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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第三章 オーガの国
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ポワドンからの依頼

 あくびをかみ殺すと、頬を抓った。だが、まだ欠伸が出たりないのか口から飛び出してきそうになる。


「今日は、私一人でも良かったのに」

「それはまずいよ。そもそも私の役目なのに」


 私は心配そうなリリーにそう告げる。


 昨日というか今日、花の蜜を集めた後、私達は帰ってきた。だが、いざ眠ろうとベッドに横になっても、あの花を見たからか、花の民の話を聞いたからかあまり寝つけなかったのだ。まだ眠気がしっかりと残っている。


「後でひと眠りするから大丈夫だよ」


 今からローズと食堂の前で待ち合わせをして、その後はひと眠りしようと決めていた。


 だが、お城から金髪の妖精が呼び出してきたのだ。

 彼女は私達を視界に収めると、口元を綻ばせた。


「どうかしたの?」

「入れ違いにならなくて良かった。フェリクス様が美桜を呼んでいるの」


 私はリリーと顔を見合わせる。

 フェリクス様から呼び出されることはほとんどなく、意外な気がした。

 何かあったんだろうか。


「ジョゼさんには私が報告しておくから、フェリクス様のところに行くといいよ」

「ありがとう」


 私はリリーの好意に甘え、フェリクス様の部屋にいく。

 ノックをするとすぐに返事が返ってきた。


 ドアを開け、顔を覗かせると、そこにはフェリクス様の他に予期せぬ人がいた。

 ラウールは私と目が合うと、頭を軽く下げた。


「今朝、城の前でラウール様と出会ってね、美桜さんに用があるとのことで待つ間、話をしていたんだよ」


 フェリクス様がラウールを自室に招き入れた後、足音が聞こえたので外に出てみればローズと顔を合わせたらしい。その時に、私に用があると言ったため、彼女はわざわざ私にそれを伝えに来てくれたようだ。


「用事って?」

「ロロの要件を伝えに来た。ポワドンからロロにどんな薬草が生えているのか、調べてほしいという依頼があったんだ。ロロがお前の都合が付きそうなら、手伝ってほしい、と。すぐに答えが出せないなら、後日聞きに来るよ」

「大丈夫だよ」


 内容自体は問題がないが、どちらかといえばフェリクス様の前でポワドンの話をすることに緊張していた。彼を通じて他の妖精に知られることを避けたかったのだ。


 だが、フェリクス様は急にポワドンの話が出てきても驚いた様子はなく、笑顔を浮かべ、良い経験になるだろうと背中を押してくれた。


 詳しく話を聞けば、ロロは今日から行く予定らしくブレソールの前で待っているそうだ。


 いつから良いとは言ってくれたが、私は特に用事もなかったため今日行くことにした。


 ラウールと一緒にフェリクス様の部屋を出て私の部屋に向かう途中、そこでちょうどリリーとローズにはちあわせをする。

 ローズもラウールが来たことを知らなかったのか、驚いたようだ。


「用事ってラウールだったんだ」

「私、ちょっとポワドンに行ってくるね。フェリクス様に話を通してあるけど」

「ポワドン?」


 リリーは顔を引きつらせる。彼女も私と同じように、他の妖精に知られるのを避けたいと思っているのだ。

 私はリリーの視線に肩をすくめて返す。

 私は部屋に入ると、バッグを肩にかける。


 机の上にいるアリアと目が合った。


「今からポワドンに行くんだよね」


 彼女はそう言い残すとバッグの中に身を隠した。


 部屋の前で待っていてくれたラウールと一緒にブレソールまで行く。

 転移魔法でたどり着いた場所にはロロが既にいて、彼は私と目が合うと軽く手を上げて挨拶をする。


「来ててくれたんだ。ありがとう」

「いいけど、何で急にそういうことになったの?」


「俺たちが帰った後にさ、別の子供が薬草と毒草を間違えて飲んだらしいんだ。区別がつきにくいものだけど、前々からそういう事案が良く起こっていて気にはなっていたらしい。少し前から薬草の管理をしていたオーガが行方不明になっていて、時間がある時でいいからどこに何が生えているのか調べてほしいという話になったんだ」


「行方不明って嫌な響きだね」


「と言ってもどこか国が把握していないだけで、本人にしてはそのつもりでもない可能性もあるしな。静かな場所で暮らしていたり、他の国に行っていたりするらしい。彼らは寿命が長いから、大雑把なところがあるんだよ。その地図もそのオーガに作ってほしいと依頼したら、面倒だからと断られたんだってさ」


 私はその理由に苦笑いを浮かべてしまった。もっともといえばもっともな理由だ。


「寿命が長いって寿命ってどれくらい生きるの?」

「五百年とからしい。体が強くて病気になることもあまりないんだってさ。どうせなら、一緒に来ない? 一人よりは二人の方がはかどると思うよ」


 面白そうな気がする。あの国のどこに何があるのかは気にならなくもない。私は二つ返事で頷いた。


「とりあえず、先を急ぐか」


 ラウールは再び呪文を詠唱し、たどり着いたのはポワドンに繋がる洞窟だ。

 彼はそのまま洞窟内に入り、私とロロもついていく。

 私はラウールにあのことを言っていないのを思い出した。


「ポワドンに行った事、誰にも言ってないの。だから、それらしいことは伏せておいてほしいんだ。ばれたら仕方ないけど」

「知らなかったとはいえ、悪かった。次から気を付けるよ」


 私は彼の言葉に頷いた。


 私達が洞窟を抜けると、この前、私達にメサを採って来させようとしたオーガが私達を迎え入れた。


「この前は本当にすみませんでした」


 彼は深々と頭を下げる。


「無事だったんだから気にしないでよ。でも、嘘はやめたほうがいいと思うよ」


 ロロはそう苦笑いを浮かべていた。

 彼はマテオという名前を名乗り、私とロロも自己紹介を済ませる。既にラウールのことは知っているようだ。

 そして、あのオーガの住む大きな宮殿に連れていかれたのだ。


 中に入ると、宮殿内からレジスさんが現れる。

 彼はこの前事情を聞かれた部屋に案内してくれた。

 私達は各々が用意された椅子に座る。


 目の前にこの国の地図が差し出され、ロロが伝えてくれた事情をレジスさんに口にする。この国の中はマテオさんが案内してくれるらしい。


 地形は楕円形で、岩に囲まれている。岩が多い地域なのか、場所によっては岩が立ち並び足を踏み入れる事ができなかったりということはあるが、マテオさんが把握しているので大丈夫だろうということだ。


 私達は地図やメモを手に、宮殿を後にする。


「本当はついていてやりたいけど、悪いな」


 ラウールは忙しいのか、この宮殿の前で別れることになった。


「大丈夫。今回は正式な依頼だし、変なことをしない限りはなにもされないと思うよ」

「分かった。帰りは迎えに来るよ」


 私達は夕方、ラウールと洞窟の外で待ち合わせの約束をする。そこで彼と別れた。


「では、案内します」


 その時、私のお腹が鳴る。そういえば私は朝食をまだ食べていなかったし、すっかり忘れていた。


「何かあるか聞いてきましょうか」


 ロロが宮殿内に入ろうとしたマテオさんを呼び止める。


「俺が持っているから、それをとりあえず食べさすよ。それでいい?」

「いいよ。ありがとう」


 ロロは本当しっかりしているなと思う。


「そうですか。昼食はこちらで用意させてもらいます」


 マテオさんは笑みを浮かべる。


 私達はその足で転移魔法陣のある建物に到着した。まずはメサを発見したあの場所からだ。あそこだけで数日はゆうにかかりそうな気がする。


 そこに入った時、この前眠り薬を使ったオーガと目が合うが、彼はこの前のことを気にしていないのか会釈する。私とロロも頭を下げて会釈した。

 私達が魔法陣に入ると、白い壁が私の視界を覆い、あの場所に到着した。


「この国には転移魔法陣が多いんですか?」

「いえ、ここだけですよ。橋も建てなおさないといけないのですが、そこまで余裕がないので今は転移魔法陣を張っています」

「ここで食事をしても大丈夫?」

「大丈夫ですよ。ただ、座るならできるだけ植物のない場所を選んでいただけると助かります」


 私とロロは彼の言葉に頷いた。


「しばらくしたら迎えに来ます」


 彼はそう言い残すと去っていった。

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