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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第一章 妖精の国
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地下の調理場

 私たちは城に戻ると、荷物を調理場まで届ける。


「悪かったね」

「いいよ。気にしないで。困った時はお互い様だもん」


 リリーはぺこりと頭を下げるマルクさんにそう返す。


 私達はマルクさんがお礼にと出してくれた特製ジュースを飲むと、食堂を後にする。


「今からどうしょうかな」


 リリーは両手を頭の上で組むと、背を仰け反らせた。


「普段はリリーは何をしているの?」

「森を散歩したり、町をうろついたり、いろいろだよ」


 二階まで上がった時、私はおじさんからもらったメモをポケットから取り出した。

 これから食事まではすることがない。なので、どうせならこれを作ってみようと思ったのだ。


「エメとシリルって知っている?」

「知っているよ」

「高価なものなの?」

「全然。むしろ、エメとシリルは取ったら喜ばれる物。誰かから何か聞いた?」


 そうリリーが聞いたのは私がこの国の植物や食べ物の名前を一切知らない事をしっているためだろう。


「元気になる薬らしい」


 私はメモをリリーに見せる。リリーはそれを見て、顔をしかめた。


「何かの絵? 全然読めない。元気になる薬って怪しいね」

「私の住んでいた国の言葉なんだ。どうせすることないから、試しに作ってみようかなと思ったの」

「へー。よくこんなの読めるね」


 リリーは難しい顔をする。


「まあ、いっか。私も今日はすることないから乗った。どうやって調理するの?」


 私が簡単に説明するとリリーはうなずく。


「じゃあ、エメとシリルとドニを貰ってくるよ。あとは調理場も使っていいところがあるか聞いてみるね。美桜は部屋で待っていてよ」


 リリーはそう言い残すとその足で階段を下りて行った。


 しばらく経ち、リリーはローズと一緒に戻ってきた。リリーとローズの手には草が握られている。エメというのはエノコログサのように先端にいくにつれて鋭利になっている葉だ。シリルはたんぽぽの葉のように凹凸がある。


 二人はお城の一階で出会い、一緒に探しにいくことになったらしい。ローズの勉強は思いの外早く終わったそうだ。


「これって薬草?」

「薬草としては使い道がないかも。あまりこの国では使わないのに、栄養分を奪うから抜いているの。近所の家で抜いてきたんだ。ドニはマルクさんがくれるといっていたから、あとで取りに行くといいよ。でも、これをどうするの?」


 ドリンクと書いてあるから飲むんだろうと告げると、明らかにリリーは変な顔をする。


「こんなもの飲んで大丈夫なの?」

「分からないけど、書いてあるよ」


 リリーは訝し気な目でその草を見る。

 私は何か変なことを言っているんだろうか。

 この草がどういうものか知らないので、変な事を言って知るのかもしれない。


「とりあえず作ってみたら? 地下にある古い調理場なら使っていいと言っていたよ」


 ローズはそうにっこりとほほ笑む。

 初対面の時から感じていたが、ローズは私のイメージするお嬢様像にぴったりというか、細かいことをあまり気にしないところがある。逆にリリーはしっかりし過ぎている気がする。


「そうだね。変な味がしたら吐き出せば大丈夫かな。そんなに強い毒はないと思うし」


 そういう草なのか。そんなにということは若干毒のある成分なのかもしれない。

 このメモが怪しくなってきた。だいたい誰かのいらずらの可能性だってあるのだ。

 私は一抹の不安を覚えながら、その足で調理場まで行く。


 マルクさんからドニを貰う。ドニというのは色のついた水だ。この国にはドニ湖と呼ばれる湖があり、そこで取れる水らしい。転移魔法を使えばすぐに採取は出来るが、集落では取れないため、どうしても貴重な物となる。なので私がもらえたのはコップ二杯分のドニだ。


 階段をおり、地下に行く。地下というと暗くてじめじめとした、牢屋がありそうなイメージだったが、この城ではそんなことはない。悪い事をした人には別に閉じ込める施設があるそうで、地下は普通に部屋として活用されている。


 お城の一階の右手の奥に地下に通じる階段があり、直通でいける。地下に入ると空気がひんたりとするが、地下道の壁には石のようなものが括り付けられ、それが独特のオレンジ色の光を放っているのだ。光りも強く、暗い感じはしない。それは電灯の役割を果たしているが、石自体が長年発光する特製があり、日本に持って帰ろうものなら、ものすごく注目を浴びそうな気がする。


 これらの石はお城の各々の部屋にもあるし、もちろん私の部屋にもある。初めてその原理に気付いた時、電気のコンセントがあるのかと壁をじっくりと見ていたのをリリー達に見られ、変な顔をされてしまった。


 地下室の廊下をまっすぐ歩くと、扉の解放された部屋がある。わたしの部屋くらいの調理場で、五、六人くらいはゆうにはいれそうな広さがある。流し台には蛇口があり、手をかざすと新鮮な水が出てくる。体温に反応するセンサーのようなものがあるのか、この城中の水道がそのような形になっている。


 古い調理場といっても今でもたまに使われるらしく、鍋や包丁、容器などが豊富にそろっている。私はメモに書いてある通り、エメとシリルを丁寧に洗い、土を落とすと、細かく刻む。太さの指定はないができるだけ細かく刻んだほうが良いらしい。


 それを鍋の中に付けたドニの中にいれる。このまま長時間煮ると良いそうだ。ガス代に鍋を置くと、自動的に火が点る。最初は栄えた文明に驚いたが、慣れてくるとかなり便利だなと感じてしまう。


「暇だから、地下でも散歩してくるよ」


 しばらく煮立つのを眺めていたリリーはあくびをし、そう言い残すと部屋を出て行った。


「ローズも行ってきても良いよ。私が見ておく」

「いいですよ。何かあった時にはすぐに対処できるようにしておきたいので、気にしないでください」


 そうローズは笑う。

 彼女たちは私より年下に見えるが、実は実年齢は二十を超えているそうだ。といってもエルフは長寿なので、あまり年齢という概念がないらしい。三百から五百程生きるのが常で、その分成長も遅いらしい。なので、彼女たちはこの国では「子供」だ。人間は私達と同じくらい七十年程だそうだ。


 その時、鍋の中にいれたドニがぐつぐつと煮立つ。エメとシリルの葉の色が白くなったのを確認して火を止めた。


「耐熱性の容器はどれ?」


 ローズは白い陶器のようなものを差し出した。同じ色の蓋も同時に差し出す。

 私は棒でエメとシリルを先に容器の中に入れ、そして容器の中にすっかり色の変わったドニの水をいれた。


「後は一晩おけば完成するよ。これはここに置いて置いて大丈夫かな?」

「大丈夫。地下に入る人はそんなにいないもの」


 私たちは使い終わった調理器具を片付けることにした。そんなにとリリーが言っていたようにやはりエメには軽い毒性があるらしい。戻ってきたリリーに手伝ってもらい、念入りに水で洗うと、最後に戸棚から取り出した薬品をかけ、お湯で洗い流す。


「これで大丈夫」


 私は徹底した洗浄振りに、自分の作った物質に対して不安を覚えながら、地下室を後にした。

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