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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第二章 獣人の国
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一時帰国

 リリーは果物を口に運びながら、私の話に耳を傾けていた。彼女が食べているのはクレという林檎とようなしゃきしゃき感のある紫色の皮の果物だ。彼女はそれが大好物で良く食べている。皮はむいて食べても、そのまま食べても構わないらしい。


「クラージュの独立の時期は私もローズもまだ生まれてないな。女王様か、フェリクス様なら知っているんじゃないかな」


 女王様もフェリクス様も穏やかで人柄が優れた人だが、独特の雰囲気があるため、気軽に話ができるタイプではない。


 その時期の事がなんとなく気になったが、興味があったからという理由で知れる話題ではなかったようだ。


「行ったことある?」


「一度もないよ。アンヌに会うのも五年かそこいら振りだもん。それどころか、私は半人前だから、単独で国から出させてもらえないのよ。この前は仕方ないから許可が下りただけなの」


「でも、リリーは結構魔法が使えるんだよね。それだと国から出られる人って少なくない?」


 彼女は指を折り、数えていた。


「そこそこは使えるけどね。もう一歩足りない感じなの。この前、ジャコに捕まったのもマイナスになっているみたい。国から自由に出られるのは十人で、アラン様やフェリクス様はそこに含まれるよ。彼らと一緒なら国から出られるけれど、要は自分で自分を守れない限りは国から出られないの。この国は幸い広いし、不自由はしないんだけどね」


 その時、ローズが飲物を片手に席に着く。彼女の朝食はいつも野菜のジュースだ。


「私も外の国に行ってみたいけど、外の国は平和とは言い切れないから、仕方ないよね」


 ローズはそうにこやかにほほ笑む。


 ローズがジュースを口に運んだ時、私達のテーブルに影がかかる。そこには細身で年配の女性が立っていた。パメラさんといい、年齢は四百歳を超えている。だが、その年齢の割には老けて見えず、若いおばあさんといった印象だ。彼女はローズの教育係をしている。


「ローズ様は午前中は儀式の練習に入ってもらいます」

「今日からなの?」


 ローズは目を見張る。


「早めに終わらせたほうがいいでしょう。食事が終わったら隣の休憩室まで来てくださいね」


 ローズは力なく頷いた。パメラさんはそのまま食堂を出て行く。


「儀式って何?」


「神殿を修復したのを神様に伝える儀式だよ。なぜか私に役回りが回ってきたの。やることは難しくないんだけど、失敗は厳禁だから前もって練習が必要らしいの」


 どうやら、女王の娘というのは無関係に回って来るらしい。


 私たちは早めに食事を切り上げることにした。


 ローズと隣にある休憩室の前で別れる。休憩室は食堂よりは狭いが椅子などがたくさん置いてある。そこで彼らは会話を楽しんでいるようだ。


 私が階段の前を素通りすると、リリーが私を呼び止める。


「どこ行くの?」

「神殿じゃないの?」

「午前中は人手が余っているから、大丈夫だって。折角美桜が勉強する気になっているんだから、勉強しないとね」


 リリーは私の手を引っ張ると、軽やかな足取りで階段を上がり始めた。


 それから勉強をしたが、クラージュやエスポワールなどのことは頭に入って来るが、それ以外の国だと雲をつかむ感じになってしまっている。やっぱり実物を身近に感じるのと、そうでないのでは全然違う。


 リリーは国の細かい事情を説明するのは諦めたようで、私に国の名前と首都名、そして種族名をまずは頭に入れておいた方がいいと言い出した。


 私はリリーの作ってくれた一覧表にざっと目を通す。


「この世界って種族が豊富だよね」


 ドワーフや人魚と書かれても、どんな感じなのか全くイメージがわかない。童話に出てくるイメージのままなんだろうか。


「美桜の国は違うの?」


「人間がいて、獣や鳥、魚はいるけどその混血はいないかな」


 私が自分の世界の種族ついて少し話をすると、リリーは興味がわいたのが目を輝かせ始めた。特に彼女の興味を引いたのは、言葉が人間の間でも通じないということらしい。異種間でも言葉が通じるこの大陸と比べるのと大きな違いなんだろう。


「変わった世界だね。私も行けるなら行ってみたいかも」


 リリーは目を輝かせてそう口にする。


「リリーが来てくれたら、案内するよ」


 それは本心だったが、彼女は人間ぽい服装をしても、容姿の影響でそまま歩くと目立ってしまいそうだ。


「美桜はさ」


 リリーは真顔でそう口にして、首を横に振る。


「私も美桜の国に行けば、言葉だけは通じるのかな」


 彼女はさっきの暗い笑みが見間違いと思ってしまう程、明るい笑みを浮かべていた。


「私が話せるし、言葉だけは通じそうだよね」


 私達はリリーは私の遊びに来たら何をするかという実現できなさそうなプランを立てていた。実現するかは分からないが、こういう時間は意外と楽しい。


 昼前にはアンヌ達を手伝うために神殿に行くことになったのだ。私達は既に手伝いをしているアランの指示を受け、手伝いをする。


 夜、部屋に戻ると本の続きを読む。


 私は飲み物を飲んでいるアリアをちらりと見る。


「アリアはクラージュにいったことある?」

「あるよ」


 彼女は飲物から口を話すと、そう告げる。そして、飲み物の続きを飲み始めた。


「あるの?」

「人に聞いてその返事はどうかと思うよ」

「ごめんね。リリーが行ったことがないと言っていたから、アリアもないと思っていた。どんな国だった?」


 アリアは首をかしげる。


「人口も少ないし、民自体はみんな仲が良い。頭を中心によくまとまっているイメージかな。でも、緑と水が少なくて、そういう面では寂しいかもしれない」


 私はアリアやアンヌの話から、砂漠のような土地をイメージしていた。


「アリアって物知りだね」

「美桜が知らなさすぎるのよ」


 アリアに返す言葉もない。


 私は少しでも知識を埋めるために、手元の本に視線を落とした。



 それからはリリーにこの世界のことを教えてもらったり、神殿の修復の手伝いをしたりと忙しい日々を過ごしていた。

 



 私とリリーは女王に謁見をした間の隣の部屋の前にいた。リリーがノックをするとすぐにパメラさんが顔を覗かせる。


「ちょうどよかったわ。今着終わったところよ」


 彼女はドアを開け、私とリリーを部屋に招き入れる。私はローズの姿を見た時、思わず声を上げそうになる。


 彼女は白いドレスのようなものを身に付けている。そして、その長い髪は後方で一つに結われ、そこにはダイヤモンドのような透明な宝石が散りばめられている。


 あどけない彼女がいつもより大人びて見え、何か一枚の絵を見ているような気分にさせられた。


「すごく似合っているよ」

「うん、めちゃくちゃ可愛い」


 私はリリーの言葉に同意して、胸の前で拳を握りそう力説する。


「そうかな。いつもと違って、変な感じがする」


 彼女は自分の来ているドレスに触れると、頬を赤らめ申し訳ないような笑顔を浮かべる。


 今日はローズから衣装を着る日だと言われ、リリーと一緒に見にきたのだ。


「衣装は脱ぎましょうか。今日はもう自由にして大丈夫ですよ」


 パメラさんはそう告げる。ローズの儀式の練習が一通り終わったのだ。あとは神殿の完成までは二日に一度程練習を続け、本番をむかえるそうだ。


 私とリリーは部屋の外に出て、ローズが着替えるのを待つことにした。


「さっき、フェリクス様から聞いたけど、アンヌ達は今日国に戻るらしいの。何人かは残るけど、人員の入れ替えもあるらしいの。三日後くらいにまた来るらしいよ。だから、挨拶をしにいかない?」


「そうなんだ。もちろん行くよ」


 急な話だが、一度国に帰るということはアンヌから聞いていた。その日が今日だったんだろう。


「私もアンヌと一緒にクラージュに行く予定なんだ。フェリクス様や女王様は行ったことあるけど、私が行き来できると彼女たちの送迎も楽になるでしょう」


「いいな。私も行ってみたい」


「だったら私が聞いてあげるよ。許可がもらえなかったら、今回は諦めてね」


 私はリリーの言葉に頷いた。


 しばらくして普段着に着替えたローズが出てくる。ローズにさっきの提案をすると、彼女も同意してくれた。彼女も私達の神殿に行こうと誘うつもりだったらしい。


 私達がお城を出たとき、アンヌにばったりと出くわす。


「ちょうど会いに行こうと思っていたところだよ。今から、少し国に帰ろうと思って挨拶をしにきたんだ」


 その時、アンヌの様子がどこかおかしいと感じる。


 だが、彼女はいつも通りに笑う。気のせいだったのかもしれない。


「クラージュにもう一人連れていって欲しいけど、大丈夫ですか? もちろん、帰りは私が連れて帰ります」


「構わないよ」


「良かったね。あとは女王様の許可をもらうだけだ」


 リリーが私の背中をぽんと叩く。


 アンヌはリリーの言葉の意味を悟ったのか、優しい笑顔を浮かべる。


「こことは随分違うところだけど、少しでも気に入ってくれると嬉しいよ」


「私も行きたい」


 ローズが遠慮がちにそう口にする。


「ローズも来たことがなかったんだよね。女王の許可がもらえるなら構わないよ」


「ありがとう」


 ローズが笑顔で口にする。


 アンヌがそう言ってくれたため、私たちはそこでアンヌと別れ、ひとまずお城に帰ることにした。女王から許可をもらうためだ。


 謁見の間に入ると、リリーが成り行きを説明する。女王様は困ったような笑みを浮かべる。


「クラージュなら身の危険もないと思うし、構わないわ。でも、決してクラージュの外にはでないこと、できるだけ早く戻ってきなさい。リリー、何かあった時には頼むわね」


 私たちはお礼を言い、謁見の間を出ることにした。

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