遠ざかる平凡
またまたお待たせして申し訳ありません!
しかもまためちゃくちゃ短いです……。
少しずつ、更新していきます><
「精霊の申し子……?」
「そう。魔力のない君が、無詠唱で、あれほど高度な魔法が使えるなんて、それしかありえないからね。」
尚威圧感を感じさせる彼の端正な顔が近付いてくる。質問の意図を考えながら返答をしようと思考を巡らせるも下から覗き込むように近づいてくる天使のような顔にどんどん思考能力が低下していく。イケメン耐性はある程度ついているもののやはり、ある程度距離を詰められれば誰だって照れてしまうものだ。至近距離で目を合わせることが耐えられなくなりギュッと目を瞑ると近づいていた気配が少し離れた。くすくすと愉快げな笑い声と共に彼は先ほど座っていた席に着いた。
「君のその反応だと、隠してるって訳ではなさそうだし、今回も見逃してあげるよ。僕の慈悲に感謝してね。」
「あ、はい。」
「魔法が使える事を秘匿にしておくのは、結構な重罪なんだけど、それを犯してまで秘密にするには、何かわけがあるんでしょ?
それも、無詠唱で魔法を行使できるだけの実力者なのに。
報告すれば、王都でもっとぜいたくな暮らしができるのに。
何か重大な秘密でも、あるのかな?」
「あ、はは……。」
バルト君の問いに、私は苦笑を零すしかなかった。
重大な秘密――魔王の婚約者と言う点では重大かもしれないが――などではなく、ただただ自分はこの世界で目立ちたくないだけなのだ。ご都合主義や、お約束に巻き込まれず、静かに脇役として平凡な人生を歩みたいのだ。まあ、手遅れな部分も多々あるが、それでも、これ以上の面倒事は、避けたいのが本音である。
しかし、そんなことで罪を犯したなどと、到底伝えられるはずはなく、回答に困っていたところ、人に言えない秘密がまだあるのだと解釈したバルト君は、「今は聞かないよ、今は、ね。」なんて飛び切りキュートないたずら笑顔でそう告げた。
「――さて、そろそろ僕はいかなくちゃ。うるさい奴が探しに来ちゃう前に。」
「はい。お気をつけて。」
「いつか君の秘密を教えてね。それじゃあ。」
暫く他愛のあい会話を続けた後、バルト様は帰って行った。なんだかどっと疲れた気がする。こんなところで意味ありげな美少年と秘密を共有するイベントなんて、物語の中なら完全に重要な人物だったっていうお約束展開じゃないか。それに、精霊の申し子なんてそんな大それた話、あるはずがない。そう、有る筈がないと言い切りたいのに、嫌な予感がもやもやと胸の中で渦巻いている。今までのお約束展開の数々を考えれば、ありえない話ではないかもしれない。
「ぎぶみー、平凡ライフ……。」
誰かに見られたらはしたない!なんて思われるかも知れないが、少しひんやりとする机に突っ伏した。深く溜息を吐き出しながら、呟いた声は誰に聞かれることもなく、虚空に消えた。
アリスさんに、精霊王、それから、精霊の申し子……色んなことに巻き込まれて、平凡から遠ざかっている気はするが、それでもめげずに目指そう、平凡ライフ!なんて意気込みをしながら、私は図書館を後にした。
お読みいただき、有難うございました!