3話 第一歩
父親の仕事は農業だが、たまに森に出掛けて狩猟をしているみたいだ。だが俺の食事に肉が出てくることはまず無い。狩猟で得た肉は村の物となるのだ。こんな貧しい村では、助け合わねば生きていけないのだろう。俺の食事は基本、薄い豆のスープと黒パンだ。たまにスープにクズ肉が入っている。しかも一日二食。この貧しい村には将来、家を継がない三男坊に充分に食事を与える余裕はないようだ。
これはまずい。非常にまずいぞ。
タンパク質が摂取できていない。これまでは体が小さいので食事は味気ないものの、なんとかなっていたが将来、独り立ちして世界を周る身としては、頑強な身体は必要不可欠だ。
明日からこっそり狩をしよう。親父と一緒に狩をしたことがあるし、自作の弓もある。親父との狩では、何匹かウサギのような小動物を仕留めた。そして獲物は村へ、、くそう!。
独りでも、あの小動物なら問題無いだろう。野草を取りに行く時についでに狩ることも、できるはずだ。そしてその場で焼いて食べてしまおう。
幸い俺の仕事は、早朝の水汲みと洗濯、朝食から晩食までは森で野草採取だ。時間的余裕は充分にあるだろう。俺は、西の森の野草の生えているポイントを熟知しており、調整して採取しているので、かなり安定した量を毎日親に提出できているし、将来畑を継ぐわけではない為かかなり自由に過ごしている。今までは小動物を仕留めても村の物になるし、俺の元には来ないので狩をしようとも思わなかった。
次の日、早朝に起床。素早く水汲みと洗濯を終わらせると。採取用の背負い籠、弓と自作の矢を担いで家を出た。
さて、野生動物は、村に近寄らない為結構森の奥まで歩かなければならない。野草を採取しながら歩く。この森は子供の足でいける様な距離に魔物は滅多に出ない。辺境とはいえ、そんな場所だから村ができたのだろう。野生動物は、人を見ると逃げるため危険も無い。新たな野草の群生地を見つけると、場所を記憶に刻む。地図を作りたいが、もちろん紙などの高級品は存在し無いし、石板などに書いて、他の人にポイントを知られてもつまらない。
2時間程村から離れるように歩き、野草も、今日の分は充分に集まった。
「よしっ、狩るか!」
籠を近くの木の枝に引っ掛けて、ここを中心に狩をすることにする。
できるだけ気配を隠し森を歩く。森を歩くのは、慣れた物だ。鹿のような大物は石製の粗悪な鏃では、仕留めることは不可能。よって狙いは小動物となる。30分ほどで、木の根元に巣穴を見つけた。運が良い。巣穴ならば、数匹仕留めることができるかもしれない。小石を集めて巣穴に投げ入れる。何個か投げ入れたところで、巣穴の中に影が動くのが見えた。素早く矢を穿つ。その瞬間に2匹の小動物が巣穴から出てきた。急いで新たな矢を放つが、当たらなかった。素早い2匹のウサギのような小動物は、逃げてしまったが、1匹は仕留めたので良しとしよう。
巣穴から矢が腹に刺さった獲物を引きずり出す。まだ息があるようなので、手頃な枝に蔦でぶら下げ、血抜きついでに首を愛用のナイフで落とす。命を奪う行為は、特に抵抗はない。ここは日本と違い厳しい世界だ。生きる為なら人殺しも覚悟している。この五年間で割り切りは済んでいる。
獣を捌くのは初めてだが、父親や村人がやるのを何度も見ているし、売り物にするわけでもない。多少荒削りでも問題ない。
フフフ・・・
肉だ、前世ぶりにまともな肉が食える!塩胡椒などは無いが、いい香りのする野草を刻んでかければ結構いけると思う。
さて薪も採取のついでに集めてある。肉をナイフで尖らせた手頃な木の枝に刺していく。おっと、俺としたことが、薪に火を付けなければ!
あれ??どうやって火を起こすんだっけ!?えーと、母親は、いつも火打石で、カチカチやっていたな。
無い。火打石無い、、、くそぉ!!台所からくすねてこればよかった!いや無理か、火打石はたまに来る行商人から買っているはずだ。多分我が家にとって、そこそこ大事な物だろう。少なくとも無くなれば問題になる。
ぐっ、肉を諦めるのか、いやそれは無い!こうなったらあの原始的な方法で火を起こすしかない。
30分後
スリスリスリスリッ、、はぁはぁはぁ、スリスリスリスリスリスリッ、、はぁはぁはぁ
「はい無理。」
諦めが早いかもしれんが、こんなもん子どもには無理だ。時間の無駄だ。
冷静に火を起こす為に思考する。火とは、熱があれば生まれる。熱は摩擦などの激しい運動から生まれる。それは先ほど試したではないか!!
ふと思い出す。村の老人エセ魔法使いが、ライターくらいの火を起こしていたな。俺が魔法使いだったら・・・例え、ショボイ火しか起こせなくても今肉を焼ける。
地べたに胡坐をかき目を閉じて、瞑想の真似事をして見る。
魔法とは、老人エセ魔法使い曰くイメージを、魔力に乗せるだけらしい。
老人はどんなイメージをしているのか聞いたら、発現している魔法と寸分狂わぬイメージをしているそうだ。魔力の量は使えば、成長するが成長の限界には個人差があり老人はライターの火を1日に4回が限界だそうだ。自分の魔力以上の魔法をイメージしても、全魔力を消費し発動もしない、そして気絶する。全魔力を消費しても命の危険はないそうだ。ただ、回復の為に強制的に眠ってしまうようだ。
さて、まずは自分の中の魔力を探す。
うーん。全然わからん。
目を閉じていると、前世で死んだ時を思い出す。最近は無かったが、久しぶりに思い出してしまった。あの女に恨みは、無いが兄貴にはある。
あいつはクズだ。親の脛を齧り人の足を引っ張ることしかできない。あゝなんかムカついてきた。腹の底から怒りの炎が湧き上がってくる。
その時違和感を覚えた。腹の中心に熱を感じるのだ。嫌悪感や身体の不調は無いが、いくら前世の兄貴にムカついても、こんな明確に熱を感じるだろうか。もしや、と思いこの熱に意識を向ける。この熱を移動するイメージをする。案外簡単にできた。今度はこの熱を二つに分けてみる。そして片方を右手まで移動させ一気に手から放出させるとともにライターの火をイメージする。
ボッッ
「出たぁーーーーーーーーーーーーー」
これが俺の魔法使いの第一歩であった。