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一
思いだすのは、凧がいくつも揺れる秋空。幼い日に見上げた会津の空は、アメリカと日本とを隔てる深い深い海のように、濃い青をしている。
薩長との戦で兄嫁が亡くなったことも、首に負った傷も忘れて、咲は無心に凧を揚げた。
会津が戦地となって四か月、鶴ヶ城に籠もって半月。食糧は徐々に乏しくなり、ひもじさとはどういうものかを身をもって知った。それでも、咲たちには守るべき魂があった。
思えばあのとき、咲はすでに、いまと変わらぬこころもちでいたのだろう。
──お国のためには、ひととしての情よりも優先すべきことがある。
アメリカの友人が聞けば、堅苦しくも辛い決断と言うかもしれない。けれども、何事も一心に取り組めば、楽しみはたくさん見つかるはずだ。苦しみを乗り越えて揚げた凧の、自由に風に吹かれて飛ぶように、自分を活かす場もきっと、この覚悟の先にあるのだ。