小さな幸せ、大きな迷惑
ブクマ、評価有難うございます!
朝起きて、寝癖がついていなかった。学園へ通うために乗っている馬車があまり揺れなかった。学園へついて、キャサリン嬢に髪型をほめられた。講義で分からなかったことが、理解できた。小さいながら、今日は良いことだらけだ。次はどんなことがおこるのだろうとわくわくしながら、折角だから中庭を通って移動しよう!なんて思った数分前の自分に教えてやりたい。今まであった小さな幸せがすべて崩れ去るほどの衝撃が、中庭で起こるということを。
「――おい、聞いているのか!」
「申し訳御座いません、殿下。何のお話でしたでしょうか。」
「貴様……!」
ふんぞり返って綺麗な顔の眉間に皺を寄せながら鬼の形相でこちらを睨みつけているこの人は、お察しの通り、セオドリク・セゾナリア殿下である。後ろには不穏な空気を漂わせた生徒会メンバーの皆様方がいずれも親の仇かと思うくらいの目つきで私をにらみながら控えている。更にそこには、びしょ濡れになったアリスさんが肩を震わせながら肩にかけられたセオドリク殿下の制服を握りしめ生徒会メンバーに守られるように立っていた。
なぜこのような状況になったのか。時は数分前に遡る。
浮かれポンチのハッピー気分で中庭を通りかかった私は、足元をよく見ておらず、そこに転がっていたバケツに気づかず、蹴飛ばしてしまった。つま先に大ダメージを負ったが、転がったバケツを拾う方が先だと、速足でバケツに近寄り拾い上げる。そこまではよかったのだ。やらかしちゃった、てへぺろ。位で済んだのだ。問題はそこからである。バケツを拾い上げ、顔をあげると、なんと件のアリスさんが目の前にいたのだ。背筋が冷える感覚を覚えながら、挨拶は礼儀だろうと淑女の礼をしてみせると、アリスさんは少し考えるそぶりを見せた。この時点で、挨拶くらい返せよ……なんて思わずにすぐさま立ち去っておけばよかった。アリスさんは、何かを思いついたのかニタリと嫌な笑みを浮かべ、おもむろに水魔法の詠唱を始めた。そしてその水魔法の矛先は――アリスさん自身だった。
一瞬何が起きたのかわからず、手に少し水滴のついたバケツを持ったまま、不用意にアリスさんに近づいてしまった。彼女はびしょ濡れになった自身をぎゅっと抱きしめ、そして――
「ッ、きゃぁあああ!!!」
やられた、と思った時にはもう遅かった。お前暇なのかよ、と思うくらいのスピードで、殿下with生徒会メンバーが走って近づいてきた。ていうか、叫び声でどこにいるのかがわかるのか。GPSでもつけているのだろうか。否、そんなことを考えている暇はない。最悪の状況である。びしょ濡れになったアリスさんの傍らに立つ、水滴のついたバケツを持った私。何があったのかなど、火を見るより明らかだろう――実際は勘違いだが――。
「アリス!
――ッ、大丈夫か!?」
「何があったの、アリス。」
「あ、の……私……。」
「ああ、アリス、可哀想に。」
わお。アカデミー主演女優賞だって取れるのではないかというくらいの演技力である。大きな目をうるうると潤ませ、少し不安げに視線を揺らしながら、カタカタと震える様子は誰が見たって、被害者のそれだろう。遠い目をしながら、アリスさんを見ていると、セオドリク殿下に呼ばれていたことに気付かず、そして、冒頭に至るのである。
「エナ・ヴォルフ、と言ったか。
先日も狂犬のように噛み付いてきたが、まさかこんな卑劣な真似までしでかすとはな。」
「ねぇ、君。どうしてこんなことをするの?
アリスが何をしたっていうの?」
セオドリク殿下に続いて、男性にしては少し高い声が響く。生徒会メンバーの中でも、ショt――書記担当、小悪魔系イケメンの、リアルド・ベオレルド様である。ベオレルド侯爵家の次男で、王宮勤めの父と兄がいる愛され系男子だ。そんな彼が、可愛らしい顔を歪め憎悪に満ちた目で私を睨んでいる。そういう性癖を持った人ならご褒美!みたいな気持ちになるのかもしれないが、生憎私にそういった性癖はない。 何をしたなんて、そもそも、それはこちらのセリフである。
「ええと、恐らく信じては貰えないのでしょうけれど、アリスさんはご自身で、水魔法を……。」
「なっ……貴様、アリスの自演だと、そう言いたいのか!?」
「ふざけないでよ!アリスがそんなことする訳無いじゃないか!
今だって、こんなに震えて……ッ、大方、僕たちと一緒にいるアリスが妬ましくてやったことなんだろうけど、ほんっと、酷すぎるよ……。
可哀想なアリス。僕がずっと一緒にいるからね。」
「アル!抜け駆けは禁止だろう?僕も、アリスを守るから。」
「お前たち、アリスは俺のものだということを忘れるな。」
「み、皆さん……!有難うございますっ。」
自己弁論してみたものの案の定信じてはもらえなかったし、更には、アリスさんの株を上げて逆ハーレムルートを進める形になってしまった。周りを囲む生徒会の皆々様はもうこれでもかと言うほどアリスさんの可愛いところや良いところなどを言い合って、誰が一番彼女のことを知っているのかなんていう論争を始めている。
当のアリスさんはと言うとちやほやされながらまんざらでもなさそうに、うふふあははなんてはにかみ笑顔を向けている。なんてしたたかな女なんだと感心しつつも、アリスさんを巡ってのイケメン男子たちの奪い合いなど別段興味もないし、もう帰っていいだろうか。
「あの、私そろそろ――」
「おおーい!お前ら何やってんだ?」
青い空を背景に爽やかな青年が笑顔で近づいてくる。空気読めないこの独特なパリピっぽい空気感は、ここ最近同じものを感じた事をよく覚えている。ああ、そう言えばこの人も生徒会のメンバーだったな、なんて遠い目をしながらこの先更に面倒なことになりそうだとうなだれながら独りごちた。
コロコロと文章表現が変わってしまう……。
読みにくかったら、申し訳ないです!
お読みいただき、有難うございました!