第1話 「いつもと違う朝」
最初は夢だと思った。……というか、そう思いたい。
俺はいつも通り、携帯のアラームで七時に起きた。窓からは、カーテン越しに明るい太陽の光が差していて、なかなか気持ちのいい朝だ。ここまではいい。
「けど誰だろうな……、俺に抱きついてるのは」
そう、起きたときからずっとだ。その温かく柔らかい感触は、おそらく……、
「はぁ……、なんか嫌な予感がするなぁ……」
布団をゆっくりとめくってみる。
「……」
あれ、なんかかわいい女の子が出てきた。うわーびっくりー、すごいすごい。……ねえ、本当に夢じゃないの? これ。
「ていうか、絶対これ家宅侵入だよね。どっから入ってきたんだろう……」
歳は十三、四とかそんなもんだろう。白いワンピースを着ているが、肩の紐がずり落ちたりスカートがめくれたりで、なんか大変なことになっている。
まあでも、あったかいし気持ちいいし、しばらくこのままにしとくか。
「……かわいいなぁ」
つん、とほっぺたを押してみる。お、柔らかい。つんつん。
「……ふ……むにゅ…………ん……」
なんだか幸せそうな顔をしている。つんつん。
「…………んにゅ……」
寝顔かわいいなぁ……。つんつん。
「……ん、んー……」
くっ……、耐えろ……!
「ん……んー、ふぁあぁぁ……」
あ、起きちゃった……。そのまま俺から離れて、ベッドにちょこんと正座で座る。
俺も起き上がり、彼女に向き合って座った。
「えっと……、おはよう」
「うん」
「その……、誰ですか?」
「私? 名前は……ない」
「え、ないの? 名前」
「うん」
「そうなんだ……」
違う違う、もっと聞かなきゃいけないことが……。
「えっと……、そうだ、どこから来たの?」
「ん……、よく覚えてない」
「……そう」
……なんだろう、この少女の平然としてる感じは。ねぇ、ここ俺の部屋だよね?
「あーもう、なんかよく分からなくなってきたよ……」
「私のせい?」
「そうに決まってるだろ!」
「……ごめんなさい」
「あ、いや……、その、謝るならなんか説明とかしてよ……」
「説明?」
「……ここがどこだか知らないの?」
「うん」
「……じゃあなんでここにいるのかな?」
「えっと……、」
彼女は、少しの間を置いて、恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。
「名前……、教えて?」
「は? え、俺? ……翔太だよ、藍川翔太」
「翔太……、うん、会いたかった」
「えっと?」
「私は、翔太に会いに、ここに来たの」
……どうやら、俺に平穏な生活はもう訪れないようだ。