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南ぬ島 恋ぬ島  作者: ズタボロオー
1 八重山編
4/19

4. 約束

かなり観光旅行入ってます。

 旅二日目

 

 朝7時。

「ほーらー、何いちゃいちゃしてるの? もう朝だよー」

 真奈のけたたましい声で起こされる。

 

 確かに同じベッドで眠っているが、別にいちゃいちゃはしていない。由紀などまだ眠っているのだ。昨日の夜にほんの少しはしてるかもしれないが。

 ていうかほとんど眠った感じがない。

 だんだん目が覚めてくると、真奈と佳子はすでに着替えまで済ませている。Tシャツと短パンでいつでもお出かけOKといった装いである。でも、よく考えてみると、なぜこの二人は部屋の中にいるの?

 

「なんで二人はこの部屋に入ってきてるの?」単刀直入に尋ねる。

「昨日部屋に戻るとき、カードキーを1枚ずつ持って帰ってたんだけど、真奈のはこっちの部屋のキーだったのね。私は返しに行こうって言ったんだけど、真奈は由紀の身に何かが起こったら私が助けに入るからこのままでいようと言ったの。親切なのか下世話なのか」

 そんなこと言いながらしっかり朝にはキーを使って入ってきてるではないか。どう考えても下世話である。

 

「じゃ、なにかあると思ったの?」

「あの二人だったら何もないと思ってた」真奈は若干うろたえている。

「ひょっとして壁に耳当てて聴いてたとか?」由紀も目覚めたようだ。いきなり直球で訊いてくる。

「そんなことしないよ。ねえ、佳子」

「うん。本当にしてない、してない」

 まあ別にしてもらっても全然構わないのだが、友情なのか単なる好奇心なのか測りかねる。きっと後者だろうけど。

「でもさあ、二人一緒に寝てたじゃない?」真奈の反撃開始である。

「やっぱり、したの?」何のひねりもないストレートが入ってくる。

「壁に耳当てて聴いてたんじゃないの?」ストレートには変化球で返そう。

「聴いてないからこうやって訊いてるの!」またストレートが帰ってきた。

「したよ。すっごい気持ちよかった」ニコニコして何を言い出すんだ由紀!!

「あっ、絶対してない」急に佳子が言い出す。

「負けたぁ」真奈が言い出す。何に負けた? こっちはわけわからない。

「なぜわかるの?」

「今は言えない。でも一緒に寝たんだね」佳子はなぜだかうれしそうである。でも言えないってことは何か女子だけにわかるサインがあるのだろう。

 一緒に寝たこと自体は現場を見られている。否定のしようがない。でもなぜ佳子は嬉しそうなのか。仲の良い友達に彼氏ができそうということでなのか、それとも何か別の理由なのか? 一方の真奈はあまり嬉しそうではない。

 

「今日のランチ、真奈が奢るからね」なぜか佳子が急に宣言する。

「実はね、昨日の夜、佳子と二人で賭けをしたの。由紀とヤマケンくんが明日の朝どうなるかって。でね、私は何もないから別々に寝てるって言ったら、佳子は二人は一緒にベッドに入るけど、何もしないで寝るって言ったのね」

「佳子ちゃんはどうしてそう思ったの?」

「だって、疲れていたし、お互いガツガツしてないでしょ?」

 さすがによく見ている。

「でもそれだったら別々のベッドに寝るんじゃないかな?」

「お互いの空気がそうだったもの。きっと二人ともすっごく楽しかったと思うよ」

 僕はすぐに寝てしまったのだが、確かにすごく楽しかった。由紀も隣でニコニコしている。やっぱりこの笑顔に癒されている。

 

「さ、そろそろ朝ごはん食べにいかなくちゃ」

 二人に促され、朝食を食べに行く。僕はTシャツに短パンなのでそのまま食事に行けばいいが、由紀は着替えてメイクをする必要がある。とはいえ考えてみたら3人ともほとんどメイクしていない。一応僕も男なのだが、異性の前ですっぴんでいられるってのも僕が男扱いされてない感じがひしひしとする。

 

 朝ごはんを食べると、ホテルの送迎車でジャングルクルーズに出かける。10分そこらで船着き場に着き、切符を買って船に乗る。小さな船に、4人で並んで座る。40人~50人程度は乗っているだろうか、船は満員である。積み残したらどうするんだろうかと思うが、そういうときには次から次に船が出るらしい。動き出すと朝早い時間のこともあって風が心地いい。考えてみるとこれだけの川幅があって護岸されていないというのもすごいが、両岸がマングローブというのもいかにも南国である。しかもソテツだか何だか巨大な木がいたるところに立っている。

「ヤマケンさん、こんなのは初めて?」由紀が訊いてくる。

「うん。そりゃ初めてだ。でも本島にもこんな景色あるんじゃないの?」

「たぶんないと思う。そりゃヤンバルの方まで行けばあるかもしれないけど、少なくとも行ったことはない」だから那覇からでもやってくるんだろうな。ここは沖縄であって沖縄でない。やっぱり八重山なのである。

 

 ときどき、キラキラした魚の影が船の横を通る。ずっとガイドの声がするのだが、音が割れているのとおしゃべりに夢中なので全然聞こえない。

 

 そうこうしているうちに30分足らずで下船場に着いた。ここからは歩いて滝に向かうらしい。結構本格的な山歩きなのだろうか? だったらサンダルのままじゃヤバくね?

 他の客を見るとみんなスニーカーだ。中にはトレッキングシューズを履いて大きなリュックを背負ったの重装備な人もいる。

「ねえ。サンダルでも大丈夫なのかな?」由紀に尋ねる。だんだん不安になる。

「大丈夫だよ」

「だって登山靴の人もいるよ」

「ああいう人は本気で島を歩いて横断する人だから。本格的なの。それにヤマケンくんのはスポーツサンダルだから。さすがにビーチサンダルだとキツいかな」

「じゃ、行こうか」

 心を決めて歩き出す。なぜか真奈-佳子-由紀-僕のフォーメーションである。

 急に真奈の足が止まる。見ると、行く手にはカラフルなトカゲがいる。小さくてかわいい。どうやら真奈は蛇蝎の類が苦手なようだ。あまり得意な女の子というのもどうかと思う。

 自分が拾おうと身を乗り出すと、トカゲはどこかへ行ってしまった。残念。僕は小動物だったらトカゲでもヘビでも気にしない。毒蛇は噛まれると大変なので敬遠するけれど。

 

「みんなはアウトドア好きなの?」女子たちに訊いてみる。

「由紀はよくバーベキューに行くけど、私と佳子はあまり行かない。だって陽焼けするし、それにどう考えたって機材の揃ったところでプロが作るレストランの方がおいしいものができると思うもの」真奈が返事した。

「同意」僕が答える。

「えー! 絶対こっち側の人だと思ったのに」由紀は残念そうである。

 実は自分も真奈と同じ考えである。学生仲間にそういうのが好きな人がいてよく栃木や群馬の山の方までドライブを兼ねてバーベキューなどするのだが、そこまで金と時間をかけるのであればレストランでコースなど食べたほうが美味いのにといつも思っている。ただそういうのが好きな人の気持ちもわからないわけではない。みんなでワイワイガヤガヤ作るのも楽しい。レストランの方が美味いというのはあくまで相対的な話だ。

 

 そんなこんなで30分ほど歩いたろうか。マリュドウの滝に着いた。川の本流がそのまま滝となっていて、高さはそれほどでもないが幅が広い。ちょっと水を触ると冷たくて気持ちいい。元気のいい男女は水着になって滝すべりをして遊んでいる。

 真奈と佳子はスニーカーも靴下も脱いで足を水につけている。

 

 僕は由紀と二人、岩に腰を下ろした。川の両岸はどこもかしこも岩である。川の流れが作り出したと思われるポットホールがあちこちに空いている。

「さっきの話だけど」由紀が続ける「ヤマケンくんは、好きな人がバーベキューとか好きだったら連れて行ってくれるような人だと思ってたよ」なんだその話か。

「別に一緒に行くのは構わないけど、外で食べると空気の良さや雰囲気でごまかされるけど、きちんとプロの人がきちんとした道具で作るモノの方がおいしいんじゃないってことだよ。バーベキューを否定はしてない」

「じゃ、スキューバとかする?」

「やったことないけど、一緒に行こうって言われたら付き合うかもね」

「それは金がかかるから言えない」

「由紀はスキューバとかするの?」

「うん。ライセンス持ってるよ」

「今回はしなくていいの?」

「うん。あの二人、そういうの苦手だから。昨日のバレーでわかったでしょ?」

「そっか、友達優先だね」

「うん」

「由紀ちゃんは僕がアウトドアとかあまり興味なくて残念?」

「うーん、だって付き合ってるわけでもないから、でもちょっとさびしいかな」

「僕はね、必ずしも趣味が100%一致している必要はなくていいと思う。というか相手に対する考え方とかさえ根本にあれば、趣味は完全に正反対でもいいかもしれない」

「えーっ、なんで?」

「だってそれだけ新しい世界を知ることができるわけじゃない?」

「そういう考えもありか」

「ヤマケンくんって、発想がおもしろい」

「あまり面白いと言われたことはないけどね」

「私にとっては、ってこと」

 

「よっ、ナイスカップル!」いつの間にか真奈と佳子が後ろにいた。

「何ずっと話してるの?」

「ううん、他愛ない話」

「昨日の夜は…とか?」

「こんなところでそんな話するかよ!」全員爆笑。

 

 ここからさらに登山道を20分ほど歩くとカンピレーの滝があると言うが、景色は似たようなものだということで船着き場に戻る。帰り道は僕が先頭で歩く。

 途中、すごく鮮やかな緑色のトカゲを見つけて拾った。今度は逃げられず上手く手に入る。爬虫類の苦手な真奈は後ずさり。他の二人もやや腰が引けている。尻尾を掴んで「要る?」と渡そうとすると、トカゲは尻尾を残して逃げて行った。僕の指には主を失って意識なく動き回るトカゲの尻尾。

「もうやめてーっ」真奈の絶叫。ちょっと遊んだだけのつもりだったのにかわいそうなことをした。本気で苦手みたいだ。

 

 帰りの船も他愛ない話であっという間に帰ってきた。陽も高くなり、暑さも半端ない。

 昼食には少し早いが、タクシーで近くのレストランに行く。予定通り真奈の奢りである。別に自分たちは掛けに参加してるわけでなし、奢ってもらう筋合いはないと言ったが、別のところで奢ってもらうからと意味深なことを言った。ありがたくごちそうになる。

 今度は船に乗って沖でシュノーケリングという。ツアーの会社のだろうか、ワゴン車が迎えに来ていた。いつもながら佳子の手際の良さに感心する。港に着くと水着に着替えて、船に乗り込む。昼からのツアーなので間もなく出発である。

 

 今度の船は漁船を改造したのか、20人も乗れば一杯になるような船である。それでも定員いっぱいという感じで、みんな休日のリゾートを満喫している。意外だったのは男性の比率が異常に少なく、小さい子を別にすれば自分を含めて4人しかいない。残りの3人は家族連れのパパさんだったので、カップル客はいないようだ。

 

 20分ほどでポイントに到達。みんなライフジャケットを付け、船から海に飛び込む。自分はライフジャケットは嫌いなので付けずに入る。飛び込んだ時に肩から強い力で水面に引き上げられるような感覚がどうにも苦手である。スタッフの人も無理につけなくていいとのことだったんで、ゴーグルとシュノーケルだけ付けて海に入る。由紀はすでに入っている。真奈と佳子も入ってきた。3人ともライフジャケットはつけているようだ。

「付けないと危ないんじゃない?」佳子が心配したのかそう言ったが、別に付けずとも浮いている。

 

 実は僕、泳ぎは得意であるが、シュノーケルの使い方が最初よくわからず、潜ったタイミングで海水を吸い込んでしまった。シュノーケルを全部海面より下につけてしまうと、大変苦しい。だんだん慣れて海の中を覗くと、海の中はサンゴや小魚たちでいっぱいである。テレビでしか見たことのない世界がここにある。すいすい泳いでいると、女子三人を見失った。

 

 仕方がないからのんびり泳いでいると、遠くで「ヤマケンさーん!」と声がする。どこから聞こえているのか分からないが間違いなく僕を呼んでいる、船を挟んだ裏側まで行くと、真奈と由紀の心配そうな顔。どうやら佳子がふくらはぎをつったようである。つった方の足の親指を引っ張ったりして様子を見るが、痛みは引きそうにない。船までは50メートル余りといった距離だが、泳いで行くのはつらそうなので、船まで連れていく。肩にしがみつかせ、船まで泳ぐ。佳子は何度もごめんねと言っているが、別に気にする必要はない。それより肩を抱えて泳いでいるから、水着の胸が自分の背中に当たるのが気になって仕方ない。別に気持ちいいとかそういう感情はないのだが、こっちの方が申し訳ない。

 

 佳子は船で休むというので、僕はもう一度海に戻る。いっぱい泳いだので疲れたという真奈も佳子と一緒に船で休むようである。由紀はもう一度というか、船に上がらず泳いでいる。

 今度は由紀と一緒に海中散歩である。スキューバまでこなせる由紀にとって、このくらいはなんてことないようだ。そのうち海面にぷかぷか浮いて話をする。

「佳子のこと、ありがとうね」

「いやいや、役に立てるのなら」

「男の人が一緒で助かったよ。結構抱えて泳ぐのって大変だから」

「いや声はするけどどこにいるか見えなくて、ちょっとさがしたよ」

「さっきはなんで先にすいすい行っちゃったの?」

「いやごめん、海の中ばかり見とれてると見失った」

「だったら仕方ないけど」

「でも…由紀ちゃんのほうがきれいだ」軽口をたたく。

「そんなこと言っても、何も出てこないよ」笑われた。

「スキューバってもっといっぱい魚がいるの?」

「沖の方だからいっぱいいるよ。群れになって泳ぐからすごくきれい」

「僕が全然知らない世界を知っているんだ。ちょっとうらやましい」

「じゃあ見せてあげるよ。今度一緒に行こうよ」

「わかった、約束しよう」

「絶対だよ」

「うん。僕は約束は絶対守る」

 話の流れであるが約束した。もし東京に帰ることになっても再び由紀に会うチャンスができたことがうれしいと感じていた。

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