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孤独に愛された私  作者: 三塚みちる
6/10

化け物の私

 生き物の種類とするなら、私は化け物と一番近いかもしれない。化け物はよく、醜いと言われる。醜いだからこそ、化け物とい呼び名をされる。でもそれってつまり、醜くくない、まるで自分と同じ種類の生き物の人間にそっくりの化け物がいるよね?それは多分私。

 そういえば、子供の頃に読ませてくれたおとぎ話があった。


 森の中に、一匹の化け物が住んでいた。毛が多く、牙も爪の恐ろしいほど長くて鋭い。その化け物は人間に怯えられ、誰にも近づけられることもできなかった。けど、化け物にも隠し事の一つや二つはあった。それは、他人の温もりが欲しいかった。でも、なくす事が怖くて、他の生き物に関わる、触れられるだけでも死んでしまう可能性がある。そしてある日、森に訪ね来たの未熟な少女だった。彼女は純粋で化け物と言う生き物はどれほど恐ろしいものはまだ分からなかったそうだ。皆が怖くて触れる事が出来なかった化け物の体を、少女はギュッとする事が出来た。少女は化け物と初めて会った日から何も求めず、優しさを与えてくれた。そこで、化け物は初めて幸せと感じた。けど何年後、少女は死んでしまった。化け物には不可抗力なことだと認め、改めて自分の本性を知った。所詮、自分は他人と共に平和に暮らせない、ただの化け物だって。


 あの化け物も思った事があるのかな、どうせ誰も自分の事を気にしないから自分が死んでもいいって?死んだほうがいいって?


 けれど、私にはまだ生きてほしい人物がいる。まだ生き残る理由がある。その人がまだ私を幸せにさせたい限り、私がどれだけ苦しくても、生き続けるしかない。でも、その日が来るまで、練習することに決めた。いつか本当に化け物になる日が来るまで。


 *****


 今日は通常通り、大学は美咲と一緒に登校し、講義はふーちゃんと菫と受けた。けど、帰りは少し変わるところだった。今日は美咲とふーちゃんは帰り道で会わない。美咲は一日だけ実家に帰ったそうで、ふーちゃんは他の人と約束してるみたい。誰との約束はもう目に見えてるけど。


 結果、私は菫と一緒に帰る事になった。菫はふーちゃんと違って、あまり話すタイプじゃない。むしろ、その逆。私は静かの方がいいけど、菫と一緒だと、何とか会話が続いてしまう。流石に、君と話したくない、なんて言えない。私と菫とふーちゃんはいつも駅まで一緒に行ってからお互い自宅へ向かう。


「もうすぐ夏休みだね」と、私は会話を始めた。

「ね~あっという間に時間過ぎちゃうよね。そう思わない?」

「うん。なんか年を取るとどんどん時間って早く感じるんだって」

「へー、そうなんだ」

 こういうどうでもいい話を菫としてから私は改めて孤独と再会して家へ帰った。でも本当に、最近暑くなってきた。元々見動くずらする事が辛いのにこの暑さを加えたら死にたい気持ちが余計に強くなる。それでも、まだ死ねない。その時を待つしかない。あの人のためだけに、今はまだ頑張って息をしてるから。


 それから二週間が経ち、ようやく夏休みが来た。私はただバイトをする予定しかなく、それ以外なにも計画してない。特に家に帰る事なんて一切思ってない。菫は静岡にある実家に帰り、ふーちゃんはお母さんと旅行に行った。そういえば、私も再来週にサークルでどこか行く予定があった。準備しておかないと。カギ―夏休み家で家族と過ごすみたいで私は一人でお留守番する事になった。そして美咲。彼女は一週間だけ福岡にいるおばあちゃんの家に行ってまた戻ってくる。それについてなんか嫌な予感がする。


 休みの間はバイトか自分の作品に集中してた。作品って言うのは自分で書いた小説が文章、あるいは大人向けの絵本のストーリも書いてた。私は趣味でこれをやってるから誰にも見せたことはないけど。人は忘れてほしくない生き物だから人生にどれだけ黒歴史があっても、自分の名をこの世界に知らせたいのさ。それは自分がこの世界に息をしてたと言う証拠を残すためだ。

 それは一旦置いといて、私の夏休みの予定はこういう感じだった。あと、最近忙しくてできなかった事もやる。それは私の引き出しにずっと隠してたこのカッターナイフを使った作業さ。それは夜での楽しみ。


 昼間は書き、夕方はバイト、そして夜がやってくると私はまずカッターを右手で持ち、尖ってる部分を左腕に向き赤い線を描いた。血が皮膚に流れ、それが茶色い机の上にポタポタと零れて、赤く染まった。醜い傷が私の肌に刻まれた。それも一つだけじゃなく、二つ、三つと徐々に増えていった。傷つける場所が足りなくなったら、カッターを左手に移し、右腕に描き始めた。痛い、痛い、と言いながら止められない。この痛みが好きって言うわけではなく、この息をしてる間の苦しみを一瞬でも忘れるためには、これしかなかった。こんな痛々しい気持ちで、私の夏休みは始まった。


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