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南ぬ島 恋ぬ島  作者: ズタボロオー
2 沖縄本島編
7/19

7. 歓迎会

ヤマケン、那覇で暮らす。

 1時間弱のフライトで那覇空港に着くと、今日の宿を探すためにインフォメーションに行かなければと思っていたが、到着ロビーに普段着の3人が迎えに来ていた。

 何でも3人が那覇に着いたタイミングで僕が1便目に乗れなかったとメールが来たので、これならまだ時間があると一度それぞれ家に帰って荷物を置いてまた空港に集合したとのこと。みんなそれぞれ家が空港からそんなに遠くない所に住んでいるから、全然問題はないらしかった。


 3人の中で一人だけクルマを持っているという真奈が送ってくれるというので、4人で真奈の黒い軽自動車に乗り込む。女の子の軽自動車というとなんだか女の子女の子した感じで、特に真奈のだからフワフワしたようなインテリアだったりするイメージがあったのだが、意外にも黒ずくめでシックな感じである。そんな自分を見透かしたか、真奈が言った。

「ヤマケンくん、ピンクか何かのクルマをイメージしてたんじゃないの?」

「うん、ピンクって限定じゃないけど、なんかもうもっとフワフワな感じだと思ってた」

「だいたい男の人って勝手なイメージ持ちすぎるんだよね。この前なんて男みたいなクルマだとか言われたもの」

「まぁ黒いクルマだからね。そう思うかも」

「ヤマケンくんはどう思った?」

「暑そうだと思った」

 3人大爆笑。じゃ、出発!

 ちょっと待て、出発ってどこに行くんだろう。だいたいまだ那覇の宿さえ予約してない。

「行くって、どこに行くんだよ? ホテルまだ予約してないよ」

「え?今日は私の家に泊まるんだよ」佳子がびっくりするようなことを言う。そんな話は聞いてないし、だいたい彼女がいるのにほかの女の子の部屋に泊まるって大丈夫なのか?

「由紀、どういうこと?」僕の反応を見て楽しんでる由紀に確認した。

「言ってなかったっけ。佳子は一人暮らしなの」由紀が説明した。

「佳子ちゃんって沖縄の人じゃないの?」

「沖縄なんだけど、北の方ね。那覇の大学に通学できる距離じゃないから、高校の時からこっちにマンション借りてるの。借りてるっていっても叔母さんの管理してるマンションを一部屋貸してもらってるんだけど」

「僕が住むのもその叔母さんの持ってるマンションでしょ?」

「そう。叔母さんの家族って那覇で不動産屋やってるから、物件はいくつかあるんだけど、私の住んでるのは叔母さんのところが管理なんだけどオーナーが別の人だからきちんと家賃を払ってるの。ヤマケンくんのは今のところ叔母さんのところがオーナーだから、家賃も交渉できたの」

「でも由紀に悪くない?」

「私が頼んだのよ。だって私たちで無理矢理みたいに那覇に連れて来ちゃったんだから、できるだけケンの負担は少ない方がいいと思って。それにケンだったら女子みたいなもので安全だから。それにね、真奈の部屋オーシャンビューなんだよ」由紀がうれしそうに言う。女子みたいなものでって言うところが引っかかったが、すごく僕のことを考えてもらっているのがうれしい。

「もう、あんまりハードル上げないで、期待するようなものじゃないから」佳子は困ったように言う。

「佳子ちゃんはそれでいいの?彼氏とか怒らない?」

「ヒロシなら夏休みでアメリカに語学留学しているし、男の友達が遊びに来るぐらいはたまにあるから、一泊ぐらい大丈夫だよ」

 まあそんなことならいいか。乗りかかった船だし、せっかくの親切なので、ありがたく受けよう。

「じゃあ、これからどうするの?」

「那覇、初めてでしょ」真奈が言う。「案内してあげるよ」

「でも観光旅行じゃないんだから、観光地なんて行かなくていいよ」

「わかってるよ」

「今日は荷物を置いたら、ヤマケンくんの歓迎会ね」

「とか何とかで毎日飲んでるよ」

「いいの! 飲むのが目的であって、理由はあとから付いてくるから」

 よくわからないが、真奈の中では飲む理由さえあればいいらしい。


 まず最初に佳子のマンションに立ち寄り、荷物だけ置いてから市内をドライブする。といっても見るべきスポットは観光地ではなくプレイスポットである。市内だけでなく、北谷や嘉手納の夜景スポットまで行った。

 真奈の家に行ってクルマを置く。真奈の家は自分のような庶民にはとても手が出ないすごく大きな豪邸である。やっぱりお嬢様なんだな。

「びっくりしてるでしょ?」由紀が見透かしたように言う。

「うん、こんな大きい家に住んでる友達なんかいないから」

「真奈のお父さんは会社いくつも持ってるような人だからね」なるほど。以前先輩から聞いた、金持ちには二種類いて、生まれたときからの金持ちと努力して金持ちになった人だというのを思い出した。父親がどっちかはわからないが、真奈は間違いなく前者である。確かにこんなお嬢さんだったら彼氏になる人もそれなりに経済力がないと釣り合わないかもしれないなんてことを考えていた。間もなくクルマを置くだけだった真奈が出てきた。

 由紀の家にも行ってみたいが、行く理由がない。


 モノレールに乗って安里駅で降り、そこから徒歩で栄町の居酒屋に入る。真奈も由紀も行きつけみたいでマスターが「お、今日は新しい友達?」と聞いてくる。

「由紀の新しい彼氏さぁ」真奈が言う

「そっか、そりゃめでたい、歓迎するよ」マスターが注文も聞かずに泡盛サワーを出してきた。どうやら真奈や由紀が注文しなくても好みはわかっているらしい。

「今日イラブー入ってるけど、彼氏さん食べるかな?」マスターが聞く。

「えー、やだー。そんなの食べても何もないよ」由紀が拒絶する。

「ウミヘビよ」佳子が教えてくれる。「超高級食材だけど、精力剤としてすごく効くんだって」

「ウミヘビ?」ほとんどのものは好き嫌いなく食べられるが。さすがに蛇は食べたことない。というか食べたくない。それに精力ギンギンになっても困る。今夜は佳子と泊まるのだ。そんなの知ってか知らずか由紀が言う。

「ケンがどうしても食べたいって言うのなら止めないけど、佳子に何かあったら許さないから」だから食べないって。ていうか、爬虫類をどうしても食べたい人なんてこの世にいるのだろうか?

 ウミヘビは食べなかったが、山羊の肉とかその他いろいろなものを食べさせてもらった。もっとも前夜も琉球料理だったのである程度大勢はわかっていたけど。

 アルコールは弱いのだが、それでもかなり飲んだ。


 さらに国際通りの近くにあるショットバーで2次会。ここも真奈の行きつけのようで、同じような会話がもう一度繰り返される。

 かなり酔った真奈が愚痴る「あー、私も普通に恋愛とかしたいー」

「別にすればいいじゃん、誰も止めてないし」

「でも親に紹介したりとか面倒くさいんだよぉ、いちいち相手のこといろいろ聞いてくるしぃ」やっぱりお嬢様だから親のチェックとか厳しいのかなって思う。それならそれでちょっと気の毒な気もする。


 夜もかなり遅くなってきたので解散の時間となる。由紀は明日から勤務になるし、帰る方向が違うのでと先にバスに乗って帰ってしまった。どうせタクシーで帰るのだから一緒に帰ればいいと言うも、きっと明日逢えるのは仕事が終わってからだろう。それは仕方ない。泥酔している真奈とそれなりに酔っている佳子と3人でタクシーに乗る。僕も酔っていたが、元よりあまり飲めないので酔いが回るのも早いが覚めるのも早い。真奈を下ろしてから10分ほどで佳子の家に着く。


 佳子の部屋は10階建てのマンションの7階で、海に面したベランダからは微妙に港が見える。由紀がオーシャンビューといって冷やかしていたのはこれらしい。1LDKの間取りで寝室とリビング。女の子の部屋らしく清潔で余計なモノはほとんどない。本棚に並んだ物理学や電子回路の本が理系女子なんだと再認識させられた。


「本当にありがとうね」僕は感謝を述べる

「別にいいって。こうやって由紀が元気になっただけで、旅行を企画してよかったと思うから」

 シャワーを浴びてから明日のことについて聞いた。

「僕、家庭教師をするなんて前提なかったから、Tシャツとアロハしか持ってないんだよね、下も短パンと綿パンだし。こんな格好で家庭教師するって言って相手の人印象悪くない?最初ぐらいはキチンとしようかと思って」

「えー?こんなに暑いのにスーツとか買おうと思ってるわけ?」

「さすがにスーツはないけれど、きちんとしたYシャツで行った方がいいんじゃないかな?」

「たぶんあっちも状況は知っているから何も言われないかと思うけど、ヤマケンくんがそうしたいのならそうしてもいいよ。印象が悪くなることはないだろうから」

「じゃあ明日にでもYシャツ買ってから行くよ」

「わかった、じゃあ少し早く起きるね」


「でももう少し話そうか」佳子、いつになく積極的だ。人見知りな子は打ち解けるとフレンドリーになると聞いたが、本当みたい。

「由紀のことなんだけど」佳子が話した。「あまりプライベートなことをベラベラ喋るのはよくないけど、ヤマケンくんには知ってて欲しいから。由紀には内緒ね」

「わかった」

「由紀ね、高校卒業してすぐ就職しちゃったけど、高校の頃はすごく成績がよかったの」

「当然私も真奈も大学に行くものだって思ってたのね。でも由紀って母子家庭でお母さんにこれ以上経済的に苦労かけたくないって就職したの」

「私たちも先生も奨学金受けてでも大学に行かなきゃもったいないって説得したの。でも由紀って頑固なところがあるから、奨学金をもらっても給料が出るわけではないし、少しでもお母さんに楽な生活がさせてあげたいからって自分で就職決めちゃったんだ」

「由紀のお母さんって病気か何かなの?」

「いや、元気よ。近くの病院で看護婦さんしてるから収入も少なくはないと思うけど、大学に行くっていったらやっぱり大変だから、由紀はそのあたりのこと考えたんだって思う」

「でね、由紀の前の彼、シュウ君なんだけど、由紀ほど成績がよくないのに自分だけ大学に行っちゃったもんだからすごく申し訳ないと思ってたみたい」

「ま、そこは考え方だけどね」

「それでも遠距離でもずっと続いていく感じだったし、私たちもそう思ってたんだけど、ユウキくんがああいうことしちゃったから終わっちゃった。でもこうやってヤマケンくんがいるから、結果オーライでいいんだけどね」

「別に僕は由紀ちゃんが社会人だから好きになったわけでもないし、学生であっても好きなものは好きだと思う。好きなのは由紀ちゃんそのものだし、肩書きとか家庭環境とか関係ない。そこらへんは心配しなくていいよ」

「でも本当にびっくりしたんだよ、由紀は一目惚れなんて絶対にしない子だから」

「僕もびっくりしたよ。だって由紀ちゃん、この旅行の前は本人言うところの闇の時代だったんでしょ?」

「うん、そうそう、全然笑わないし、本当生きてるだけって感じで。やっぱり男の傷は男でしか癒せないんだよね」僕がかつて友人から言われたことと全く同じことを言っているのがおもしろくて、笑ってしまった。

「何か変なこと言った?」佳子が不思議そうに訊いた。

「実はね、僕も友達から、『女の傷は女でしか癒せない』って旅に出る前に言われた。だからってこの旅の間に彼女を作ろうとは思ってなかったけどね」

「うん、ヤマケンくんと由紀、よく似てるしお似合いだと思うよ」

 佳子はニコニコしながら言った。

「それじゃ、おやすみ」

「おやすみ、本当にありがとう」

 佳子は寝室に帰っていった。

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