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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第三章 オーガの国
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箱の制作

 私が城の入口まで行くと、影が私の体にかかる。マルクさんが優しい笑みを浮かべて立っていたのだ。ポワドンに行った翌日、魔法の箱を作るために一緒に木材の採取をすることになった。


 妖精の国は多くの木々で溢れているが、その辺りでむやみやたらに伐採することはできない。その代わり、国の管理する土地から伐採できるそうだ。


 管理するために必要な対価を支払う必要があるが、その金額はかなり低く抑えられており、他の国で買う場合の三分の一以下の金額で購入できる。


 国と木材を管理している人の許可が下りたということで、マルクさんが連れて行ってくれることになった。


 だいたいこれくらいの金額になるという目安をマルクさんから教えてもらい、ジョゼさんからもらったお金を持ってきていた。


 町の入口まで行くと、マルクさんが転移魔法を使う。そしてたどり着いたのは森の立ち並ぶ森林だ。


 日差しが森に差し込み、木々が輝いて見える。だが、そこには既に先客がいた。


 彼は私と目が合うと、頭を下げる。オーバンさんだ。マルクさんは私達が知り合いだったのに驚いたようだが、深く追及はしなかった。


「お話した通り、魔法の箱を作りたいらしくて、見合った木を選んでほしいのですが。魔法はリリーさんにかけてもらうそうです」


 マルクさんは適切に状況を説明する。


「魔法の箱か」


 彼は木をじっと見る。そして、動き出すと少し先にある木に触れた。


「この木を刈るよ。少し離れていてくれるか?」


 私はマルクさんに連れられ、その木から離れる。彼は何か呪文を詠唱し始めた。


 木の幹で閃光が走り、支えを失くした木材が右に倒れる。その直後、オーバンさんが再び呪文を詠唱し、その木が眩い光に包まれた。そして、木が横倒しになった状態でゆっくりと地面に着地する。


「どのくらいの箱を作るんだ?」


 私が空を切り、これくらいの大きさというと彼は他の木々の脇に置いていた鋭く光る刃物で木材を適度な大きさに切ってくれた。残りの木材も同じくらいの大きさで切りそろえる。


 その切れ味の良さにかなり驚く。紙をカッターナイフで切っているように、さくさく切れる。


「すまんが、小屋に運ぶのを手伝ってくれないか?」


 私達は何度かその場所を往復して、近くにある木材置き場までその木材を運ぶ。それが終わると板を箱を思わせる形状に加工してくれ、私に渡す。


「代金はいくらですか?」

「あなたには世話になったので、私が代わりに払っておく。せめてもの恩返しだ」

「でも」

「それくらいはさせてくれ」


 マルクさんが私の肩を叩く。きっと彼の望みを叶えたほうがいいと言いたいのだろう。


 私はお礼を言い、その木材を受け取った。


「木材はどこで加工する?」

「それは私の家でしようと思います」

「何か足りないものがあれば言ってくれればいつでも貸すよ」


 私達はそう言ってくれたオーバンさんにお礼を言い、その場を離れた。そのままマルクさんの転移魔法で街まで戻る。


「オーバンさんと知り合いだったんだね」

「昨日、偶然会って」


 マルクさんは優しい人だし、信頼はしているが、リリーとの約束もあるし、あまり不用意に話さないほうがいいだろう。


「そうか。僕も昔から頃から知り合いなんだ。父親が木材を扱う仕事をしていて、その時から」

「お父さんのお店?」

「お城の近くに木の箱や人形を売っている店を見たことないかい?」

「知っています」


 私は驚きのあまり声を漏らした。良く通りかかって可愛いものをいろいろ売っているお店があることは知っていたのだ。


「昔は父親の仕事を継ぐつもりで、いろいろ連れて行ってもらったんだ。最近は城の仕事の方が忙しくて、なかなか手伝えないけどね」


 だからリリー達はマルクさんに作り方を教えてもらったんだろうか。


 お店の前についた私はその脇に連れて行かれる。


 お店とは違う裏口のほうに入口はあり、普段はそこから出入りしているらしい。家の端にある小さな部屋に案内してくれた。


 その家の右手に別部屋のようなものがあり、そこには窓があるが締め切られていた。木のくずが落ちていることから、ここで木材の加工をするのだろう。


 そこには机と椅子があり、マルクさんは私に座っているように言うと部屋を出ていった。


 少しして飲物を手にしたマルクさんが戻ってくる。


「大まかには決めた?」

「一応」


 私はバッグから手にしていたデザインを出し、マルクさんに見せる。


 下手な絵を笑われるかと思ったが、彼はそんなことはなく、別の紙に私の描いた絵を描き出してくれた。わたしのイメージした通りの小箱だ。大きさは少し大き目で、淵には模様が入っている。その模様はルイーズが私のイメージと言ってくれた花を模ったものだ。


「どうしてわかるんですか?」

「美桜ちゃんの希望が分かりやすい絵だと思うよ。絵なんて慣れればある程度は書けるようになるよ。芸術家になれる絵となるとそうはいかないだろうけどね。実際にこの模様を板に書き込んでみようか。難しかったら、僕が書くよ」


 彼にペンを渡され、木材に書き込もうとしたとき、ドアが開いた。


 そこに立っていたのは年配の男性だ。この店の店主で、顔だけは知っている。彼は私に鋭い視線を向けた。


「職場にいないと思ったら、こんなところにいたのか」

「今日は休みなので」


 マルクさんは鋭い言葉に対しても、笑顔で答える。


「人間の娘の世話などせずに、嫁を見付けれくれればいいものの」


 彼は私を睨む。思わず、その視線に自ずと私の体が震える。彼の態度は私の中にある祖母の記憶を蘇らせたのだ。


「父さん、そんなことを言うのは失礼ですよ」


 先程まで笑顔だったマルクさんが真剣な表情でそう返す。


 男性は乱暴に扉を閉め、部屋を出ていってしまった。


「嫌な思いをさせてごめんね。最近は、結婚相手なんて探しに出かけて見つかるものでもないのに、顔を見るといつもあれなんだ」


 私は首を横に振る。


「今日、休みだったんですよね」

「僕が構わないと言ったのだから、気にしないでくれると嬉しいかな。木材を扱うのは好きだし、久しぶりにオーバンさんにも会えたしね。それにお城は就労条件が細かくて、休みを取らないと、問題になるからちょうど良かったよ」


 彼は優しい笑みを浮かべる。私の中の祖母の記憶が薄まり、心が楽になる。


 気持ちを切り替え、箱作りに専念することにした。メモを参考にしながら、木材に絵を描いていく。何度も消してを繰り返して、やっとの思いでそれらしいものがかけた。


「飾りはこれで彫るといいよ」


 細い彫刻刀のような先端に金属のついたものを渡してくれる。だが、その花の柄のところがうまく彫れない。

 手が滑り、指先を切る。

 痛みから思わず声を漏らした。

 マルクさんが私の手に触れた。私の傷口が塞がり、痛みもなくなる。


「ここは僕が彫るよ。それで構わない?」


 私は頷くと立ち上がるとマルクさんに席を譲る。マルクさんが彫っていくのをじっと見つめていた。


「こういったものは魔法で切れないんですか?」


 そう思ったのは、ルイーズの魔法を思い出したからだ。


「精度は当人次第かな。魔法でうまくできる者もいれば、そうでない者もいる。魔法で作るのも楽しいけど、こうして手を動かすのも楽しいよ。僕も子供のときはうまくほれなくて、良く父さんに怒られたんだ。だから、今があるんだろうけどね」


 彼がその平板を私に差し出すと、そこには美しい花が描き出されていた。


「ありがとうございます」


 彼はあっという間に平板に模様を描き出してくれた。そして、あとはそれを組み立てる作業に入らないといけない。マルクさんに言われたように木材の端に凹凸を入れ、それを組み合わせる。


 そして、ジュエリーボックスのようなタイプの箱にしたかったので、それを説明すると、彼は後方に留め金をつけてくれた。最後に、独特の匂いのある液体を塗る。植物からとれた成分でそれを塗ることで傷つきにくくする効果があるらしい。


「後は乾いてから、持って帰るといいよ。後で取りに来ようか」


 マルクさんは食堂に顔を出すらしく、私は彼と一緒にお城に戻ることにした。


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