぜんぶくれるってー!返さないでねっていわれた!!」
ちりめんにシルクっぽいもの、麻、スーツ生地?やけにゴージャスなプリント生地・・・こんなんエコバックにする勇気ないぞ!!
ないけど・・・作らないといけないパターンじゃん!作るしかないじゃん!!
「あさってまでに作れる?作れるよね!!お母さんさすがー!」
「くっそー!・・・作ったるわ!!!」
土曜日、朝から晩まで・・・布を裁ち裁ちミシンをかけかけ!!!!
16枚のエコバッグを・・・縫ったったわ!!!
「お母さんありがとねー!全部はけた!みんな大喜び!!!」
余分に作った分は加藤さんにあげてねと言ったんだけど、どうやらすべて参加者とスタッフに配った模様。
可愛いのは子供と女性がもらっていって、派手なのは男性がもらっていったらしい。
「またハギレもらってくるからさあ、作ってね!!」
「もうしばらく作りたくない・・・。」
うちの町内では、やけに可愛いエコバックを持った人と、ずいぶんゴージャスなエコバッグを持った人が・・・あちらこちらに、出現しがちなんですよ、そういう、お話です・・・。