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南ぬ島 恋ぬ島  作者: ズタボロオー
1 八重山編
6/19

6. さよなら美ら島、さよなら八重山

あっさり八重山と別れることになりました。

 西表最終日。

 今日は昼過ぎの船で石垣島へもどり、飛行機で那覇に帰る日である。帰るというのは女子たちの表現で、僕にとって旅はまだ続いている。周りの人に助けられて旅とはいいながら限りなく日常に近い。


 朝7時。

 まだ由紀はまだ目覚めてない。せっかくの二人の時間を大事にしようとそっとほっぺにキスをした。そしてこれからことを目を閉じて考えていた。自分探しの旅と言いながら、最初から巻き込まれたように恋に落ち、自分を探すどころかどんどん大きなうねりに流されている。決してイヤではないが、あまりにもうまくいきすぎてちょっと怖い。自分の気持ちは間違いないし、由紀の気持ちも間違いないと思うが、この先由紀にさびしい思いだけはさせたくない。

 そんなことを考えていると、突然ほっぺに柔らかい感触があった。由紀が僕のほっぺにキスしていた。やっぱりお互いに考えることは似ているようだ。僕はあたかもキスで目が覚めたように目を開けた。


「おはよ、由紀」

「おはよ、ケン」

「あのね、さっきケンからほっぺのキスで起こされる夢を見て目が覚めたの。すごくいい目覚めだったから、ついついお返ししちゃった」由紀よ、それは夢じゃなくて現実だ。


 昨日の朝とは違って乱入者もいない。静かな朝である。でも一番違うのは、昨日横にいた人は友達だったけど今日横にいる人は彼女である。お互いに気持ちを伝えたので、遠慮はいらない。もう一度抱きしめて、キスをした。

「私たち、本当に付き合うことになっちゃったね」

「二人に、どう報告する?」

「応援してくれてるんだから、朝一番で伝えようよ」

「でも昨日の夕方にはまだ時間が必要とか言ってたのにって言われそう」

「大丈夫、でもね、もう大丈夫だと思うけど、真奈、最初ケンに興味があったみたいだったの」

「え?まさか」

「実はね、最初の船でお喋りした時、ケンが泊まるところ決めてないって話をしたでしょ? その時一緒に泊まろうって言いだしたのは真奈だったの。私そんなこと思いつきもしなかったもの。普通初対面でどんな人かもわからない人にそんなこと言わないし、ましてや男の人でしょ?」

 確かにそう言われればそうだ。でも真奈は一貫して由紀と僕とをひっつける方に動いている。僕に気持ちがあれば前へ前へと会話しにくるんじゃないだろうか?少なくともそんなそぶりは全然見られない。だから僕の仮説を話した。

「でもこうは考えられないかな? 僕と話をしていて久々に笑顔を取り戻した由紀だったからこの男はこのまま由紀を元気でいさせてくれる人かもしれないって。だってそれまで笑ってなかったって聞いたし」

「うーん、それはあるかもしれない。精一杯背伸びして元気な私を見せようとしてた。その時は無意識だったけどそう思わせてくれたのはケンだから、そこには感謝してる」

「じゃ、元気取り戻せた?」

「うん、75%ぐらい」4分の3か。まだ闇の部分があるのかな。

「あとの25%は?」

「那覇まで取り置き」

「わかった。100%目指すよ」

「ありがと、ケンに会えてよかった。それからさっきの話、真奈には内緒ね」

 当たり前である。どこに「実は僕のこと好きでしょ」なんて面と向かって聞ける奴がいるのか。

「今日はこっちから寝起きを襲いに行こうか」由紀が提案する。

「いいね、そんなの好き」

「ケンのエッチ」

「これから本性見て幻滅しないでね」

「大丈夫。そんなにガツガツしてないことぐらい知ってる」


 そんなわけで隣の部屋に入る。まだ二人とも寝ている。由紀に声をひそめて聞いてみた。

「どうやって起こそうか?」

「布団はがすとか?」

「それはもし浴衣がはだけていたら大変なことになる」

「じゃあ、普通に起こそうよ」

 由紀が佳子の耳のそばで言う。

「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す」

 佳子はちょっと驚いたようだが、目が覚めたようだ。昨日のことがあるので少しばかり心の準備があったみたい。

「やっぱり来たんだ、昨日の晩、明日あたり仕返しに来るんじゃないかとは言ってた」

 やっぱりそうか。でもそんな話をしていてもまだ真奈は寝ている。スヤスヤと無防備に寝ている姿はすっぴんでもやっぱり美少女である。

「何、見とれてるの!」由紀の声。彼女の前では考えていることが筒抜けである。

「じゃ、今度はケンが起こそうか」これはちょっと嬉しいオファー。

 耳元で「真奈さん、おはようございます」

 ……

 無反応である。

 少し大きな声で「真奈さん、朝ですよー」

「うーん」少し反応があった。

「真奈、低血圧だから寝起きが弱いの。それから起きた時は超不機嫌だから」由紀が言う。そんなの先に言え。

 今度は由紀が枕元で「真奈、朝ごはんの時間ですよ」と普通の声で言った。今度はさすがの真奈も覚醒したようだ。不機嫌とまでは行かないが最初はなぜみんな集まっているのかが理解できないようであった。


 しっかり目の覚めた佳子が身支度から戻ってきた。メイクはまだだがさっぱりした表情で尋ねる「あなたたち、昨日は進展あったの?」

「うん、まぁ・・・・・・実は、おつきあいすることになった」由紀の言葉に真奈、完全に覚醒。

「ちょっとあんたたち、昨日もう少し時間が欲しいとか言ってたじゃない?」

「そうなんだけど、いろいろ話していたらお互いに相手のこと大事にしてると言うのがわかったから」

「まあ二人はお似合いだと思うし、早いほうがいいよ」

「ところで、もうすぐ朝食の時間が終わっちゃうよ?」一人だけ冷静な佳子。

「あ、行く行く」あわてて準備する真奈。


 さて、朝食時には交際を決心した経緯を根掘り葉掘り聞かれたが、正直みんな一緒に行動しているうちの心境の変化なので、おもしろい話などどこを掘っても出てこない。好きなんじゃないかなっていう意識が好きなんだという確信に変わったぐらいで、それがたまたま昨日の夜だったということである。

「皆さんが期待しているようなことは何もありませんよーっ」由紀が面倒くさそうにいう。

 これからいろんなことがあるんだろうな。僕は楽しみ8割不安が2割と言ったところで由紀の顔をじっと見ていた。


 部屋で荷造りをしながら、由紀に聞いた。

「こんな展開になって、後悔しない?」

「私こそ、こんな展開になって迷惑じゃないかなって、そればかり考えてた」

「僕はこの夏休みはずっと旅するつもりだったから、行く先がどこでもかまわないし、由紀のことだけじゃなく、これからの自分のことなんかも考える時間がほしかったからちょうどよかったと思ってるよ」

「よかった。私に気を遣ってもらって一緒に行くんじゃ申し訳ないから」

「僕だって好きな人と一緒にいたいよ。そのチャンスを2ヶ月半ももらったのだから感謝しないと」

「ありがと。大好き」

「僕も大好きだよ」

 由紀の背中に手を回し、挨拶のようにキスをした。

 ガチャッ

 ノックなしでドアが開いて真奈と佳子が入ってきた。あわてて手を離す。

「あ、お取り込み中?」真奈がニヤニヤしながらこっちに来る。

「イヤ大丈夫」由紀は顔を赤くして答える。

「邪魔だったら戻るよ」

「戻るも何も、もう出発だよ」

「何だかなぁ、これで私だけ彼氏なしだよ、本当にイヤになってきた」真奈は冗談とも本気とも取れないようなことを口にする。

「いつも告られて選び放題なのに高望みしていつまでもできないのは真奈の問題!そろそろ出発するよ」佳子、びしっと返す。さすがの仕切りである。第一印象で自信なさそうに見えると思ったのが申し訳ない。

「それから、ヤマケンくん、悪いけど今日はまだ部屋の準備ができていないから、明日叔母さんの家に行ってもらうから。そこで家庭教師の話と部屋の話をして」

 昨日の今日で準備はできないとは思っていたが、明日から入居できるらしい。どんなところだろうと思うが、仮の住まいなので別にどうでもいい。

 だとしたら今夜の宿はどうしよう。都会だから着いてからでもいいか。


 荷物の準備ができたので、チェックアウト、もう忘れかけていたが、フロントのお姉さんは部屋を変わってくれたことに感謝しているようだった。宿泊料は由紀の会社の社員割引が効いてそのあたりの民宿に素泊まりするくらいの安さだった。


 午前11時半

 宿の送迎車で港に向かい、船で石垣島へ向かう。やっぱり揺れるが、行きの船ほどの大変さはない。約90分で石垣島の桟橋に到着。ここからタクシーで空港に向かう。行くときにはバスで来たのだが、4人いればタクシーに乗って割り勘にしてもバスと比べて大した負担にはならない。

 石垣空港に着く。3人はチケットを持っている。自分のはオープンチケットなので予約を取り直さなくてはならない。困ったことに、3人のチケットの会社は赤い飛行機で、自分のチケットは青い飛行機である。那覇までは別々の飛行機である。しかも青い飛行機の方は満席で、キャンセル待ちだという。夕方の便だったら空席はあるが、4時間ほど空港で待たなければならない。とりあえず3人には先に那覇に飛んで帰ってもらう。出発ゲートで手を振り合って、しばしのお別れである。


 キャンセル待ちの人数の関係で、最初の便には乗れなかったが、1時間半後に出る2便目に乗ることができて、自分も那覇に向かった。


 僕にとっての楽園はここにある。

 短い滞在だったがすごく大きな思い出が残った。

 今度ここに行くときには由紀と一緒なのだろうか?

 エメラルドグリーンの海を眼下に、小さい飛行機の中でそんなことを考えていた。

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