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君に捧げるプロローグ

 君だったのか・・・


薄れゆく意識の中で、その可憐な声の持ち主に出会い、俺はこの世界から旅立った。


「ありがとう。あ・な・・た・・・・・・wa・・・・・・・・・す・・・れ・・・・・・な・・・・・」


そういいながら、俺は夜明けをまたないまま、死んでしまった。


今さらながら、思えば、生まれた時から俺を導くように囁く声の主を、俺はのたれ死ぬときまで探していたのかもしれない。


降りしきる雨に輝くビルの合間から、輝く夜のネオンの明かりまで喰らう雨雲。


そんな薄汚れたビルの空をいつまでも探していた。


掴むことができない空に手を挙げ、しがみつくことさえ叶わぬ夢を追い続け、空っぽの俺の心に満たされぬ思いを感じながら冷たい街の風に消えていった。



そして、いつの間にか消えた雨雲にかわり、きれいな朝焼けと共に彩雲がやけにきれいだったと神様は言っていた。


「ハイハ~イ。久しぶり。君は憶えているかな?」


「ここはどこなんだ、俺は死んだんじゃなかったのか。どうして・・・ここはどこなんだ?」


そんな、戸惑う俺と裏腹に、目の前に幼女は、俺の手をぎゅっと握った。


「疑問を疑問で返すのは君の悪い癖なの?クールな君には似合わないぞ!」


その一言で俺は我に返った。真っ暗な空間に漂う俺。幼女が立っているように、幼女の手に温もりを感じながら、俺は何も考えずに立ち上がる。


床のない空間で浮かぶように立ち上がる姿を見せたら幼女が微笑んだ。



「この状況は・・・ここはあの世なのか・・・俺はすべてを捨てて死んだんだな。」


幼女は俺の胸に飛び込んで頬を押し付けた。背中に届かない手で俺の無精ひげを撫でながら指をパチンと鳴らした。


拍子木のような響きが俺のいる世界を明るくするのであった。


それは光の繭のような、幼女と俺だけを浮かび上がらせる、二人だけの暗闇のような真っ暗な空間から、真っ白な世界に作り変えながら大理石の床が現れていく。


幼女はじっと俺の目を見ながら懐かしそうに眼差しで語りかけた。


「さあ、一緒に異世界に旅立ちましょう。」


俺は戸惑いながらも、幼女のつぶらな瞳にかすかな温もりを感じながら頷いた。


「俺でいいのか。なんで俺なんだ。」

「だって、あなたが私に生きる意味を教えてくれたからよ。あなたが本当の命をくれたからよ。」


その一言で、俺が今まで生きた証を幼女が教えてくれたのかもしれない。


「君は温かいな。もし、俺と一緒に異世界に旅立つとしたら俺の生きる意味になってくれないか?」

「いいわよ。私に命を吹き込んでくれた。心と名前をつけてくれた人なんだからいつまでも離さないわ。」


「君の名は・・・」


「私の真名はスレーナ・・・スレーナ・S・ロザーナ・・・私のすべてはあなたにあげるから、あなたのすべてを私に頂戴。私もあなたに名前をあげる。これからはリッシェル・T・ペニンシュラと名乗りなさい・・・リッシェル。あなたが好きよ。」


「俺はお前に真名を与えたのか。そして、君が俺に新しい名を・・・」


「そうよ。あなたが死ぬ間際に私に出会って言ったのよ。スレーナと・・・だから私は誕生したのよ。」


俺は死ぬ間際を思い出した。人生に迷ったとき、言葉が見つからなとき・・・なんの気なしに空を見上げた時、心が折れかかったとき、世間が俺に冷たくしたとき・・・どんなときでも、心の奥底で囁いてくれた声の持ち主に・・・ありがとう、あなたを忘れない。といったことを。


思い出す俺はニヒルな顔をしながら・・・・あ・な・た・(を)・わ(は)・す・れ・な・(い)・・・・・あなたはスレーナ・・・って言ったんだと・・・あらためて確信してしまった。


俺はニヒルな顔とごまかしながら、引きつりながらもスレーナに聞いた。


「あの声はスレーナだったのか。教えてくれ、スレーナは神様なの、それとも俺の心の声なのか?」


幼女のような姿のスレーナは俺の腕からすらりと飛び降り、俺の方を見上げながら、誇らしげに腕を腰にあてながら話し始めた。


スレーナから聞いた話からスレーナはもともと、神様が作り出したAI(人工知能)みたいな存在だそうだ。簡単に言えばRPGロールプレイングゲームのシステム音声のような存在だったようだ。


幾万、幾億の異世界の勇者や聖女を送り出してサポートをするだけの存在。心を持たず、ただ、レベルが上がりました。○○スキルを取得しましたというだけの存在。でも、スレーナいわく、時には取得アイテムの説明いがいにも、神からのお告げを授けたりして、神様や女神と異世界人をつなぐ重要な役割だったそうだ。


たまたま、スレーナと呼んでしまったことで神様のAI(人工知能)が反応して、俺の人生を振り返り、俺の言葉や生き方と考え方を学習したことにより、知識以外に心を作りしたそうだ。


俺は疑問だったスレーナに確信をつく質問をした。


「異世界でもない世界で、なんで俺に君の声が聞こえたんだ。スレーナ、教えてくれ。」


幼女は嬉しそうに言った。

「あなたは特別なの。あなたは人一倍、人の気持ちに敏感なの。悪く言えば、優しすぎて傷つきやすい心の持ち主。感性が豊すぎなのよ。だけどね、私には心をくれたのよ。今度はあなたが傷つかないように守ってあげる。」


そんな、幼女姿のスレーナの微笑みを真っ直ぐに見れない俺がいた。でも、異世界に一緒に行くスレーナの前ではクールでかっこよく見せたい俺は指を天に刺し、目線を指先に向けて言い放った。


「もっと俺の熱いハートを君に捧げるよ。君が君であるために、そうだ!異世界に行こう。ハハハ」


少しだけ情けないが、3枚目をあえて演じてに照れくささをかくす俺だった。


それを、わかったうえで幼女は挙げてない左手にしがみつき、嬉しそうにしてくれた。

ちょっぴり、握ってくれた手のその温もりがくすぐったかった。


「リッシェルは太陽のようにやさしくてあったかいね。あなたが異世界の街に温かい風になるのよ。さあ、行きましょう」


「俺はクールでカッコいいだろ。そして、太陽のような暖かで恵みの風を起こそう。君が愛すべきものすべてに」

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