1. 出逢い
以前仕事で記事などは書いたことはありましたが、初めて執筆します。よろしくお願いします。
石垣島。沖縄本島からさらに飛行機で小一時間かけて、7月のある日僕はこの島にやってきた。
僕は山口健太。都内の大学で法学部に通う二年生である。もっとも2年ほど浪人しているので年齢は22歳である。
ストローハットにアロハシャツ、短パンにサンダルといった一見リゾート風の格好をしているが、リゾートが目的で来たわけではない。こんな南の島にリゾートでなく来る理由があるのかと言われそうであるが、実は傷心旅行である。
1ヶ月ほど前、高校2年の時から付き合っていた彼女に振られた。高校を卒業して大阪の大学に通うようになった彼女は浪人が決まった僕と福岡の予備校で遠距離になってしまい、それでも応援してもらっていたのだが自分が東京に行ってしまい彼女から別れを告げられた。自分はやっと自由な時間が手に入れられてこれから頻繁に会いに行けると喜んでいたところだったし、これまで二年間ずっとさびしい思いをさせてきたからこれからいっぱいラブラブになってやると意気込んでいたのだが、彼女のほうはちゃっかりと新しい彼氏を作っていたらしい。思えば今年のゴールデンウィークに大阪まで会いに行くつもりなのをバイトだと断られたところで少しは気付くべきだったのかもしれない。取られてしまったのは悔しいが2年間もさびしい思いをさせていたのだから彼女を責めることはできない。
別れを告げられてからの自分の荒れ具合はすごかったようで、大学に入って知り合った友人たちはこいつ死ぬんじゃねえかと本気で思っていたらしい。確かに初めて付き合った人だし、本気で結婚しようと思っていたぐらいだから自分の落ち込み方は激しいもので、運悪く大学の前期試験なんてものが間髪入れずやってきたので、そっちもまた悲惨な結果であった。
それが何で旅行に結びつくのかという話になるのだが、とりあえず何でもいいから思い出を作りたかったのである。大学の仲間は女の傷は女でしか癒えねえと言っていたが、とりあえず今の僕は彼女なんか作る気もないし。ただただ全く知らない土地にノープランで行って何もかも忘れたい気持ちだったのである。現実逃避というようなかっこいいものでもなく、冷静な大人ならカップルばかりのリゾートなんかに行くと余計に落ち込むぞと忠告してもらえるのだろうが、そんな大人もいない。
今思えばそれがなぜ石垣島だったのかは分からない。前期試験が終わってボーっとしていたらどこかに行かなければという強迫観念が起こり、旅行代理店でキレイな海のポスターを見てここに行こうと航空券を買ったのがたまたま石垣島行きだったというだけである。
そういうわけで何も考えなしに石垣島の離島桟橋にたどり着いた。何となく人里離れた離れ小島もいいなと思ったが、そもそもガイドブックも持ってきてないしどういう島があるのか分からない。船着き場に貼られた地図を見ると竹富島、黒島、小浜島、西表島…
知っているのは西表島くらい。といっても猫ぐらいしか知らぬ。
よし、よくわからないけど西表に行こう。
乗船券売り場で「西表島まで大人一枚!」大きな声でいうと係の女性は怪訝な顔をした。
「西表ってどっちに行くの?」
「え?どっちって?」戸惑う僕。
「上原と大原があるさ。東部のほう行くんなら大原で西部のほうなら上原。ぜんぜん違うところに着くよ」
「どっちでもいいです」率直に答えたが、この答えじゃ向こうも困るだろう。
「宿はどこにとってあるの?」係の人は親切に聞いてくるが、もとより行き当たりばったりなので宿なんか予約してない。
「いや、別に……これから予約しますんで。次の船はどっちですか?」
「次は上原行き、20分後に出るよ」
「じゃあ。それで」
なんとか切符は手に入れた。これからどうなるのか?そんなの自分も分からない。どうにでもなれ!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
20分後の出発と言われたが、すでに船は桟橋に接岸しており、自由に乗れるようだ。
思ったより小さな船で、中央の通路を挟んで3人掛けのシートが2列。それが10脚並んでいる。まだだれも乗っていない。右舷最前列の席に荷物を置くと、特にやることもないので手持ちのカメラのレンズなどを磨いていた。写真撮影は趣味というか、前の彼女が写真を撮られるのが好きな子でよく撮っていたのである。写真を撮るためにデートに行くこともしばしばだったし、彼女の18歳の誕生日プレゼントは手作りの写真集である。「四季」のタイトルのそれは、彼女を一年間追いかけた記録であった。でももう捨てられたかもしれない。
いかん、まだ元カノに縛られている。振り切らねば。
そんなことをいろいろ考えていると、他の客が乗ってきた。
自分の真横、左舷最前列には3人連れの女の子。ぱっと見自分と同世代である。
3人座ると荷物を置く場所がないようで、「すみません、そっちに荷物置いていいですか?」と聞いてくる。別に自分はひとり旅なので「あ、いいよ」と軽く返事する。なにしろ荷物は小さなボストンバッグ一つである。
しばらく3人でワイワイ話をしている。いちばん通路側、自分に近いところにいる、話しかけてきた子はいかにもな純白なワンピースを着た小柄な美少女。見たところ高校生ぐらいか? 街を歩いていてもハッとするぐらいの美貌である。真ん中に座っている子はタンクトップにホットパンツの健康的な女の子。デブというほどではないがぽっちゃり型で、タンクトップの下にこれでもかと存在感を主張するバストがある。3人の中では身長も一番高く、見た感じいちばん話しかけやすそうな感じである。そしてもう一人、窓側の子は華やかな二人とは打って変わって、水色のブラウスの下にグレーのパンツと地味な感じのメガネっ子である。体型も身長も3人の真ん中。決して不細工とかではなく、むしろ美形の方だと思うのだが、終始おどおどしていて何となく自信がなさそうに見える。メークもほとんどなしで、磨けば光る原石みたい。
あまりじろじろ見るのも気が引けるので、またレンズなど磨いていると、美少女が声をかけてきた。
「カメラ好きなんですか?」
「カメラが好きなわけじゃないけど、写真を撮るのは好きだよ」我ながら理屈っぽい答え方である。
「じゃ、私たちも撮ってもらえます?」
「いいよ」
自分のカメラを向けようとすると、「いや、こっちで」と美少女が手持ちのコンパクトカメラを渡してきた。そりゃそうだ。自分たちの旅行写真だから。でもあえて話題作りのために言ってみた。
「このレンズで撮って一生ものの写真を残さない?」
「えー?でも送ってくれます?」
「そりゃ送るよ。自分が保存してどうするのさ」
「みんな美人だから」タンクトップがおどけて言う。
「よく言うよ」自分が返すと、みんな爆笑する。
さらにタンクトップは続ける。「でも、真奈見た時きれいって思ったでしょ?」図星である。おそらく美少女の子は真奈というのだろう。
「イヤイヤイヤ、みんなきれいだよ」
「無理しなくてもいいよ」タンクトップは笑いながら返した。思った通り一番社交的みたいだ。
奥のメガネっ子は笑ってはいるが会話には入ってこない。あまり男慣れしていないのか、人見知りなのであろう。
話をしているうちに船が動き出した。写真を撮るために船室を出て最後部へと行った。港をバックにしても殺風景なので、きれいなサンゴ礁をバックに最初は美少女のカメラで、途中から自分の一眼レフで写真を撮った。
船室に戻って写真を送るためにアドレスを交換した。3人は那覇に住む高校時代の同級生で、真奈と呼ばれる美少女は短大2年生。専攻は幼児保育だそうである。タンクトップの子は由紀と言って百貨店勤務。メガネっ子は佳子という工学部2年生だそう。専門は電子工学とかだが、よくわからない。
由紀が言うには、学生の二人は夏休みなので社会人の自分が休みのときにあわせて西表に2泊3日で行くとのこと。3人は高校時代からの仲良しで、卒業してからは夏休みに毎年こうしてどこか旅行に行っていること、去年は東京ディズニーランドに行ったことなどを聞いてもいないのに教えてくれた。
僕はもとより口数の多い方ではないが、由紀に聞かれて彼女に振られて傷心旅行で何となくやってきたこと、無計画に来たので予定は全くないこと、この先いつ帰るかさえ決めてないことを話した。
真奈と由紀は何やらひそひそと話をして、「泊まるところ決まってなければ一緒に泊まらない?」とこちらがびっくりするような提案をしてきた。こっちは構わないがそっちはいいのかと聞くと、どうせ4人部屋だから一つベッドは空いているし、全然構わないという。しかも由紀曰く「ヤマケンくんって安全そうじゃん。部屋代だって3人で割るより4人で割るほうが経済的だしね」ともっともらしい論理である。ていうかいつの間にヤマケンくん呼ばわり??
「それに二人で話し合ってたみたいだけど佳子さんは同意したの?」と聞くと、
「同意は取ってないけどイヤだったらハッキリ言うわよ。ねえ佳子」
うなずく佳子。別に嫌われているわけではないらしい。
「安全かどうかは使ってみないとわからないよ」という前に、由紀は宿にプラス1名の連絡をしているところだった。
しかしこんな幸せな時間はそう長くは続かなかった。
石垣島から西表の航路は、東部へ行く航路は島の陰で波が穏やかなものの、西部へ行く航路は思い切り外海で風によっては大波の中を航行する。このため欠航率もかなり高いらしい。この日も小さい船はまさに葉っぱのように波に揺られて、何度も波の上から下まで叩きつけられた。みんなおしゃべりどころではない。比較的乗り物に強い自分ですらそうなので、3人組も顔色が悪い。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
波が穏やかになったら入港である。船員さんはこのくらいは中の上だと言っていた。確かに台風が来る前なんかはすごそうである。
「すごかったねぇ」
「聞いてはいたんだけどね」
到着してしばらくは体が揺れているような気分だ。上原港では何台もホテルの送迎車が迎えに来ていて、由紀があれだとその中の一台を指した。この便での客は4人のほかにいないようで、10分ほどで宿に着いた。リゾートホテルと名乗ってはいるもののいわゆるハワイやサイパンのリゾートとは異なる、小さな鉄筋の建物である。
ロビーにはいかにも南国風な籐製のソファがあって、自分と真奈、佳子はそこで待っているように言われ、由紀だけがホテルのフロントでチェックインの手続きをしていると、フロントレディが大変申し訳なさそうに何やら由紀に話している。由紀も少し困った表情でこっちにやってきた。
「どうしたの?」
「実は、4人部屋で予約していたんだけど、ツイン2部屋で予約している家族連れのお客さんからできれば4人部屋にしてほしいと言われたらしいの。お母さんと低学年の子供3人だから子供2人だけで部屋を使うのは怖いって。それでできれば部屋を交換してもらえないかと」
「でもそうするとみんな一緒の部屋では泊まれないよね、それに誰か一人は僕と二人きりになっちゃうってことでしょ」
「二人きりは別にいいんだけど……」由紀はドッキリすることを平気で言う。
「もしだめって言ったら?」佳子が訊く。
「あくまでホテルの都合だからその時は仕方ないけど、もし替わってもらえるのなら食事を全部サービスしてくれるんだって」
「食事タダ? だったら迷うことはないすぐ替わってあげましょうよ」真奈がわかりやすく餌に食いついた。
「いいの、部屋割は後から考えればいいんだから。もしあとから来たお客さんがそのオーダー受けたら食事代損しちゃう」真奈はあくまで食事代タダに釣られようとする。美少女らしからぬ実利的な意見に全員圧倒される。
「佳子、いいのね」
「みんながいいならいいよ」
「ヤマケンくん、いい?」
「僕はオマケみたいなものだから、どっちでも」
「よしじゃあ替わるね」
かくして、4人でワイワイガヤガヤのはずが、2人ずつ2部屋に分けられた。
「部屋割は後でするんで、とりあえず一つの部屋に集まろう」
由紀の提案で208号室に全員が入った。隣の207号室があてがわれたもう一つの部屋らしい。
「僕は先に隣の部屋行こうか?」一応僕なりに気は遣ったつもりだ。
「まだヤマケンくんが隣の部屋って決まったわけじゃないよ」由紀が言う。何か考えあってのことだろうか。
「とりあえず時間あるからビーチ行かない?」
「うん、行く行く」
「ヤマケンくんも行くでしょ?」
「実は僕、海パン持ってきてない」
「えっ? じゃあ西表まで何しに来たの?」
「だから傷心旅行だよ、リゾートじゃないから」本当にさっき話したことを覚えてないのかこいつら。
「せっかく美女3人が水着になるって言うんだから一緒に行こうよ」ていうか由紀の格好って水着とそんなに変わらんだろうと心の中で突っ込む。
「わかった。行くよ」
部屋で悶々と元カノを思い出すよりこの子たちと海に行こう。
「売店で海パン売ってるかもしれないから買いに行ってくる。その間に着替えててね」
「わかった」
売店にあったトロピカルすぎる柄の海パンを難なく手に入れて部屋に戻ると、3人の美女が色とりどりの水着に着替えていた。真奈はパレオのついた水色のビキニ。肉感的な魅力は乏しいがスレンダーな身体に似合って、イメージにぴったりである。由紀はまるでグラビアアイドルが着るような真っ赤なビキニ。Fカップはあろう感じの巨乳にプラスして、布の面積が狭くて目のやり場に困る。一番意外だったのが佳子の水着で、真っ白なワンピースなのだが意外にも由紀に負けないぐらいの巨乳なのであった。
「佳子は隠れ巨乳だもんね」自分が思っていたことを真奈が口にした。「ていうか、この3人だと私だけが貧乳で嫌になる」
「えー、胸あったって全然いいことないよ、代わってほしいよぉ」佳子が甘えた声でいう。
「まだ佳子は武器の使い方を知らないからね」由紀がその武器を振り回しながら笑う。
残念なことにみんな水着の上にTシャツを着ている。紫外線が強い沖縄では日焼け止めだけでは足りずこうするのが正しいとのこと。僕もバスルームで海パンに履き替えて、上にTシャツを羽織る。
「さ、海いこ」
ビーチはホテルの裏である。