友達ができました
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学園生活が始まってから、数日。案外何事もなく日々を過ごしている。少しばから懸念していた、交友関係も、紆余曲折いろいろあって困っていない。
というのも、初日の案内の後、ある令嬢が声をかけて来たからだ。その令嬢の名は、キャサリン・エデット公爵令嬢。美しく艶やかな腰まで伸びたプラチナブロンドの髪に、少し吊り上った目はキツい印象を与えるものの、透き通るような白い肌に整った容姿を持つこの女性は、この国の第一王子、つまりあのアリスさんにデレデレしていたセオドリク殿下の婚約者である。
キャサリン嬢はあの乙女ゲーム風イベントを傍から見ていたらしく、生徒会のメンバーに対しての私の反応を窺っていたようだ。生徒会メンバーを見て特に興味の無さそうな私の反応に逆に興味を持ったのか、あの後に話しかけて下さったのだ。
どうやら、あのアリスさんはお約束通りというかなんというか、平民として過ごしていたところ、類稀なる魔力があるということで、なんと王宮に保護されているそうだ。王宮に保護される程の魔力というとそれこそ国家を揺るがすレベルのものらしい。それだけでなく、あの庇護欲を掻き立てるような小動物系の容姿だ。第一王子を筆頭に、あの色物生徒会メンバーも彼女を放っておかず、毎日毎日平民上がりの少女にデレデレしながら日々の公務もおろそかにしている第一王子にキャサリン嬢も頭を抱えているようだ。
「――エナ、考え事かしら?」
「えっ、あ!いえ、今日も平和だなーなんて、思いまして。」
「そうですね!キャサリン様、日差しが暖かくて、お花も嬉しそうですわ!」
「そうね。殿下の頭のお花畑も喜んでいるようですわね。」
「あ、ははは……。」
今日はキャサリン嬢と、その後友人のマリーナ伯爵令嬢、サラ侯爵令嬢とのお茶会だったのだが、運悪くそのテラスから見える所で、生徒会メンバーとアリスさんが楽しそうにピクニックのようなことをしているのだ。呆れ顔のキャサリン嬢と、何とか話を逸らそうと奮闘するマリーナ嬢とサラ嬢。私も、二人に加勢するも、キャサリン嬢のテンションがどんどんと降下していくのが目に見える。
公爵令嬢と第一王子なんて、政略結婚の匂いがプンプンするのだが、キャサリン嬢の反応を見ていると、キャサリン嬢は、殿下のことが好きなのだろうか。大人でいようと必死に気持ちを抑えているような、そんな切ない感情がこちらにも伝わってくるようだ。
「――キャサリン様は、殿下のことをどうお想いなのですか?」
「エナ!」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
「……いいのよ、サラ。構わないわ。
殿下への想いなんて、この婚約には全く関係ないわ。
お家の為、この国の繁栄の為、私は殿下と婚約したのよ。」
自嘲めいた口調で話すキャサリン嬢は、不謹慎ながらとても儚げで美しく見えた。きっとずっとキャサリン嬢はそうやって自分の気持ちを偽ってきたのだろう。誰にもその心の内を明かさず、公爵令嬢として、恥じない振る舞いを演じ続けてきたのだろう。本人の口からきいたわけではない。でも、殿下のことを思い出すたびに浮かぶ切なそうな表情が殿下への想いを物語っている。
恐らく、マリーナ嬢も、サラ嬢も気づいているのだろう。気付いていても、立場上彼女の強がりを崩してあげることができなかったのだろう。なら、立場も何も失うもののない私が崩してあげたい。お節介かもしれないが、これ以上強がりを続けてしまうと、きっと彼女はこれからどこにも弱音を吐けなくなってしまう、そんな気がしたのだ。
「いいえ、キャサリン様。
私が聞きたいのは、キャサリン様のお気持ちです。」
「何を、言いたいのかしら。」
「キャサリン様は、殿下をお慕いしているのではないですか?」
「っ……貴方、私を馬鹿にしているの?」
「そうではありません。キャサリン様のお心を縛るものから、解放して差し上げたいだけなのです。」
場の空気が一瞬にして凍りつく。マリーナ嬢とサラ嬢は不安そうに私の表情を窺っている。
出会ってから数回お話をした程度の私が、何を言っているのかときっとキャサリン嬢は思っているだろう。だが、私だって真剣だ。もしこのお約束展開が続くなら、キャサリン嬢の心はどんどん病んでいく一方だろう。それなら、キャサリン嬢を蝕む闇から解放してあげたいと思うのは当然だと思う。驕りだと、偽善だといわれてもかまわない。それでも、私にできることがあるなら、それが、人の心の話なら、私は救いたいとそう思うのだ。
真剣な瞳でキャサリン嬢を見つめる。目を逸らしたりなんてせず、ただただ見つめた。するとキャサリン嬢は、きりっとしていた目元を少し緩め、また自嘲気味に笑った。
「――婚約が決まってから……いいえ、婚約が決まる前から、ずっと殿下を見て来たわ。
ずうっと幼いころから、殿下は私の特別だった。
正式に婚約が決まるまでも、婚約者候補として、厳しいお妃教育にも耐えてきた。
他の婚約者候補には負けたくないと、殿下の隣に立つのは私なのだとずっと思って頑張って来たわ。
でも、殿下の目には、私の存在など映っていなかったようね。
殿下とパーティで踊ったことも、誕生日をお祝いしてくださったことも、片手で足りるほど。
いずれも、殿下の意志ではなかったわ。
それに、――あんな風に、私に笑いかけてくれたことなんて、一度も。」
アリスさんと楽しそうに笑いながらお茶を楽しんでいる殿下を見つめながら消え入りそうな声で言うキャサリン嬢は今にも泣きだしそうだった。思わず私は立ち上がり、キャサリン嬢を抱きしめた。
「なっ……エナ、何をするのです!」
「無礼だとは、承知の上です。キャサリン様。
今まで、今までよく頑張りましたね。」
「っ……。」
「他の誰が何と言おうと、私も、それから、サラ様もマリーナ様も貴方の頑張りをちゃんと知っております。
だから、これ以上無理しないでください。」
「マリーナも、サラも……?」
「はい、キャサリン様。」
「キャサリン様……。」
キャサリン嬢を開放して、二人に視線を向けながらゆっくりと言い聞かせるようにキャサリン嬢に話す。驚いたような表情でキャサリン嬢は二人を見つめるも、二人の心配そうな表情から納得したのだろう。先ほどよりも穏やかな表情で、手元のカップに視線を落とす。
「そう。随分と、格好の悪いところを見せてしまっていたのね。」
「そ、そんなことありません!!
私たちにとって、キャサリン様は憧れで、いつだって格好の良いところしかありませんでした!」
「ええ、キャサリン様。マリーナの言う通りです。
キャサリン様だからこそ、ずっと一緒にいたいと思うのです。」
「二人とも……。ありがとう、マリーナ、サラ、それから、エナ。
出会ったばかりと言うのに、何だか貴方の言葉は素直に受け止められるわ。
不思議ね。」
「ふふ、私、キャサリン様が大好きになりましたから!」
「まあ!」
「あ、エナずるい!私だってキャサリン様が大好きです!」
「わ、私も、大好きです、キャサリン様。」
「貴方たちったら……。」
キャサリン嬢は咎めるように言うも、その表情は実に嬉しそうである。まだまだ、出会って日は浅いけれど、キャサリン嬢を一人にしたくないと強く思ったのだ。彼女に肩入れするこれ以上の理由はないだろう。
冷めたお茶を、キャサリン嬢の侍女の方が入れ直してくれたのでまたお茶会の仕切り直しである。今までより、気持ち心の距離が縮まったので、少し照れ臭いながら、何気ない話に花を咲かせた。その頃には、近くにいたアリスさんや生徒会メンバーのことなど、もう頭から消え失せていたのだ。その為、ぱたぱたと可愛らしい音を立ててこちらに近づいてくる存在に、気づくのが遅れてしまった。
「――あれ?キャサリン様じゃないですか!こんにちわ!」
マリーナ嬢と、サラ嬢は幼馴染で、キャサリン嬢ともそこそこの付き合いなのです。
マリーナ嬢は割と無邪気なお嬢様で、サラ嬢はちょっとクール系のつもり、です!笑
今回もお読みいただき、有難うございました!