11話 奴隷商館
この世界では、奴隷制度が存在している。犯罪者や債務者、口減らしで売られた子供が奴隷になる。奴隷は物として扱われ、人権はない。
また、奴隷を商品として扱えるのは国だけである。奴隷商人は国家公務員のような立場だ。
奴隷には首輪の魔具がつけられている。街中でも結構見る。首輪の効果は主人に登録した者の命令に従わない場合や奴隷が主人に危害を加えようとすると激痛が奔る。国しか製造方法を知らないし、外そうとすると奴隷が死ぬそうだ。
奴隷が犯した罪は、全て主人が責任を負う。命令で犯罪をさせない事が出来るので当然だ。
魔具は人が作ったもので量産されている物もある。魔導具は迷宮や古代遺跡で発見されるもので、魔具と魔導具のはっきりとした区別はないが、魔導具は現在の技術では作ることの出来ない高性能なものが多い。魔具は迷宮や遺跡で発見された魔導具を研究し、現在の技術の出来る範囲で再現したものだ。
今目の前にある奴隷商館はかなり大きい。冒険者ギルドより大きいのではないだろうか。
中に入ってみる。木の檻の中に奴隷が等間隔に並べられていて、奴隷の用途や種族、性別ごとに区間が分けられている。まるでペットショップだ。木の檻は奴隷の脱走を防ぐ為では無く、奴隷という商品を守るための物だろう。奴隷は命令に背くことは出来ないため脱走も無い。
奴隷は安くても、だいたい金貨1枚だ。高価な宝石がガラスケースに入っているのと一緒なのだろう。
客は檻の外から奴隷を品定めし、その奴隷の正面に檻にかかっている奴隷の説明文を読んで購入するか判断するシステムのようだ。
店内を見渡すと、身なりの良い人が多い。貴族や裕福な商人が奴隷を飼うことが多いようだ。少ないが冒険者もいる。
稼ぎの良い冒険者は、屈強な元犯罪者の奴隷などを自分のパーティーメンバーにすることもあるそうだ。奴隷の飯代や装備代は掛かるが、取り分は総取り出来るし、裏切りも無い。奴隷は高級品なので、使い捨てたりはしないが、いざと言う時は身代わりにもできる。長い目で見れば、かなりお得かもしれん。
俺は、他人を簡単に信用しないのでずっとソロでやって行くつもりだったが、裏切る事の無い奴隷ならいいかもしれない。
独りの時間を大事にする俺だが、奴隷は物だ。いてもいなくても独りの時間が無くなるわけでは無い。
・・・ありかもしれん。
まあ、とりあえずどんな奴隷が売っているのか見てみよう。
冒険者達が品定めしている区間へ向かう。
うむ、皆凶悪な面構えである。説明文を読まずとも、元犯罪者であることは一目瞭然だ。
中には片腕が無いものや、目が潰れている奴隷もいる。値段を見るとやはり金貨1枚よりも少し安い。
この元犯罪者達は、なんと言うか、皆目がギラギラしている。男の奴隷は一定期間に売れないと、炭鉱や開拓村などに送られて使い潰されることになる。誰でもいいので早く飼われたいのであろう。喋る事は許されていないのか、無言で逞しい筋肉をアピールするポーズをとったり、ずっと腕立て伏せをしているバカもいる。
珍しい女の冒険者が前を通ると、無言だが、凄まじい熱量の視線を送りながら、アピールをしている。どうせ飼われるのなら女がいいのだろう。気持ちは分かるが、むさ苦し過ぎる。
ひとつ思ったことがある。こんな凶悪な面構えで、むさ苦しい奴隷などそばに置きたく無い!!
無人島で、むさ苦しいおっさんと二人暮らしなど冗談にもならん!!そもそも、どれだけ屈強な肉体だろうが、魔力も無い普通の人では、戦闘力の足しにならないではないか。
戦闘奴隷は必要無いと判断する。
では、どんな奴隷にしようか?使用人的なポジションの奴隷を飼って、身の回りの世話や、料理をさせるのもいいかもしれない。使用人がいれば我が高級リゾート無人島ライフも更に充実したものに変わるだろう。
さっきカリンちゃんの店で食べた料理は美味かった。今まで村の食事が最悪な事もあり、サバイバル飯で満足してしまっていた。手の込んだ料理の味を知ってしまっては、もうサバイバル飯では満足出来ないだろう。
前世では独り暮らしをしていたが、コンビニ弁当や牛丼がメインで、たまに自炊しても食材を切って炒めるだけのいわゆる男飯だ。まともな料理は出来ない。
つまり今、料理の出来る人材は喉から手が出るほど欲しい。
探そう!料理を含めた家事全般が出来る美人な奴隷を!!
俺も七歳児とはいえ男だ。奴隷は物として扱うが、側に置くなら若い女の子でなければならん!むさ苦しいおっさん奴隷を見た後だから余計にそう思う。
説明文を読みながら檻の前を歩く。
1人の少年奴隷と目があった。何処かで見たことがある顔だ。何処で合ったのだろう?興味が湧いたので説明文を読んでみる。
うむ、どうやらこの少年奴隷は貧しい村の口減らしに売られたみたいだ。
何処かで聞いた話だな。理由が分かってよかった。今夜も安心して眠れそうだ。少年奴隷がめちゃくちゃ手を振っているが、知り合いでも見つけたのだろうか?周りには誰も居ないが。きっと未来に絶望して頭がおかしくなったのだろう。さっさと次に行く。
やはりと言うべきか、皆考える事は同じらしい。若くて美人な女奴隷が並ぶ区画には、かなり人が集まっている。皆熱心に説明文を読みながら吟味しているみたいだ。俺も読んでみる。
やはり需要があるだけのことはある。めちゃくちゃお高い。若くて美人な女奴隷は、最低でも金貨7枚はする。一般市民には無理な値段だ。
俺も魔物の素材やらを売りまくらなければ、買うことは出来ない。
今の所それをするつもりは無い・・・今の所は・・・
美人女奴隷達は、むさ苦しいおっさん奴隷と違い、目をギラギラさせてはいないが、逆に客に対して品定めする様に見ている。少しでも待遇のいいであろう、身なりの良い金持ちを狙ってアピールしている。谷間を寄せたり、ゆさゆさ揺らしたり中々いい光景だ。明らかに買えない値段だが、これを見に来ているのか、冒険者や一般市民の姿もある。女は強いな。
さて、今思い出したが俺は今ほぼ無一文だ。金を作ってから出直してこよう。
出口に向かって歩くと、異様な奴隷達を見つけた。5人居るが皆女の子のようだ。
5人とも全身に酷い火傷を負っていることが奴隷の着る簡易な麻の服の上からでも分かる。髪の毛は無くなっている子もいて、正直キツい。5人とも表情は暗く目には光が無い。ピクリとも動かずに座り込んでいる。
説明文を読んでみると、どうやらこの子達は口減らしや親の借金の形で売られた後、奴隷商人の馬車でドーラの街まで運ばれる途中に盗賊に襲われたらしい。奴隷商人の馬車についていた護衛がなんとか撃退したが、奴隷を乗せた馬車には火が放たれており。馬車の中から出ないように命令されていたこの子達は、逃げられずに大火傷を負ったみたいだ。5人はその時の生き残りだ。運んでいる中でも、貴重な若い女奴隷なので、奴隷商人がポーションを掛けて治したみたいだが、傷痕は酷いもんだ。ちゃんと治すには、上級の魔力を持つ治癒士に大金を払わなければならないだろう。
うーん、奴隷に堕ちた事もそうだが、運が悪いとしか言いようがない。
値段を見てみると、全員大銀貨1枚だ。肉体労働にも使えず、性奴隷も無理だ。使用人のように使うにしても見た目が悪い。それにあの目、世界に絶望してしまっいる。奴隷なので自殺も出来ない。
5人で大銀貨5枚だ。めちゃくちゃ安いが、これでは買う人もいないだろう。
俺は治癒魔法が得意では無いが使える。魔物との戦闘で何度か怪我をした時に使っている。
多分5人の傷痕も問題無く治せるだろう。
••••••買いだな。




