友悟の真剣は三年に一度程度
「最悪だ…」
夏休みも後二週間を切った。あれから何回も試したが、家族が帰ってくるわ、電話鳴るわ、ペット預かるわ。兎に角邪魔しかない。昔から運が悪いと自覚はしていたが、ここまで来ると才能にしか思えん。どこかの物凄い才能を持った高校生集団にいれるくらいだ。なんてことを考えながら数学の問題を解いていた。これも自殺失敗の原因でもある。お母さんは俺に課題やプリント、課題図書などを渡してきて夏休みまで終わらせるように言ってきたのだ。一日最低十枚以上で三時間は勉強しなければ帰ってきたときに殴られる。お母さんの拳意外と痛いんだよな、見た目によらず。
「お兄ちゃん!!」
「友悟、いつの間に帰ったん。」
「十分前からお兄ちゃんの事呼んだけど無視された僕の気持ちを考えてくれよ。」
「あ、すまん。考え事しててな。で、なんや?」
「別に大事なことじゃないけどさ、最近お兄ちゃんよく部屋に籠ってるけど、何してるの?」
友悟の目は真剣そのもので俺に嘘を吐かせないようにじっと見つめていた。自分の弟ながら少し身震いをしてしまった。いつもはへらへらとバカみたいに笑ってる奴がこんなに真面目になるとは、よっぽど心配しているのか否か。小さな呻き声をあげて弟の顔を真っすぐ見た。
「俺も事情があるんや。堪忍な。」
納得いかなそうな表情を浮かべて数秒後諦めたかのように席を外して自分の部屋に戻った。悪いことをしたとは思っているが、流石に自殺しようとしていたと正直に言う方が異常だと思う。俺は机の上に散らばっている問題集と本を片手で搔き集めて自室に戻った。リビングで勉強するとやっぱり落ち着かない。スマホのロックナンバーを打ち込みながらイヤホンを取って音楽を選んでいた。音量はかなり大きくして好きなバンドの曲を口ずさみながら勉強を再開した。
数学を終えた後、フランス語に手を付けた。俺の学校はフランス語とオランダ語は絶対取らなくてはいけない科目の中だ。その上に英語も学ぶとしたら、大変だと思う。五年からはスペイン語も取れるらしいがこれ以上取ったら頭がパンクしても可笑しくないだろう。自分で言うのもどうかと思うけど、フランス語はまだできる方だ。フランス語で落ちたわけではない、オランダ語、数学と物理だけだ。いや、多いが、多いけど。
「俺、なんでこんな問題もできんかったんやろ…」
勉強をした今、何故できなかったか疑問に思ってしまう。阿保らしい。パタンとノートを閉じてベッドで寝っ転がった。睡魔が俺を襲う。寝てはいけないと分かっていても瞼がどんどん重くなるのを感じる。なんでよりによってバラード曲が流れるのだろう。そう嫌味を誰にも届かぬであろう人物に言い、俺は睡眠に身を預けた。
「お兄ちゃーん、、って寝ちゃってるし。……おやすみ。」