死者の声
この春、ボクは死んでいる。
新学期が始まり、登校中だったのを覚えている。
突然だった、青信号で横断歩道を渡っているたらダンプカーが突っ込んできた。
その時、ボクは何もすることができずに引かれてしまう。
痛いという感情はなかった。
そのまま眠るように即死。
残酷だがこれが現実のようだ。
ボクには夢があった。
将来、街で小さなパン屋を開くことが夢だっんだ。
みんなに美味しいパンを作って、食べて貰って笑顔になってもらいたい。
そんな夢だ。
ボクは夢を叶えるために、専門学校で絶賛勉強中の学生。
だけど、死んだボクはもう何もできない。
ボクは、今死んだ横断歩道にいる。
ここでなにかしているわけじゃないんだ。どこかに行こうとしても行けない。
もしかして、これって地縛霊なのか?
いや、この際地縛霊とかどうでもいいや。
ボクはこの場所が嫌いだ。
横断歩道に入る前のところに沢山の花束に、ボクの写真が飾ってある。
この近くに住んでいる方の中には、わざわざジュースやお菓子を買ってお供えしてくる人がいた。
ちなみにボクの両親はここに来て、大粒の涙をこぼしながら悲しんでいたのをよく覚えている。ボクは、何度も「ボクはここにいるよ」って伝えたのに伝わらなかった。
その時、初めてボクは死んだのだと分かったよ。
死んだのは分かったけど、信じなくなかった。
ずっと横断歩道に立っていると、当然だけど飽きてくる。
それに体は疲れないけど、精神的には参るね。
こんな状態が既に4日。
どうすればいいんだ。
いつまで、こんな所に1人寂しく居なくちゃならないのか。
嫌だ。
気がつくと、一筋の雫が頬を流れている。
ボクは、泣いてるんだ。
ボクが死んだせいで、両親は泣いて、夢を強制的に叶わなくなり、横断歩道から動くこともできずに毎日を消費しているだけ。
これが“死”なのか。
そう思うと、涙が止まらない。
まだ、やり残したことが山のように沢山あるのに。
悔しいよ。
恋もしないで死ぬなんて惨めじゃないか。
くそ、ボクはこれじゃなんのために生きていたのか分からない。
ボクはその場にしゃがみ込んで、叫んだ。
誰にも届くはずのないこの声で。
「誰かボクを助けてくれよーーー!!!」
やはり、誰にも届かなかったらしい。
当たり前だ。
ボクは死んでいるんだから。
もう、この声は誰にも届かない。
「そんなことないよ。私には、あなたの声届いたよ」
ボクは慌てて振り返った。
後ろに誰か立っているのを確認。
1人の女の子だ。
だいたい、歳は女子高生ぐらいか。
その女の子は純白の腰まである髪に、天色の瞳。雪のように白い肌、それから背中に羽を生やしていた。
ボクは、しっかり女の子を見ると、その子は微笑んだ。
それから、しゃがんでいるボクに合わせるかのように、女の子もしゃがむ。
「辛かったね。でも、もうあなたは1人じゃないよ」
そう声を掛けてくれると、ボクの手を握ってくれた。
暖かい手で包み込むようだ。
久しぶりに、誰かにボクのことを見てもらった。
ボクは意を決して質問する。
「君は何者なの」
「私は天使ガヴリール。あなたに選択肢を与えに来ました」