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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第一章 妖精の国
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部屋にいた妖精

 私達はリリーの転移魔法で里に戻り、経過を女王に話すことにした。


 その話を聞き、女王もアランもショックを露わにする。


「お前がついていながらなんということを」


 アランは苦虫をかみつぶしたような顔をする。


「ごめんなさい」

「彼女たちだけで行かせた私の責任よ。でも、国としては彼らの要求をどうすることもできません」


 女王は不安の色をすぐに隠すと、焦るアランとは対照的に淡々と話しをする。


「女王様、でもローズ様が」

「仕方ないのよ。私達には王女の呪いを解くことなどできない。だからといって、攻撃を仕掛けようものなら、人間に弾圧されてしまう。娘のために国を犠牲にするわけにはいかない。そんなこと、あの子も分かっているはず」


 彼女の凛々しい表情が逆に、彼女の辛さを表現している気がした。

 あの男たちに勝てる者はなにがあるんだろう。腕も叶わない。魔法も使えない。この国の事は何も知らない。不可能だと思ったのだ。


「私、助けに行きます」


 そう立ち上がったリリーの目は涙で潤み、手足は震えている。

 いつもの明るく勇ましい彼女の姿はどこにもない。


 怖いんだ。


 あの二人でさえ手も足もでなかった。それが他の人間も加わればもっと凄惨な目に遭う可能性だってある。


 ここにきて、のどかな時間を過ごせてこのままここにいられるならいても良いと思っていた。きっとその気持ちはローズもリリーも変わらない。


「私も行く」

「あなたが行っても役に立つか分からない。魔法も使えないんだよ。それになんのためにここまで戻ってきたと思っているの」


 リリーはそこまで口にして、しまったと言いたげに口を押えた。


 彼女からするとあのまま追いかけたほうがリスクは低い。私を傷付けないためにそうしたのだろう。


 友達のつもりでいて足手まといになっていたことを今更知り、情けない。


「でも、人間の国に行くなら、情報収集ならリリーより出来るよ。見た目はこの世界の人間とそんなに変わらないんだよね。人間が魔法を使える人が多くないなら、まさしくそのままでしょう」


「でも、アルバンとジャコに会ったら殺されるかもしれないんだよ」


「それでも行きたいの。リリーも同じでしょう」


 私に何ができるかは分からない。だが、このまま城で待つなんてできない。

 もともとエミールの木を採取しようと言い出したのは私なのだ。


 リリーは唇を噛むと、「ありがとう」と囁いた。


「許可をください。私は美桜と一緒に人間の国に行きます」

「あなたが捕まっても、国としては救出できないわ。それでも良いの?」

「構いません」


 リリーはそう言うと、唇を強く噛んだ。

 女王は苦々しい表情を浮かべながらも、私達に人間の国に行く許可を与えてくれた。



 私とリリーはそれぞれ部屋に行くための身支度を整えた。リリーから借りたショルダーバッグの中に携帯と女王からもらった人間の国のお金を入れる。あと、何か薬に立つかもしれないとあの薬とその作り方のメモも入れておく。携帯は国についてからすぐに電源を落としているため、まだ起動させしたら使えるだろう。


 だがそれだけでは心もとない。私は何か役に立つものはないか鞄に手を伸ばす。教科書、ノート、ボールペン。ボールペンは何かに使えるかもしれない。だが、鞄の下に銀色の何かがいるのに気付いた。私はそれを手でつかむ。


 輝く銀の髪に、肌理の細かい肌、大きな先端のとがった耳。その愛らしい容姿はリリーとローズを連想させた。だが、その大きさは随分と小さい。


「妖精?」


 私は人差し指でつつく。それは体を震わせ、目を開けると辺りを見渡した。 

 そして、私と目があうと、口を手に当て、「あ」と言葉を漏らす。右手をあげて挨拶をする。


「おはよう。ついに見つかっちゃったのね」


 この普通すぎる反応は何だろう。


「あなたは誰?」

「アリア」


 聞き方が悪かったと思い、もう一度聞き直す。名前を知っても、私にはこの世界の知識があまりない。


「あなたは妖精なの?」

「そうね。でも、この国の妖精とはちょっと違うの。今はあなたの敵じゃないわ」


 彼女は立ち上がると腰に手を当て、得意げな笑みを浮かべる。


「今はって何?」

「失言、忘れてね」


 彼女はぺろりと舌を出す。


「今からローズを探しに行くのよね。そのための手助けはしてあげる。私は意外と役に立つのよ。でも、私がここにいることは誰にも言ったらだめだよ」


「何で?」


 なぜローズの誘拐のことを知っているんだろう。


「理由はいわない。でも、周りの人に言ったら、あなたを殺してやるから」


 さらっと物騒なことを言う妖精の出現に、私は鞄をあけたことを後悔していた。



 その妖精はさっさと私のカバンに入り込み、それ以降は私が話しかけても反応しなくなった。ものすごく怪しいがこれ以上何か言っても無駄だと思い、そのまま廊下に出る。そこには白いローブを羽織ったリリーの姿がある。彼女はフードを被り髪を結っていた。その姿は人間の少女そのものだと思う。


 私たちは頷くと、女王にもう一度対面し、城を出る事になった。


 彼女は暗い表情で、そうとだけ呟く。アランが城のところまで送ってくれる事になった。ローズの件はしばらくは国民に伏せておくそうだ。


「本当は誰か強い魔法を使える妖精をつけさせればよいのですが。他の国に協力を頼むにも二日は短すぎる」


「そのための期間なのだと思います。強い魔力の持ち主は多くが人間に顔をしられているし、国を離れた途端人間が襲ってこない保証もない。そうなれば、ローズ自身が悲しみます」


 リリーはぺこりと頭を下げる。


 一階につくと人の数が増える。リリーもアランも言葉を紡ぐ。


「行ってきます」


 リリーは辛辣な表情を浮かべたまま、アランにそう告げる。


 城を出た直後、リリーを呼ぶ甲高い声が響く。彼女の細い指先がリリーの腕をつかむ。アデールさんの隣に住む人だ。彼女の顔は青ざめ、息は乱れている。


「どうしたの?」

「アデールさんが熱を出して倒れたの」


 リリーは目を見開く。


「少しだけ、アデールさんの家に寄っていい?」


 私はリリーの言葉に二つ返事で頷いた。



 私達がアデールさんの家に入ると、彼女はベッドに横になっていた。額は熱く、頬は赤く染まっている。呼吸が荒く、何か魘されているようだ。


「アデールさん」


 リリーは彼女の手をぎゅっと握る。


「美桜の作った薬は?」

「そうか」


 私は小さな小瓶にいれた薬をアデールさんの口元にたらす。

 だが、彼女の苦痛に満ちた表情が歪むことはない。フェリクス様の件で、この薬は即効性があることが分かっている。この薬は効果がないのだ。呼吸を乱し、何かにうなされている。


「一緒にいられなくて、ごめんね。私」


 リリーの目に涙が浮かぶ。


 そのリリーの肩に大きな手が置かれた。


「大丈夫ですよ。彼女は城の診療所に運んでおきます。それに人間の国に行けば、特効薬もあるかもしれません」


 アランはそう告げる。


「そうですね。行こう、美桜」


 私は念のため、アランの分析した症状をメモに記しておく。


 リリーはそう言うと、口持ちを引き締めた。

 私たちはそこでアランと別れる。アランは転移魔法でアデールさんをお城に連れていくそうだ。


 私たちは家の外で待っていた女性にお礼を言うと、アデールさんをお城の診療所に連れて行くと伝える。


 彼女は心なしかホッとしたようだ。


 私たちは彼女が家に入るのを見送り、集落の出口まで行く。


 私たちは目を合わせると、居住区の外に足を踏み出した。

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