角砂糖と眠る
ひどく無防備だ。
そんなことを思いながら、彼の髪の毛に触れる。
私の膝の上に置かれた頭。
サラサラの色素の薄い髪に指を通せば、ほんの少しだけ男物のシャンプーの匂いがした。
規則正しい寝息を立てている彼は、起きる気配が一切なくて私の膝に頭を預けたままだ。
どれくらいそうしていただろうか。
私が本を読み終わってもずっとなので、だいぶ疲れていたんだろうな。
サラサラと髪を撫でながら彼の寝顔を覗き込む。
眼鏡をかけていなくて、意地の悪い笑顔じゃなくて穏やかな顔なんてなかなか見れない。
正しくレアなのだ。
ただ裏を返せば凄く疲れてるってこと。
それくらい疲れてるってこと。
普段から人の気配がすると上手く寝付けなかったりする彼が、私の前では無防備な姿で眠ってくれる。
熟睡して起きないくらいに。
それくらい疲れてて、それくらい信頼されてるってことなのだ。
「そうやって考えると、照れるよなぁ」
小さく呟けば自覚するのと同時に頬に熱が集中する。
私に出来ることなんて少ないけれど、こうして少しでも役に立てているならば嬉しい。
だって私は彼のことが好きだし。
何より私は彼の彼女だし。
彼は私の特別なのだから。
傍らに置いた彼ご愛用の黒縁眼鏡を手に取り、自分でかけてみた。
歪む世界とキツイ度数に目が痛くなる。
視力はそれなりにいい方なので、彼くらいの度数になると視界が揺れて仕方ない。
照れ隠しだけど照れ隠しにならなかった。
気持ちが悪くなるだけだし、その必要もないくらい彼は気持ち良さそうに眠っているのだから。
あーあ、なんて溜息を吐いて彼の髪を撫でる。
女の私からでも羨ましくなるその指通り。
ついでに耳までふにふにと弄れば、彼が嫌そうに身をよじる。
可愛いなぁ、本当に大好き。
口元の笑みを誤魔化すように、彼の目の下のクマを撫でながら唇を耳に近づけた。
「好き、大好き。……お疲れ様」
休んで。
ゆっくり休んで。
その気持ちを込めて彼の額に唇を落とした。