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防空壕の中の秘密

掲載日:2020/08/27

「はい、今日はここまで。次回は9月の2学期だ。事故や病気には気を付けろよ。あと宿題忘れたら、2学期初日に課題を用意するから、忘れないように。では、解散!」

担任の注意が終わったら、教室内では夏休みのイベントや旅行など、楽しい話題が盛り上がっていたり、中には急いで帰る人もいました。

「雫、今日どうする?」

「とりあえず家に帰る。」

私、櫻井雫は都内の女子高に通っていて今日から夏休みを迎えようとしています。

友達の桃山陽子とは家が近所で保育園からの幼馴染です。

炎天下の中、うちわを扇ぎながら帰ることになりました。

学校から自宅までは電車で20分、そこからバスで自宅までは15分でした。

ただ一つ難点なのはバスの本数が少ないので駅までは雨の日を除いて自転車を使うことにしています。

駅前の本屋さんで雑誌を1冊買い、そのまま自転車で帰ろうとしたら、陽子が「家まで競争しよう」って言いました。

私は「うちの近くは車の通りが激しいから無理」と言って断ります。

それに陽子の自転車はマウンテンバイク、私のはママチャリなので、特に坂道だらけの家の近所は陽子のマウンテンバイクが有利になります。

家に着くころにはいつも疲れ切った状態なので、部屋に戻るなりベッドで横になっていました。

「昼間の1時間3本は少なすぎる。」私はそう判断して運行時間を増やしてもらうよう、バス会社のホームページから嘆願書を送りました。

もちろん私一人だけではどうにもならないとわかっていたので、あきらめてベッドでスマホをいじっていました。

その日の夕食、母から夏休みの予定のことを気かれました。

「雫、夏休み予定はあるの?」

「宿題終わらせる。」

「それ以外は?」

「特にないかな。」

「じゃあ、キャンプに行かない?あんたアウトドア好きなんでしょ?」

「うん。」

「いつにしようか?」

「私はいつでもいいよ。」

「8月14日から17日でいいんじゃない?ちょうどそのころだったら、休み取れやすいから。」

「そうだね。そうしましょうよ。隣の桃山さんを誘っていこうよ。」

「ただ、お隣さん忙しそうだから、正直誘いづらいんだよな。」

「じゃあ、せめて陽子ちゃんだけでも誘おうか。雫、あとで陽子ちゃんに予定を聞いてちょうだい。」

「わかった。」

夕食を終えた後、私は陽子にLINEのメッセージで14日の予定を確認したら、大丈夫だったので私は母に伝えました。

次の日から早速二人で宿題を進めました。

大量にあった宿題もキャンプの5日前には終えることが出来ました。

「終わったー!」

「お疲れ!」

「あっているかどうかチェックしない?」

「いいよ。」

二人でチェックして答え合わせが済んだころには太陽が傾きかけていたので、買い物や遊びは明日以降にしました。

次の日、私は14日に行くキャンプ場の周辺を見たら近くに川があることを知ったので、水着を買いに行こうと思ったので、陽子と一緒に駅前のショッピングセンターまでバスで向かいました。

バスの中はクーラーが効いていてとても快適でした。

「やっぱ夏はバスが最高だね。」

「うん、自転車だと汗が止まらなくなるからね。」

私と陽子は駅前までこの快適な時間を過ごしていきました。

バスを降りると地獄の炎天下。ショッピングセンターまでは徒歩2分ですが、正直この2分が地獄に感じました。

中に入るとクーラーが効いていて再び天国を味わうことになりました。

早速水着売り場に行って新しい水着を購入して、1階のフードコートへ向かう時でした。

「そういえば雫、ゴーグルってどうする?」

「ゴーグルって水中眼鏡のこと?」

「うん。」

「授業で使っているのでいいんじゃない?」

「あれって、完全にレース用じゃん。かなり違和感がでるよ。素潜り用のでかいのにしない?」

「高いし、小遣いが破産するから授業で使っているのにしよう。もし、違和感があるなら水着も授業用にすればいいじゃん。」

「そうだね。」

陽子はしぶしぶと返事をしました。

1階のフードコートに向かって私と陽子は冷やし中華を食べました。

「やっぱ、この時期は冷やし中華だよね。」

「うん。」

私と陽子はほんのり甘みのきいた冷やし中華を食べ終えた後、バス乗り場へと向かいました。

しかし、帰りのバスまで時間があったので、キャンプに持っていくお菓子を買いました。

「陽子、ちょっと買いすぎじゃない?」

「3泊4日だし、これくらいあったほうがいいよ。みんなで食べたらすぐになくなるよ。」

「それもそうだね。」

「あと花火も買わない?」

陽子は花火のセットまで買おうとしました。

「小遣い大丈夫?水着とお菓子買って。他にほしいものがあるんでしょ?花火のセットは母さんに買ってもらうように言っておくから。それに荷物が多いと帰り困るでしょ?」

「うん。」

結局花火はあきらめてバスに乗って家に戻ると、早速両親がキャンプの準備をしていました。

「お、雫ちょうどいいところへ来た。少し手伝ってくれ。」

私はキャンプに必要な道具をすべてそろえました。

「一応炭と鉄板を用意したよ。向こうでバーベキューをやろうと思っているから。」

「バーベキュー!やったー!」

私のテンションは一段と上がりました。

「鶏肉も買っておいたよ。」

「ありがとう。」

「花火も買っておいたわよ。」

今年の夏は最高にいい思い出が出来そうだとそう思っていました。

しかし、これから行くキャンプ場で恐ろしい出来事に遭遇するとはだれも予測していませんでした。

「お父さん、テントは?」

「あ、いい忘れた。今回行くところはバンガローがあるから、テントはいらないんだよ。でも、一応食事用に屋根だけの簡易型テントは用意しておこう。寝る時も布団で寝られるし、電気が通っているからスマホの充電もできるよ。」

「あと遊び道具も用意してもいい?」

「いいぞ。なんでも用意しろ!」

私は部屋から人生ゲームを用意しました。

後は当日待つだけとなりました。

「お父さん、地図用意したほうがいい?」

「なんで地図が必要なんだ?うちの車にはカーナビがあるじゃないか。」

「そうだね。」

「おかしなことを言う人だな。」

父は少し苦笑いをしながら私に言いました。

私は用意した荷物を玄関に並べて、部屋に戻り眠りました。

そしてキャンプ当日がやってきました。

荷物を積んでいたら陽子とその両親がやってきました。

「おはようございます。桃山です。」

「あ、どうもおはようございます。」

「櫻井さん、家族水入らずのお出かけに、うちの娘がお世話になります。陽子、ご挨拶なさい。」

「今日からお世話になります。よろしくお願いします。」

「よろしくね。陽子ちゃん。」

母は陽子に優しく微笑みました。

「あれ、雫ちゃんは?」

「すみません、ちょっと呼んできますね。」

「櫻井さん、本当は我々も同伴したかったのですが、会社を休むことが出来なかったので・・・・」

「いえいえ、お仕事が優先です。頑張ってきてください。娘さんは我々が責任もってお世話をしますので。」

「それではよろしくお願いします。あと、これつまらないものですが移動中皆さんで召し上がってください。」

「わざわざご丁寧にありがとうございます。」

陽子の両親はお菓子パンの入った袋を渡した後、軽くお辞儀をして会社へ向かいました。

もう出発の時間が過ぎているにも関わらず私はベッドで寝ていました。

「雫、入るわよ。」

「まだ寝ていたの!?早く起きて、着替えを済ませなさい!」

私は時計を見るなり、あわてて着替えて玄関に出ました。

「あれ?荷物は?」

「お父さんとお母さん、陽子ちゃんで全部済ませました。」

「じゃあ、行きましょうか。」

「待ちなさい。何か言うことあるでしょ?」

「大変お待たせして、すみませんでした。」

「なんで遅れたんだ?」

父の眼力はいつもより迫力がありました。

「実は昨夜キャンプの日が待ちきれなくて、眠れなくなったから少しスマホをいじっていたら寝坊しちゃった。」

「あきれた。お前は遠足前の小学生か?ま、いい。早く車に乗りなさい。」

大き目のワンボックスカーに乗って、秩父の外れにあるキャンプ場へ向かいました。

車を走らせて1時間が経ち、関越道は渋滞で動きませんでした。

お盆だからでしょうか。

父は少し疲れた表情を見せて首を動かしてみたり、目を2~3回ほど瞬きをしていました。

「あなたよかったら運転変わろうか。」

「いや、大丈夫だ。」

陽子は行く前に買っておいたポテトチップを取り出しえて、私の両親に差し出しました。

「よかったら召し上がってください。」

「ありがとう。もうじきサービスエリアだし、そこで一休みでもしましょうか。」

「そうだな。ちょうどトイレも行きたくなったし。」

高坂サービスエリアで少し遅めの朝食をとることにしました。

「陽子ちゃんは何が食べたい?おばさんが何でもおごるから。」

「それでは悪いです。」

「子供は遠慮したらダメなんだよ。」

陽子は少し遠慮した表情で「それではたぬきそばを頂きます。」と言いました。

「了解!雫は何にする?」

「私もたぬきそばにする。」

両親はそろってカレーライスを食べました。

そのあとは自販機で冷えたお茶を買って、移動しながら飲んでいきました。


キャンプ場に着いたのは3時前でした。

フロントで鍵を受け取った後、車から荷物運びが始まりました。

その量は引っ越し荷物並みでしたので、それだけで一仕事終えた感じでした。

屋根だけの簡易型のテントを張って、その中にテーブルを用意しました。

「お疲れ。」

父はバンガローに入るなり、体を大の字に広げて眠ってしまいました。

私は用意していたお菓子を食べながら陽子と一緒にスマホをいじっていました。

「あんまり調子に乗って食べると夜何も食べられなくなるよ。」

「はーい。」

気が付いた時には父は炭を用意して火おこしをしていました。

陽子も母と一緒に野菜を切っていました。

「雫、あんたも手伝いなさい。あんたは水道へ行ってお米をといできてちょうだい。」

「はーい。」

私はお米の入った飯ごうをもって水道へと向かいました。

その一方では父が鉄板の上で肉や野菜を炒めていました。

そのあと遅れて私がといだ米を火のついた薪の上に棒でつるして焚きました。

鉄板の上では肉や野菜が次々と焼きあがって行って、その中に私の大好きな鶏肉も入っていました。

私は韓国のステンレス製の箸、陽子は中華料理用のメラミン製の箸で食べ始めました。

「雫の箸って韓国料理用だよね。」

「うん、陽子の箸もあんまり見ないけど・・・。」

「私のは中華料理で使う箸だよ。」

「どこで買ってきたの?」

「ネットで。」

「そうなんだ。」

鉄板の上の料理を食べ終えた後、母が飯ごうで炊いたご飯で塩の効いたおにぎりを用意してくれました。

パリパリの海苔にまかれて、中身は筋子とたらこ、昆布でした。

最後に出されたデザートは焼きプリンでした。

「おばさん、ごちそうさまでした。」

「いいえ、お粗末様でした。」

「この食器、水道へ持っていきますね。」

「悪いわね。じゃあ、お願いしちゃうね。」

私と陽子は食べ終えた食器を洗うために水道へ持っていきました。

「今日のバーベキュー、美味しかったね。鶏肉と玉ねぎが合うなんて思わなかったよ。」

「泣きながら切った甲斐があったよ。」

食器や鉄板を洗い終えた後、みんなで人生ゲームをやろうとしましたが、父は運転の疲れが残っているので、そのまま寝てしまいました。

母も眠そうでしたので、結局2人で遊ぶことにしました。

「あ、就職したから祝い金ちょうだい。」

「はーい。」

「次、私。」

私がルーレットを回していたら、近くから変な噂話が聞こえてきました。

そうっと耳を傾けようとしたら陽子が「雫の番だよ。早くルーレット回してよ。」

「しっ、静かに。何か話し声聞こえない?」

「どうしたの?」

「何か気になる会話が聞こえてくるの。」

私と陽子はゲームを中断して会話に耳を傾けました。

「なあ、この近くに古い防空壕があるらしいぜ。」

「マジ?じゃあ、これから行ってみる?」

「やめた方がいい。戦没者や空襲の犠牲者の幽霊が出るらしい。」

「場所ってどの辺なの?」

「このキャンプ場の外れ。ちょっとだけ行ってみない?」

「そうだな。」

会話はここで終わってしまいました。

私と陽子は再びゲームの続きをしました。

ゲームをやっている最中、やはりさっきの会話が気になっていました。

「雫の番だよ。雫?」

「あ、ごめん。」

「どうしたの?」

「さっきの会話が気になっていたから・・・。」

「じゃあ、今日は終わりにする?」

「そうだね。疲れたし、片付けて続きは明日にしようね。」

私はゲームを片付けて、そのまま布団にもぐりました。

翌朝私は皆よりも少し早めに目が覚めてしまったので、着替えてキャンプ場の周辺を散策してみることにしました。

セミやカラスの鳴き声が聞こえてきました。

私はどうしても昨夜の会話が気になって仕方がなかったので古い防空壕を探して歩くことにしてみました。

確か昨日の話によればこのキャンプ場の外れにあると言う情報でした。

歩くこと10分、たどり着いた場所は人のいない寂しい場所でした。

少し霧がかかっていて、近くにはお地蔵さまや慰霊碑と思われるものが建っていました。

さらに先へ進むと「危険立ち入り禁止」と書かれた立て札がありました。

私は霊感が強い方ではありませんが、とてつもない恐怖を感じましたので、急いでバンガローに戻ることにしました。

戻ってみるとすでに朝食の準備が始まっていました。

「お帰り、どこへ行ったの?」

「キャンプ場の外れの方まで。」

「何かあった?」

「お地蔵さまと戦没者の慰霊碑があった。昨日よそから古い防空壕があると聞いたから行ってみたけど、怖そうだったからやめた。」

「そのほうがいいかもしれないね。あんまり近寄ると今度は戻れなくなるよ。」

「そうだね。」

「それより今日みんなでプールに行かない?この近くに大きなレジャープールが出来たみたいだよ。」

「本当に!?」

「うん。」

朝食を済ませた後、片づけをしてプールへと向かいました。

車で15分の巨大なプールで、ウオータースライダーや流れるプールもありました。

早速更衣室で水着に着替えて準備体操を済ませて水の中へと入りました。

父と母は水着に着替えたもの、プールサイドで休んでいました。

「雫、どこから行く?」

「どこからでもいいよ。」

「じゃあ、ウオータースライダーからいこうよ。」

「うん。」

私は陽子に言われるままウオータースライダーまで向かいました。

その間も今朝行ったキャンプ場の外れにある場所が気になって仕方がありませんでした。

戦没者の慰霊碑、近くのお地蔵さん、きっと何かがあるに違いないと思いました。

そして一番気になったのは立ち入り禁止の場所でした。

なぜ立ち入り禁止になっていたのかはその時は考えてもいませんでした。

「次、雫の番だよ。早く滑ってよ。」

「あ、悪い。」

私と陽子はウオータースライダーを2回ほど滑ったあと、流れるプールに向かいました。

「雫、どうしたの?なんだか変だよ。」

「そんなことないよ。早めに目が覚めたから・・・。」

陽子の目は疑惑に満ちていました。

「雫、私の目はふしあなじゃないよ。正直に話して。」

「本当に何でもないから。」

「あのね、私は保育園の時からずーっと一緒だったから分かるけど、雫が『なんでもない』って言うときって決まって何か隠していることが多いの。だから正直に話してちょうだい。」

「陽子には負けた。正直に話すから。少しだけ離れて。」

私は今朝行ったキャンプ場の外れにあるお地蔵さんのこと、戦没者の慰霊碑のこと、立ち入り禁止の場所のことなどすべて話しました。

「なるほどね。雫はそこに幽霊が潜んでいるかもしれないと思ったわけね。」

「うん・・・。」

「今夜おじさんとおばさんが寝た後、こっそり抜けてみない?」

「そうだね。」

「ま、それは今夜決めることにして、お腹が空いたから何か食べない?」

「うん。じゃあ、一度父さんと母さんと行流してからにしよ。」

私と陽子は一度父と母と行流して食事をすることにして、4人で焼きそばを食べました。

「どう、二人とも楽しんでる?」

「はい、ここのプール大きいので驚きました。」

「今年の6月に出来たばかりでまだ新しいんだよ。」

「そうなんですね。」

「食事の後、父さんと母さんも泳ぐけど、君たちはどうする?やっぱ別行動?」

「そうさせてもらいます。」

「じゃあ、2時にこの時計台の下で合流しよう。ここのプールはいろんな箇所に時計が設置されているから、今何時なのかはすぐにわかる。それまでは自由時間だ。」

父と母はウオータースライダーに向かい、私と陽子は波の出るプールへ向かいました。

その間も私の頭の中はキャンプ場の外れにあったお地蔵さんと慰霊碑のことでいっぱいでした。

「あ、雫。またさっきのこと考えていたでしょ?」

「わかった?」

「わかるよ。すぐに顔に出るから。」

陽子の勘にはかなわないので、私はプールで遊ぶことに集中しました。

時計を見てみると約束の2時が迫っていたので私と陽子はプールからあがって父と母との約束の場所へと向かいました。

そのまま更衣室へ向かい、水着は更衣室に設置されてる脱水機にかけたあと、入り口近くのロビーでジュースを飲みながら父が戻るのを待っていました。

車でバンガローに戻り、着替えを用意した後、キャンプ場内の公衆浴場に向かいました。

そこでも、私たち以外にもキャンプ場の外れにあるお地蔵さんや戦没者の慰霊碑のうわさが広がっていました。

そんなに有名なのかと思って、夕食を済ませてみんなでトランプ遊びをした後、父と母に「肝試しをしてくる」と言い残し、問題の場所へと向かいました。

母は「あまり遅くならないうちに戻って来るんだよ」と言ってバンガローの中へ入りました。

その時の私と陽子はただの興味本位だけの気持ちで向かいましたが、それがとんでもない展開につながるとは、その時は思ってもいませんでした。


懐中電灯を照らしながらキャンプ場の外れへと歩いていったら、最初に目に着いたのは地蔵さんと戦没者の慰霊碑があり、その先を進むと立ち入り禁止の札がありましたが、それを通っていくと目の前には大きな木製の扉がありましたので、私はそっと開けてみると、下に通じる長い階段がありました。

中は当然真暗でしたので、私と陽子はそうっとゆっくり歩いていくと薄明りの通路に差し掛かりました。

天井を見ると小さな照明がつるされていました。

ゆっくり歩いていると天井から水滴が垂れてきました。

私は思わず反射的によけてしまいました。

さらに奥へ進むと左右にいくつかの扉を見かけました。

「いったいなんだろう」と思いながら歩いていったら、前方から一人の老人らしき人に遭遇しました。

立ち入り禁止の場所へ入ったことを叱られれるのかと思って覚悟していたら、「そこで何をしてるんだ!」と大声で言われました。

私は反射的に「すみません、立ち入り禁止とわかっていながら出来心で入ってしまいました。すぐに出ていきますので許してください。」と謝ってしまいました。

しかし、老人は意外な返事をしました。

「何を言っているんだ?外は戦争の真っ最中だ。すぐに隠れなさい。」

「隠れるってどこですか?そもそもここは防空壕の跡地なのでは?」

「防空壕の跡地?何を言っている。ここは防空壕であるとともに我々帝国軍の地下の基地だ。やがて奴らにも見つかる。どこか部屋の中へ隠れなさい。」

「帝国軍って、失礼ですが戦争は昭和20年8月に終わっています。今は平成30年の8月です。」

「平成?聞いたことのない元号だな。では聞くが、なぜ昭和20年8月に戦争が終わるんだ?我々帝国軍がアメリカにとどめを刺すのか?」

「違います。昭和20年8月6日に広島に原子爆弾が投下され、その3日後8月9日は長崎に原爆が投下されます。そして日本は8月15日に無条件降伏して戦争が終わります。その後日本はアメリカの支配下になります。そして平成とは今の元号のことです。」

「日本が負けるだと?適当なことを言うな!今は昭和20年6月ではないか。今もこうして我々の兵士が外で戦っている。それを侮辱するとは許さんぞ!」

老人が少し興奮した状態で話していたら、後ろから別の足音が聞こえてきました。

足音はだんだん近づいてきます。

後ろを振り向いたら、軍服を着た一人の若い男性が立っていました。

「隊長どうされましたか?」

「やあ、村上君ご苦労さん。実はこのお嬢さんがさっきから妙なことばかり言っているんだよ。」

「妙なことと言いますと?」

「私から言うより、本人が言ったほうが早い。お嬢さん、村上君にきちんと説明してあげなさい。」

私は今老人に話したことを一から話しました。広島と長崎に原爆が投下されたこと、アメリカに無条件降伏すること、今の元号が平成であることを話しました。

「確かに隊長のおっしゃる通り妙なことを口にしていますね。それに見慣れない格好をしている。どこから来たんだね?」

「私たちはこの近くのキャンプ場から来ました。」

「キャンプ場?」

「おいバカなことを言わないでくれ。この近くは戦場じゃないか。」

その時の私と陽子は戦没者の霊が作り上げた幻の世界にいるとは思ってもいませんでした。

さらに村上さんという人は老人と小声で何かを話し始めました。

その内容は全くわかりませんでした。

「これからお嬢さんたちにふさわしい部屋を案内するよ。」

私と陽子が案内された部屋はとてもきれいで、机一つに大きなソファが2つありました。

「この部屋は?」

「ここは貴賓室だよ。お嬢さんたち、もしかしたら皇室にゆかりのある人でしょ?あ、なんていうか、失礼な言い方にすると世間知らずっていうか、箱入りなんでしょ?とにかく戦争が終わるまでこの部屋で隠れていなさい。何か用があったら机の上の鈴を鳴らしてくれれば駆けつけるから。」

「では、ここで要件を伝えます。今すぐ私たちを地上へ出してください。」

「ダメだ!地上では戦争の真っ最中だ!この地下にもやがては敵に見つかる。そうならないうちに我々が食い止める!それまでこの部屋から一歩も表に出るな!」

「先ほども話したように今は平成で戦争は終わっているのです。」

「まだそれを口にするのか!」

「だって事実ですから。現に地上ではみんな平和に暮らしているのです。」

「村上君、このお嬢さんたちは何も知らない世間知らずなんだよ。」

「わかっています隊長。」

「今の状況がわかるまで、この部屋にいてもらいなさい。」

「わかりました。」

「君たち、我々が戻るまでこの部屋にじっとしていなさい。」

村上さんと隊長と呼ばれた老人は私と陽子を貴賓室に置いて、そのままいなくなりました。

私と陽子は貴賓室の中を見ることにしました。

ソファと机の他には昔のレコードや蓄音機が置いてあり、その隣には鏡台がありました。

「せっかくだから、蓄音機で何か音楽聴かない?」

「音楽ならいつでも聞けるじゃん。それよりこの蓄音機の動かし方知っているの?」

「なんとなくっていう感じかな。」

「だったら、触らないほうがいいよ。それよりあの爺さんと村上さんっていう人、私達のことを『世間知らず』って言っていたけどあの二人の方がよっぽど世間知らずだよ。戦争はとっくに終わっているのに、いまだに戦争は続いているような言い方をして。それに今は昭和じゃなくて、平成だっつうの!」

陽子は少し興奮したような言い方をして私に愚痴っていました。

「それより、せっかくだからこの部屋、カメラで撮ろうか。」

「うん。」

私と陽子は持っていたスマホで貴賓室の中を写していきました。

そのあと出口を探すために貴賓室を後にして通路を歩いていき、場所という場所を写真に収めていきました。

しかし、どこを歩いても上に通じる階段が見つかりませんでした。

もしかしたら、「そのまま帰れない?」そう思いながら歩いていきました。

あるいは扉を開けたら、別の部屋へ通じる道があるかもしれないと思い、今度は手あたり次第の扉を開けていきました。

しかし、ほとんどが部屋の入口でした。

さらに奥の正面にある扉だけが無駄に大きく鍵がかかっていましたので、もしかしたらこの扉が出口に通じるかもしれないと思ったので、私と陽子は一部屋ずつ入って鍵を探していきました、しかし見つかりませんでしたが、一か所だけ「研究室」と書かれた部屋がありました。

中を入ってみると、昆虫や爬虫類などが瓶やプラスティックのケースに収められていました。

絶対に怪しいと思って、いろいろと調べていました。

机の上や引き出しの中、くまなく探していたらドアを開く音がしました。

「そこで何をしてる!」

入ってきたのは隊長と呼ばれた老人でした。

「あ、ちょっと探し物を。」

「探し物ってなんだ?」

「鍵です。それがないと帰れないのです。」

「何のカギだ?」

「この通路の奥にある大きな扉の鍵です。」

「これのことか?」

隊長と呼ばれた老人は私と陽子の前に見せつけてきました。

「あ、隊長どうされましたか?」

さらに白衣を着た男性が老人を伺いました。

「君、すまないがこのお嬢さんを貴賓室へ連れてあげなさい。」

「かしこまりました。」

「お嬢さんたち、さっきも言ったが外は戦争の真っ最中だ。こんな危険な場所へ行かせるわけにはいかないのだよ。」

「私も言わせてもらいます。もう戦争は終わりました。それに今は『昭和』ではなく『平成』です。」

「まだそれを言うか!おい、この世間知らずのお嬢さんを貴賓室へ連れてあげなさい。」

「招致しました。」

私と陽子は白衣を着た男性に貴賓室へ連れていかれました。

「申し訳ございません、隊長の命令は絶対なので許してください。」

白衣の男性が扉を閉めようとしたら突然サイレンが鳴りだし始めました。

「ちっ、やつらめ。この近くまで来やがったか。」

「どうされたのですか?」

「アメリカ兵がこの近くにいる。君たちはこの部屋から出てはいけないよ。」

白衣の男性は扉を閉めて急ぐかのように大きな扉へと向かった後、他の兵隊も同じ場所へと向かいました。

私はこの一部始終も写真に収めていきました。

ここでじっとしていても仕方がないと思って、兵隊に混ざって大きな扉の向こうへ入りました。

中ではこれから何かの集会が開くかのように隊長の話に耳を傾けました。

「諸君、アメリカ兵がこの近くまで迫っていて、このままだと捕虜になるか殺されるだけになる。同じ死を選ぶなら戦って死のうではないか。」

隊長が言ったとたん、大きな歓声が沸き上がりました。

そして動き出そうとした瞬間私と陽子はみんなの前に立ちました。

「みんな、落ち着いて。」

「戦争はもう終わっているの。今は平成30年の8月15日。今から73年前に昭和天皇、すなわち当時の天皇陛下がラジオを通して国民の前で敗戦を認めたの。その理由は昭和20年8月6日に広島、同じ年の8月9日に長崎に原子爆弾が投下されたからなんです。今、地上に上がってもアメリカ兵もいないし、戦争もやっていません。」

「でたらめ言うな!天皇陛下が負けを認めるわけがないだろ!」

「そうだ!」

「この非国民め!」

兵隊たちは口々に私と陽子を責め始めました。

「雫、この人たちに何を言っても無駄だよ。この人たちにとって地上は戦場だと思っているんだから。それより早く私達だけでもいいから上に出よ。」

「うん。」

私と陽子は一目散に階段を上がっていきました。

「おい、この小娘をたちを逃がすな!」

「そういえば、見慣れない服を着ていたな。」

「うん。もしかしたら敵国からやってきたスパイに違いない。だから、あんなことが言えたんだ。」

兵隊たちは目の色を変えて私たちを追ってきました。

「もうだめ捕まる。」そう思った瞬間木の扉に出られました。

しかし、重たくて簡単には開きませんでした。

私と陽子は力を合わせて、一斉に扉を開けました。

重たい扉がゆっくり開き、私と陽子は地上に出られました。

出た場所は慰霊碑から少し離れた墓地でした。

兵隊たちは追ってきません。

そっと中を覗いてみると、真暗でした。

私は懐中電灯で念入りに調べましたが、人の気配などありませんでした。

あの地下はいったい何だったのかわかりませんでした。

私と陽子はスマホを取り出して撮った写真を見ることにしました。

よく見ると真暗な通路に白いもやしか写っていませんでした。

貴賓室も研究室も真暗でした。

しかも時計を見ていたら防空壕へ入る前の時間になっていました。

もしかしたら今日が終戦の日だから戦没者の霊が作った幻の世界に紛れ込んだに違いないと思いました。

その後バンガローに戻っても私と陽子は防空壕の中で起きた出来事を口にすることなく、キャンプの最終日を迎えました。

片付けを終えて荷物を車に積み終えて、家に戻ろうとした瞬間でした。

後ろで誰かが見送っているような気配がしましたで、そっと振り向きましたが誰もいませんでした。

帰りの車の中、私と陽子は疲れたのか家に着くまでずっと寝ていましたが、その間私が見た夢は防空壕の中での出来事でした。

私はひどくうなされていましたので、父が一度車を停めて様子を伺いました。

「おい、大丈夫か?さっきからうなされていたみたいだけど・・・」

「うん、大丈夫。心配かけてごめん。」

「本当に?」

「うん。」

私は最後まで防空壕の出来事を口にすることはありませんでした。

父はそのまま車を家まで走らせました。


キャンプを終えて最初の日曜日を迎えた日のことでした。

私は陽子と一緒に駅前の本屋さんに行って「月間心霊スポット」という雑誌に目を向けました。

その見出しを見たら「終戦の日、埼玉県内のキャンプ場で起きた恐怖。戦没者の霊が漂う防空壕の跡地」という記事がありましたので、それを見ていたら顔の部分は塗られていたもの、明らかに私と陽子の姿が写っていました。記事には「防空壕の跡地から少女が現れる。中で何を見てきたのか?」と書かれていました。

私と陽子は1冊ずつ買って家で読むことにしました。

その数日後には誰も入れないように誰かが金網のフェンスを張って「危険のためこれより先立ち入り禁止」という札を張りました。

それでも興味本位で入りたがる人がいましたので、「フェンスを乗り越えたり、壊して侵入した場合、法律により厳しく罰せられます。」という紙が張り出されました。

さらに戦没者の霊が成仏してもらうようにと言うことで、キャンプ場の人たちが近くの寺の住職を呼んできてお経を読んでもらいました。

慰霊碑にはお花と線香も手向けられました。

夏休みの最後の日、私は特に予定もなかったので居間でテレビを皆がらくつろいでいました。

昼頃になってワイドショーが始まりぼーっとして見ていたら、先日私たちが行ってきたキャンプ場の話題が出てきたとたん、陽子から電話が鳴ってきました。

「もしもし。」

「あ、雫?今ワイドショー見てた?」

「うん。」

「今、キャンプ場が映っていたよ。あと、防空壕も。」

「見ていたから分かる。」

私は適当に返事をして電話を切って、冷凍庫からチョコレートのアイスクリームを取り出し、テレビの続きを見ていました。

アイスを一口口の中へ入れたとたん、またしても電話が鳴りました。

「また陽子か」と思ってスマホの画面を見ていたら知らない番号でしたので、そのまま無視していました。

さらに数分後にも同じ番号からかかってきました。

「どうせイタ電でしょ」と思って無視をしていましたが、あまりにもしつこくなっていたので出ることにしました。

「もしもし?」

「・・・・・」

「もしもし?どなたですか?声が聞こえないのですけど・・・」

反応しませんでしたので、そのまま切ろうとしたら、相手が反応しました。

「もしもし・・・あの・・・」

「どうされましたか?」

電話の相手は男性でしたが、どうもはっきりしない感じにおもえてきました。

「お嬢さんたち、私たちが用意した部屋は気に入らなかったか?」

「お部屋と言いますと?」

「貴賓室だよ。」

私はびっくりして言葉を失いました。

「失礼ですが、あなたはどちら様ですか?」

「私かい?知りたい?」

私はだんだん不気味になってきましたが、今ここで電話を切ると何か災いが起きるかもしれないと思って、話を聞くことにしました。

「知りたいので教えてください。もう一度聞きます。あなたは誰なんですか?」

「そんなに知りたい?」

相手はまともでないのは承知していましたので、私は頭の中でストーカーを連想していましたが、ストーカーにしてはしゃべり方がおかしかったので、もしかしたら悪質商法かもしれないと思いました。

「教えてください。あなたはいったい誰なんですか?なぜ私と陽子が防空壕の中にある貴賓室へ行ったのか教えてください。」

「私は君たちを貴賓室へ案内した隊長だよ。」

「でも、あなは先日成仏されたのでは?」

「私だけは防空壕に残って兵士たちを見送ったのだよ。」

「なぜですか?」

「もう少しだけいたいからだよ。でも、これ以上はいられないから仲間の兵士たちのもとへ行くよ。お嬢さん、元気でな。」

電話は切れて私は防空壕の探検の延長線にいたような感じでした。

新学期が始まり、学校では夏休みの思い出話に花を咲かせていました。

海外に行ってきた人、親の実家で遊んできた人、コミケで楽しんだ人など様々でした。

この不思議な体験は二度と来ることはないと思いました。

9月の最初の日曜日、私と陽子はキャンプ場の外れにあった防空壕の話を両親に正直に打ち明けて、近くの神社で除霊をしてもらうことにしました。

特別霊感が強い方ではありませんが、一応用心のために受けました。

一方キャンプ場ではと言いますと、金網をはったせいか誰も防空壕へ立ち入ることはありませんでした。

そしていつの間にか幽霊の話題もなくなり、私と陽子はと言いますと、いつもと変わらない平凡な日常を過ごすことになりました。

そういえば二ついいことがありました。

一つは定期試験で全科目70点以上取ったご褒美で父にマウンテンバイクを買ってもらったのと、もう一つは以前バス会社に増便の嘆願書を出した結果、1時間3本から5本に増えたことでした。

これで、自宅から駅までの移動がより便利になりました。

厳しい残暑が続く中、私と陽子は日曜日にマウンテンバイクに乗って自宅から少し離れた自然公園へと向かいました。



おわり


皆さん、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

実は今回初めて怪談話を用意してきましたが、正直うまく描けたか自信がありませんでした。

皆さんの知っている怪談と言えば、墓地、トンネル、夜の学校などを想像される人が多いかもしれません。

この作品を書いていたころはちょうど8月14日からで、終戦の日の前日でしたので戦争にまつわる階段を書いてみようと思いました。

実際仕上げてみると怪談とは離れた内容が目立ってしまいました。

次回も全力尽くして作ってみようと思いますので、どうかよろしくお願いします。

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