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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第三章 オーガの国
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第二のメモ

 花の民。その名前を幾度となく聞いた。だが、この世界の文字は全く違うのに、日本語を使っているというのはどういうことなんだろう。同時にこのメモが他に存在していたことに、妙に腑に落ちる部分はある。


 ロロがこれを持っていたというのは、彼は花の民に会ったことがあるのだろうか。

 私はその疑問を口にする。


「ロロは花の民に会ったことあるの?」


 彼は首を横に振る。


「俺の父親が会ったことがあるらしい。その人は深い傷を負っていて、そのメモを父親に託したんだ。自分と同じ国の人がいたら、渡してほしいとね。お前はそれを読めるんだよな?」


 私は頷いた。


 そこにはある草の採取法が記されていたが、私は花の国の民じゃない。だからこそ、そのメモをロロに渡そうとした。


「できれば持っていてほしいんだ。どうせ、この世界の人間はほとんど読めないし、今まで隠し通してはきたけど、いつ王妃に見つかるか分からない。このまま王妃には渡したくはないし、これが見つかれば、いくらルイーズでもなぜこれを手に入れたのか強く問いただされてしまう。それに文字を読めるお前の身にも危険が迫る可能性もある。だからルーナで預かってほしいんだ」


 私がメモ通りに作ったあの薬も大きな効果をもたらしていた。ロロはここに何が書いてあるのかではなく、それで周りの人間が傷つくのを怖れているのだろう。


「一応預かっておくね」


 そう言ったのはロロが苦い表情を浮かべていたためだ。私はそのメモをあまり見ないようにして、鞄の中に入れる。


「早めに帰ろうか。今日、ここに来るのは私達だけだと思うけど、余計な疑いをもたれることは避けたいもの」


 花の民が日本語を使っていたことがどんな意味を持つのか、見当がつかなかった。


 日の差し込む道は緑の息づく、美しい空間へと化していた。まるでルーナの傍にある森のようだ。もう少しこの森の中を動き回りたい気持ちはあったが、私達は森を後にする。


 森を出るとルイーズは私達に離れているように促し、再び魔法を使う。辺りが眩い光に包まれた後、あの石が宙に出現する。それは眩い光を放ち、ルイーズの手のひらに収まる。そして、徐々にその光が消失していく。


「この石を使っている間は中に入れるの?」


 ルイーズは頷いた。


「これは国から借りているのよ」


 彼女は緑色の石をバッグの中に片づける。彼女はその時、小さな声を漏らした。


「そう考えると、ポワドンはしっかりと結界を張っているわけじゃないのよね」


 ルイーズは森を一瞥した後、そう口にする。


「何が?」

「ポワドンの北東に大きな穴を見つけたのよ。オーガの子供くらいなら通れそうな穴」

「北東? そんなのあったっけ?」

「この前、辺りをうろついていたらあったんだ。やっぱりあそこを通ったら、ポワドンに入れるのかな」


 ルイーズの目が遊び道具を見つけた子供のようにきらきらと輝いている。


 ロロは額に手を当てると、短く息を吐く。


「お前、また捕まってラウールに迷惑かけるなよ」

「ポワドンでは捕まったことないよ。あの辺はこの国の領土だから大丈夫よ」


 ルイーズが慌てた様子でそう弁解する。


 「では」ってまるで他の場所では捕まったことのある言い方のような気がするが、きのせいなのだろうか。それともたまたまそういう接続詞を使っただけなのだろうか。


「それならいいけどさ。今日は俺たちしかこの場所に来てないとは思うけど、先にそいつを送るか」

「そうね。妖精の町に入らなければ、他の人間を連れて行っても大丈夫だとリリーさんも言っていたもの」


 いつもはロロを先に送り、私をルーナに連れていくが、今日だけは勝手が違っていた。余程そのメモの存在が気になるのだろうか。


 ルイーズは転移魔法を使うと私とロロをルーナの入口に導いた。ナベラと同等の森が無限に広がっている。


「ここがルーナか。想像通り綺麗なところだな」


 ロロはぼうっとした顔で辺りを見渡している。彼女が連れてきたのは集落の少し手前の森だ。ここから目と鼻の先に町の入口がある。


「中も結構きれいだよ。ロロが入れるようになったら案内するね。ルイーズの像もあるしね」


 ロロは私の言葉に頷いていた。


「昨日、今日といろいろありがとうございました」

「こちらこそつきあってくれてありがとう。わがままも聞いてもらってごめんなさい」


 彼女は深々と頭を下げる。


 あのメモのことを言ってるのだろう。


「気にしないでください。必要になればお返ししますのでいつでも言ってください」


 私の言葉にルイーズは頷く。


「次は七日後にポワドンに行くから、また迎えに来てもらうよ。ルイーズが来ることになるとは思うよ」

「分かった。ありがとう」


 私はそこでルイーズと別れ、街に戻る。ロロ達は私が町の中に入るまで見送ってくれたようだ。どうしてもメモのことが気になり、その足でお城に直行した。


 私がお城に戻ると、ちょうど一階を歩いていたリリーとはちあわせする。


「早かったね。もう少し遅くなると思ったのに」

「でも、朝早かったから、気持ち的にはもう昼過ぎかな。ナベラから転移魔法でルイーズにここまで送ってもらったの」

「じゃあ、ロロも来たの?」

「入口までだけどね。さすがに連れて入っていいか分からないからと言っていた」

「問題はないと思うけど、人間を嫌う人もやっぱりいるし、それが無難だよね」


 リリーはそこで言葉をいったん切ると、わたしをじっと見る。


「何かあった?」


 私はリリーの問いかけに頷いた。


「少し、話があるけど大丈夫かな」

「いいよ。ちょうど、私も部屋に戻るところだったの」


 ジョゼさんに帰った事を報告したほうがいいとは思うが、一番の関心事はロロから託されたメモだ。

 リリーを部屋に招くと、バッグから取り出したメモを託す。

 リリーはそのメモを見て、目を見張る。リリーも言いたい事を一目で理解したようだ。


「これってあのメモと似ているね」


 私はナベラであったことを一通りリリーに話をした。


「じゃあ、これって美桜のいた国の言葉で、 これを花の国の民が持っていたの」


 私は頷く。

 リリーは戸惑いをあらわにメモに視線を落とす・


「花の国の民ってこの言語を使っていたのかな」


 私の問いかけにリリーは難しい顔をする。


「花の民の言語がこの言葉じゃないとは思うんだよね。どこかで目にする機会はあると思う。でも、どうしてなんだろう。花の国と交易があったのかな」


「それはないと思うよ。だって全然この世界とは違うんだもん」

「私は美桜の国も、花の民の国にも行ったことないから分からないけど。これは美桜が持っていたほうがいいみたいだね」


 彼女はメモを私に渡す。


 リリーは私の複雑な気持ちを察したのか、優しく言い聞かせるように言葉にする。


「難しく考えないで、ロロの言うとおり預かっていればいいと思うよ。ただ、王妃が狙っているとしたら、念のため誰にも言わないほうがいいと思う」

「ローズにも?」

「今のところはね。必要になれば言えば良いし、ローズもその辺りのことは分かってくれると思うよ」


 私はリリーの言葉に素直に従うことにした。そして、リリーの提案もあり、それを魔法の箱の中に入れておくことになったのだ。


 それからジョゼさんのところに行き、帰国報告と、ナベラでのできごとを大まかに話す。彼は紫の花の話を興味深そうに聞いてくれた。


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