俺の好きな子は弟の義弟だ
昔からあった設定。義理の兄弟の恋愛もあるのならこういうパターンもみたい
小さい時から星を見るのが好きだった。
父と一緒に天体望遠鏡を取り出して夜空を見に行くのが週末の楽しみだった。
そんな父と俺を母と弟は何でそんなものがいいのやらと呆れていた。
趣味が全く合わない両親が仕事やら環境などが理由で離婚するの事になった時に悲しいと思ったが、ああ、来るべき時が来たと思ったものだ。
父と同じ物が好きな俺は父に付いて行き、弟は母に付いて行った。
それでも、小さい時は月に一回は母に会いに行ったが、それも母が再婚したと聞いてから会いに行かなくなった。
さて、なぜ、そんな事を長々と話していたかと言うと。
「和真さん。見てください!! ほら!!」
プラネタリウムに広がっている満天の星空。
今回のテーマは古代の星空というものであった。
それに興奮しているのは俺――臼井和真の恋人である瀬能宏哉くんである。
「うん。見てるよ」
「すごいですよね。今ではこの星空は見れないんでしょね………」
「そうだね。星座も変わっているからね」
有名な話だとアルゴー船だろう。かつては一つの船の星座だったが、船の部品に分かれてしまったとか。
(蛇使い座と蛇座は一緒だったというのもあったかな)
そして、いま見えている星座も何万光年向こうの光が届いているだけで、消えている星もある。
それがすごいと思えてしまう。
「地球の光もどこかの星では星座のように見えるんでしょうかね」
「もしそうならロマンチックだね」
プラネタリウムを見終わると二人で食事に向かう。
「で、皆既日食の写真を貰ったから壁に飾ろうとして額縁を用意したら兄貴が”そんな物のためにわざわざ買うのかよ”と呆れて」
パスタを巻きながら出てくるのは愚痴。
「昔から星のどこがいいのかと言う奴だったからね」
「和真さんと同じ顔だからこそ余計腹立ってきて」
「はは……」
同じ顔なのは当然だろう。
宏哉くんの言っている兄は俺の離婚した双子の弟透真だから。
社会人である俺と高校生の宏哉くん。
本来なら接点が生まれないはずの俺達が知り合ったのはまさに透真の所為と言うかお陰と言うか。
宏哉くんが俺を透真と間違えたからだった。
社会人になったばかりの忙しさで星を見たいから遠出をしたくてもそんな気力も体力も時間もない自分の息抜きは近所のプラネタリウムに行く事だけだった。
正直、プラネタリウムがあるから一人暮らしをすると決めた時にここを選んだのだ。大学時代は免許もあったし、レンタカーで遠出したので行く機会がなかったのだが、ここを選んで正解だったなと本物を見に行けないのでプラネタリウムに通い詰めていたのだが。
そんなある日。
じぃぃぃぃぃ
いつものようにプラネタリウムに通っていたある金曜日に。
じぃぃぃぃぃぃ
ぶしつけな視線を感じて、無視する事も出来ないのでそっちを見るとそこには学生服の少年が居たのだ。
じっと見ていた事に気付かれたとその少年は慌てて、びくびくと怯えたように近付いて。
「興味ないって言っていたのになんでいるの?」
と尋ねて来たのだ。
「初めて会うよね……?」
少なくても高校生の知り合いはいない。
「はぁッ!? 何言ってんだよ!! そこまで他人の振りしたいの。星に興味ないと言っていたから今更肯定も出来ないって事?」
呆れたように告げてくるが、星に興味ないと言った事ないし、聞かれもしないが。
「誰かと間違えていないかな?」
「誰かって、間違えようないだろ兄貴」
兄貴。
「俺に弟はいないけど」
「はぁ!? 毛嫌いしているのは知っているけどそんな態度なわけ~!?」
ムカつく。
「いや、本当に人違いだと思う。俺は臼井和真と言うのだが……」
君とは初対面だ。
「えッ………?」
信じられないと目を大きく見開いて。
「瀬能透真じゃないの? 俺の兄の」
「………………いや、違う」
世の中には似た人が三人いると言うからな………。
「んっ? 透真?」
それって……。
「もしかして再婚して兄弟になったんじゃないの」
「なっ、何で知って………って、もしかして……」
思い当たったのだろう。
少年はこっちを指さして。
「兄貴の双子の人……」
「弟の義理の弟くんね」
互いに相手の正体を知ったのだった。
最初は気まずさがあったが、話をしているといつの間にか時間が過ぎていく。
こんなに話が弾んだのも初めてで、これでお別れと言うのが寂しいと感じて連絡先を教え合った。
最初はプラネタリウムを一緒に行って、その後食事をする流れに。
そのうち、車で遠出して、星空を見に行くようになった。
それが当たり前になった時。
星空の下で自然と口付けを交わしていた。
だけど。
「和真さん」
ぼんやりしていたら覗き込まれる。
「どうかしましたか?」
「いや、別に……」
食事の手が止まっていたら心配になるよな。
フォークを動かして食事を再開する。
美味しいと評判だと同僚に聞いたのだが味が分からない。
自慢ではないが、父と二人で暮らしていたからか上品な味付けとか高い料理よりも安くて量のある料理を好んでいたからこういう料理は苦手だった。
でも、宏哉くんに喜んでもらいたいから来てみたのだ。
(きっと、透真ならこういう店に来るんだろうな)
最初は気にならなかった。
星の話題をすればよかった。
でも、一緒に居ればいるだけ。
宏哉くんの口から”兄貴”の話題が出るたびに。
もしかしたらという想いになるのだ。
「ねえ、和真さん」
食べ終わった宏哉くんがフォークを置く。
「あのさ。俺が兄貴と似ているから身代わりで和真さんと付き合っていると思ってる?」
「っ!!」
図星だった。
義理とはいえ、兄弟だ。抵抗があったから似ている代理で誤魔化したんではないかと。
「やっぱ、そういう勘違いしているんですね」
「いや……、いまだに敬語が抜けないし、なんとなく兄貴……透真の話ばかり出ているから」
目が泳ぐ。
「ごめんなさい」
「いえ、いいんです」
そう思われても仕方ないですし。
「………でも、考えた事あるんですよ。もし、再婚して兄弟になったのは兄貴じゃなくて和真さんだったらって」
びくっ
「最初から気が合ったでしょうね。仲の良い兄弟になって……」
「………だね」
そんな未来もあったかもしれない。
「でもね。もしそういう場合でも俺は和真さんを兄弟じゃない好きになっています」
そっと握られる手。
「だって、俺はいつも和真さんに会うとドキドキしますから」
顔を赤らめて微笑んで告げる。
その顔を見て、
「不安になる必要なかったね」
と泣きそうになりながら微笑んだ。
短編にしたかったからこんな形