表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート2月~

ハギレ

作者: たかさば

年末から少しづつ進めていた、押入れの大掃除の終りが見えたとある日。

ハーフサイズの衣装ケースの奥から、ダンボールが二つ発掘された。


封をしたガムテープが風化している。

ずいぶん古いもののようだけど・・・これはなんだろう。


恐る恐る箱を開けると、中からハギレがたくさん出てきた。


…ああ、そうだ、これは!


一時期パッチワークにはまっていた時代のお宝である。

一時期手作りの服にはまっていた時の時代のお宝である。


レースにリボン、チロリアンテープも少しある…布の間から顔を出すのは、様々なハンドメイド素材。



・・・その昔。


レースやフリルが大好きで、かわいい人形にドレスを作っては大喜びで着せていた、私。

自分には着こなすことのできない、夢のように乙女チックなドレスを作っていた、私。


娘が生まれたとき、それはもう喜んだのだ。


私の作った、フリフリの服を・・・思う存分、着せることができる!


よーし、自分でデザインしたとびきりのごってごてのドレス着せちゃお!

よーし、自分の趣味丸出しのもこもこの着ぐるみ着せちゃお!

よーし、自分の着たかったアニメキャラの服作って着せちゃお!


大喜びで、来る日も来る日もミシンを踏んだ。

大喜びで、来る日も来る日も毛糸を編んだ。

大喜びで、来る日も来る日も刺繍を施した。


作っては着せ、作っては着せ、作っては着せ、作っては着せ…!!!



「ひらひらのやつ、やだ。」



間もなく4歳になろうという時、娘は突如手作りウェアの一切を拒否するようになった。


ギャザーの多いふわりと広がるフレアースカートも、やけにフリルの多いジャンパースカートも、リボンが溢れるワンピースも、娘は一切着用しようとしなくなったのである。


それどころか、レースだらけの給食のナプキンや、ゴテゴテにデコられた手提げ袋、みっちりイラストを描き込んだ上履きすら使いたくないと、使いたくないと―!!!


何も言わずにニコニコして大人しく着飾られていた時代は…四年に手が届かぬうちに終了し、かわいらしい布その他もろもろが大量に残った。


・・・仕方がない、じゃあ人形作りに戻るか。

私は久しぶりにしまい込んでいた人形を出し、精を出したのだが。



「なんか怖い。」



変な所で怖がりの娘は、カントリー人形や球体関節ドールを怖がった。


大切なお人形を、泣く泣くお嫁に出した私は…人形用の服も作れなくなり―!!!



そうこうしているうちに、愛用の足踏みミシンが壊れてしまい、急速に裁縫全般から遠ざかる事になった。

リボンやレースは、その後ハマったフェルト工作でずいぶん消費したものの、ハギレはあまり使いどころがなくて…そのまま残ってしまったのだな。

ハギレは、あっという間にタンスの肥やしと成り果ててしまったのである。


およそ20年ぶりに開いた段ボールの中の、お宝たち一枚一枚と、丁寧にご対面させていただく。


ブルーのストライプ生地はアリスのワンピース用だな、チェック柄が多いのは私の趣味だ、可愛いキャラクタープリント生地は娘に着せたジャンパースカートの残りだな、ソフトチュールはドレス作ろうと思って買ったやつで、プリントガーゼはスモック作ろうと思ったんだった。


…どれもこれも、今の今まで存在を忘れていたというのに…捨てるのがもったいない、とても捨てられない!!


しかし、この生地を使う予定は・・・微塵もない。


愛用していた足踏みミシンはすでになく、いまはエレキテルな暴走ミシンしかいないのだ。

このところの目の衰えが、私に再びの裁縫ライフを迎えさせてくれないはずなのだ。


・・・さあて、どうしたもんかな。


明らかに端切れである、カット済みのものは・・・細かく裂いて、クッションカバーの中に入れ込んでみた。

・・・なかなかいい感じだ、でもなんとなく手触りが悪い。


そうだ、もこもこのカバーをかけたらよさそう。

・・・ソファの上に転がしたら、早速猫が枕にしている。


あとは・・・ほとんど未使用の布か。

わりと大きなサイズが多い。


シーツにでもしようか、でもちょっと生地が薄いんだよね。

カーテンにするにも、丈が短いし・・・。

ソファカバーにするにしては小さすぎる。

全部まとめて縫って、犬さんの座布団にしようか。

でもなあ、あんまり分厚くなると針が折れそうなんだよね・・・。


ミシンの直線縫いぐらいなら、多少目が衰えていても縫えるんだけどな。


ハンカチでも作って配ろうか。

でも枚数がものすごいことになりそうだ。


直線縫いで作れて、ある程度大き目の布が消費できる何か・・・。


・・・。


そうだ、エコバッグ作ろうかな。


長方形にカットして、綿テープ使ったら簡単に作れる。


思い立ったが吉日、膳は急げ。

私はさくっとすべての布をカットした。


空いた時間を見つけては、暴走ミシンを動かし続けて二週間。


私は38枚のエコバッグを完成させた。

ずいぶんかわいい、色鮮やかなエコバッグ。


少々作りすぎたかもしれないけど、まあ、使うものだし、何枚あってもいいよね。

私は玄関横に、いつでも持ち出せるようにエコバッグの入ったケースを置いた。



買い物前にケースの中からかわいい袋を一枚とって出かけるのが常になった頃。


「ねえねえ!これもらっていい?」


旦那がエコバッグの箱を指差している。


「いいけど、なんで。」


今度のグラウンドゴルフ大会の参加賞として、エコバッグを配りたいらしい。


「参加者が40人いるんだよ。これ何枚あるの。」

「38・・・いや、使ってるのが三枚くらいあるから、未使用なのは・・・ひいふうみい・・・34枚しかないよ。」


残念ながら6人分足りないな。

あきらめてもらうしかない。


「じゃあさ!追加で作ってー!よろしく!!」

「もう布ないよ!!無理!!」


ようやくハギレを処分したばかり、もう追加で布を買うつもりはない!


ぴしゃりとエコバック作成をお断りした私だったが。


「ねーねー!加藤さんがハギレくれたから追加作ってよ!!!」

「はあ?!」


その週の金曜日、旦那がダンボールを抱えて帰ってきた。

・・・中を見ると、ハギレが大量にはいっとるがな!!!


「げえ!!これ毛じゃん!!しかもなんか高そうな布ばっか!!」

「ぜんぶくれるってー!返さないでねっていわれた!!」


ちりめんにシルクっぽいもの、麻、スーツ生地?やけにゴージャスなプリント生地・・・こんなんエコバックにする勇気ないぞ!!

ないけど・・・作らないといけないパターンじゃん!作るしかないじゃん!!


「あさってまでに作れる?作れるよね!!お母さんさすがー!」

「くっそー!・・・作ったるわ!!!」


土曜日、朝から晩まで・・・布を裁ち裁ちミシンをかけかけ!!!!

16枚のエコバッグを・・・縫ったったわ!!!



「お母さんありがとねー!全部はけた!みんな大喜び!!!」


余分に作った分は加藤さんにあげてねと言ったんだけど、どうやらすべて参加者とスタッフに配った模様。

可愛いのは子供と女性がもらっていって、派手なのは男性がもらっていったらしい。


「またハギレもらってくるからさあ、作ってね!!」

「もうしばらく作りたくない・・・。」


うちの町内では、やけに可愛いエコバックを持った人と、ずいぶんゴージャスなエコバッグを持った人が・・・あちらこちらに、出現しがちなんですよ、そういう、お話です・・・。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 発揮される才能。 すごいですね。エコバッグを作れるなんて。 私なんて、8年前(くらいかなぁ?)にフ○パンのシールを集めて貰ったミッ○ィーのエコバッグを、ず〜っと使い続けています。頑丈なので気…
[一言] いいなあエコバッグ! 私は最近刺繍にハマってて、色んなところにチクチク針を刺しています。端切れを使って創作するのも楽しそう。手芸、暇さえあれば楽しめるんだけどね…(時間がとても掛かる)
[一言] オチーーー!! ふふってなりました(笑) それにしても凄い! ミシンの直線縫いですら曲がってしまう (そもそも去年まで怖くてミシン触れなかった) 私は、ただただ尊敬するばかりです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ