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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第一章 妖精の国
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城内散策

「私はここで失礼します」


 お城の中に戻ると、アランは深々と頭を下げ、城の中に入っていく。


「今からお城の案内をしようか。簡単なところだけ教えるね」


 リリーは私の手を引き歩き出す。

 一階には入ってすぐのところにカウンターのようなものがある。関所のようなもので、番人に城内に入るのを止められることもあるそうだ。私は女王の許可を貰っているので、余程のことをしなければその心配はないらしい。彼らは記憶力が良く、誰がいつ出入りしたかをしっかり覚えている。


 その右手に行ったところには草のイラストが描かれているところがある。これは有名な薬草の絵らしく、ここで薬をもらえたり、魔法で治療をしてもらえるらしい。薬は原料の取れやすさにより、有料のものから無料のものまで幅広いそうだ。女王は無料で配りたいらしいが、有料の薬の多くは商人から原料や薬自体を買っているため、そこまでは出来ないらしい。


 次に案内されたのが食堂だ。これも一階にある。入口に入り、左手に行ったところに人のにぎわう場所がある。お城にいる人は決まった時間ここで食事をとれるし、部屋に持ち帰って食べても良いらしい。ただ、万が一零したときには必ず掃除をする必要があるとのことだ。


 その部屋に入ると、木で出来た机やいすが置いてあり、何人かが食事をしていた。

 そろそろ夕食の時間になるそうだ。


 食器は土色の陶器のようなものが主で、フォークとスプーンのようなもので食事をしている。これらは木で作られている。


 食事は様々なものがある。野菜が中心だが、パンのようなものを食べている人もいる。私がそれをじっと見ると、リリーが穀物を使ったものだと教えてくれた。パンのようなものなんだろう。


 また、意外にジュースを飲んでいる人が多いのに気付く。これは野菜ジュースで、野菜が原料になっている。煮詰めたり、細かく刻んだものを絞ったり。野菜によって調理方法が異なるそうだ。液体成分にも栄養のある水が含まれており、最も人気のある食事だそうだ。


 その時、おちょこみたいな小さなコップで黄色の液体を飲んでいる人を見かけた。野菜ジュースは大きなコップだが、これはかなり小さい。


「小さいコップのはお酒なの?」

「違うよ。お酒は禁止されていないけど、この国の人はほとんど飲まないよ。あれは花の蜜なんだ。甘くておいしいよ。他にも木の実のジュース何かもあるんだ」


 リリーはメニューのところまで連れて行ってくれる。そこで今日出せるメニューが書かれているようだが、記号を並べたような文字で読めない。


「読めないの?」


 私はうなずく。


「リリーちゃんとローズ様、こんにちは。それが噂の人間か」


 カウンターの向こうから金髪の人懐こい男性が話しかけてきた。体格が良く、スポーツ選手のように背丈が高く、腕も太い。布製の洋服も着ているようだが、その上に割烹着のようなものを着ており、頭には髪の毛を落とさないためかタオルのようなものを巻き付けている。


「そうだよ。これからよろしくね。美桜のいた国とは食事も違うと思うから、迷惑かけると思うけどよろしくお願いします」


 リリーが挨拶をすると、おじさんは私をちらっと見て会釈した。


「大丈夫だよ。逆に腕がなるね」


 妖精の国の人は敵とみなすか、好奇心旺盛な目で見られるかのどちらかが多く、普通に接されると逆に新鮮だ。心がほっとする。


「優しそうな人だね」


 食堂を出た後、リリーとローズにそう声をかける。


「おじさんには料理をおいしく食べてもらいたいという理念があるの。だから、いつも笑顔なんだ。おじさんに合うために来ている人もいるくらいなんだ」


 すごく前向きで、人気者なんだ。でも、人気がある理由は分かる気がする。


「あとは浴室を教えれば大丈夫かな」


 そこからお城の奥に入っていく。そして、途中、髪の毛の長い女の人が描かれている扉が目に入る。


「ここがお風呂だよ。中を確認しようか」


 リリーは扉を開ける。そこは人気がない。

 私たちは靴を脱ぎ、その上に上がる。

 木の籠が並べてあり、どうやらそこに服などを入れるらしい。その奥には木の扉がある。


 リリーが扉を開けると、石造りのお風呂が目に入ってくる。その広さもホテルの大浴場並だ。ただ、シャワーのようなものはなく、桶が置いてある。良く見ると大きさの違う風呂が二種類あるのに気付いた。その両方に蓋がされている。


 何か書いてあるが、文字が読めない。


「あっちが入浴用で、こっちが水汲み用なの。体を洗う時には水汲み用の水を使うの」


 だが、水汲み用と言われたお風呂では蛇口のようなものはない。


「水は地下から汲み上げているの」


 付け加えたリリーの言葉に納得する。

 ここにはここの文明があるんだろう。


「夜遅くは扉が締められて中に入れないから注意してね」


「お風呂は私部屋のお風呂を貸しても良いよ」


 ローズはそう付け加える。


「しばらくはそっちのほうが良いかもね。敵視する人もまだいるだろうし、敵対心がなくても、質問攻めにあって、出て入って来るだけでも大変そう」


 リリーはそういうと肩をすくめた。


 私達が食堂に戻ってくると、先程より人が増えている。その中にアランの姿もある。


 彼はプレートのようなものに、ジュースを数本載せている。

 彼は私達をちらりと見て会釈をすると、階段を上っていく。


「小食なんだね」


 背丈が高く、それなりにがっしりしているのにあれで足りるんだろうか。


「あれはお母様の分だよ。お母様が行くと食堂が混雑しても困るからと、アランが一通りこなすの」


「アラン様って何をしている人なの?」

「女王様の護衛よ。アラン様のおばあ様のセリア様がその役目を司っていたけど、今はお休みをされていて、その間だけ孫の彼が受け継いでいるの」


「護衛って女の人がするの?」

「そういうわけじゃないけど、女王だと女性の方が守りやすいのよ。女性だと入れない場所、男性だと入れない場所も出てくるでしょう。男性は男の護衛なの。私はローズの護衛なの」


「そういえば、森であったときにそんなことを言っていたような」


 私はリリーの話を聞き、納得した。


 今日のメニューは五つ。リリーは説明はしてくれたが、単語が出るたびにちんぷんかんぷんだ。


 五つのメニューの中でどれにするか迷い、私はローズとリリーと同じものにした。


 品物が来るまで席に座って待つ。しばらくしてリリーが緑色の野菜の色をしたジュースを三つ 木製のプレートの上に載せて戻ってくる。


 その隣には調理場にいた男性の姿もある。彼は私達のテーブルまで来ると、マルクと自分の名前を名乗ると笑顔を浮かべた。私も自分の名前を名乗る。


「もし、口に合わなかったら言ってくださいね」


 私はお礼を言い、さっそく飲んでみることにした。


「おいしい」


 野菜ジュースを飲んでいるようだ。ほんのりとした自然の甘さでしつこくない。

 私の言葉に、マルクさんは明るい笑みを浮かべる。


「気に入ってもらえて良かったよ」


 彼は調理場に戻っていく。

 ジュースを飲んだだけなのに、意外にお腹が膨れる。あのジュースをたくさん飲んでいた女王様は意外に大食なのかもしれない。


 私達は部屋に戻ることにした。

 その途中、何人かとすれ違う。


「分からない事があれば、いつでも聞いてね。あと城の中を動きたいときにはいつでも言ってね」


 リリーとローズはそう言い残し、部屋を出て行く。

 窓の外ではいつの間にか陽の光が山に消えようとしていた。

 辺りを包み込んでいた明るい光も消失していく。空には無数の星が瞬き、虫の鳴き声が耳をくすぐる。


「綺麗」


 日本にいた時は毎日忙しくて、こうした景色をゆっくり眺める事もなかったと思う。

 日本のようで全く違う世界。


 最初森出会った時はどうかと思ったけど、リリーもローズも優しい人で良かった。


 でも、私がここにいるということは、元の世界の私はいない。

 鞄から携帯を取り出すが、圏外表示になっている。


「私は一生この世界で暮らすのかな」


 だが、気にしても仕方ない。そう言い聞かせる事に決めた。

 その時、部屋の中でかさかさと何かが動く音がした。だが、音のした方を見ても何もない。


「気のせいだったのかな」


 私は首をかしげ、あくびをかみ殺した。


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