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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第六章 人間の国
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王子の婚約者

「俺もシモンを助けることは同感だ。ただ、具体的にどうするんだ? 俺も彼女に会うのは制限されている。実の娘のエリスでさえ。恐らく、城門で名乗れば、その時点で彼は人質にされ、向こうの有利に物事が運ぶだろう。その間に俺が探しておくこともできるが、西の塔だとそれなりの証拠がないと踏み込めない」


「だから、名乗らずに王妃に会う機会を作る必要があるの。王妃に会った後に花の国の民だと気づけば、彼女は即座にシモンの身の確保をしようとするはず。王妃が重臣の誰かに連絡を取ろうとする。その隙にシモンという少年の居所をつかめるかもしれない。証拠の残る通信石は極力使わないと思うの」


「言ってる意味は分かるが、どうやってあの人に会うんだ? あいたいといって会える相手じゃないよ」

「だから、ラウールに協力してほしいの。王妃が人に会う機会があるでしょう。ラウールの婚約者であれば」

「婚約者?」


 それはすなわち、私と彼が結婚するということなのだろうか。


 かっこいいし、今まで何度か助けられた。けれど、彼を好きかは分からないし、そもそも彼だって嫌だろう。ラウールを見ると、妙に納得していた。


「城に入っても不自然じゃないし、後から理由をつけて婚約破棄をしてしまえばいい。というか、王妃はお前の素性を明らかにしない限りは、そう仕向けてくるだろう。最悪殺そうとするかもしれない。ただ、そのときの刺客は、王妃の信頼している人間になる。それを逆に人質に取ってしまえば。こちらの持つ手札をいつ晒すかのタイミングも必要か」


「ただ、美桜さんは父親とよく似ているらしくて、ルナンの生き残りも王の娘だとすぐにわかっていたわ。だから、向こうも会えばすぐに気付くかもしれない」

「なら、変装も必要か」


 具体的な策を練り始めた彼とは対照的に、婚約者という言葉が何度も脳裏で木霊する

 振りだと言い聞かせても、高鳴る心臓をこぶしを握って諌める。


「今の美桜さんは自分の身を守れるか分からない。だから、そのためにはアリアさんの存在が必要になると思う。シモンの居場所を見つけるのもアリアさんにできればお願いしたい。セリア様だと隠れて城内に入ることはできないでしょう」

「ただ、彼女はブレソール内で転移魔法を使えないし、彼女がどうとらえるかだな。おそらく俺がいないときに手を下そうとするだろうからな。俺も最新の注意を払うが」

「婚約ってそんなことしても大丈夫なの?」


 二人ともそのあとのことに触れるだけで、具体的な婚約には何も触れない。

 結婚は一生の中でとても大事なことのはずなのに。

 二人は意外そうな顔で私を見る。


「王妃さえどうにかしてしまえば、あとはこっちでうまくやるよ。ただ、危険な賭けにはなると思う。だから、じっくり考えてみてくれ。時間的な余裕がないようだが」


 それは婚約破棄をということなのだろうか。

 そもそも婚約自体をなかったことにするのかもしれない。


 私のその覚悟があるかどうかだろうか。

 私が自分を守れるかは分からない。けれど、今がそのときだと思う。

 私は再びこぶしを握る。


「大丈夫。覚悟はできている。ただ、アリアに強制はできないから、彼女がいいと言うなら」

「それはもちろんよ。ラウールもいるし、ジルベール様も力になってくれるから、大丈夫だとは思うけど、アリアさんがいてくれるかそうでないかはかなり大きな差だと思う」

「私もあの子みたいに器用に魔法を使えたらいいんだけどね」


 セリア様が悲しそうに微笑んでいた。


「大丈夫よ。美桜もシモンも私が守る」


 不意打ちのように声が聞こえる。アリアが私の隣にいつの間にか座っていたのだ。


「でも、事情は」

「大まかには聞いた。あの少年をあのままにはしておけないでしょう。彼にかけられた魔法を確実に解けるのは私だけなのだから。それに先代王の妹としてうまれた私が、元国民をそのまま見捨てるなんてあってはならない。彼は王の娘を助けるために命を張ったのよ」


 その言葉にラウールが一瞬目を見張る。

 彼は頷いていた。


「あなたがそういうなら、俺に異存はありません。細かいことを打ち合わせましょう」


 ルイーズたちの案をまとめると要はこういうことだ。

 王子の婚約者として城に入り、その間にシモンの居場所が見つけられれば特定する。

 場所が見つからない可能性も高いとみてるようだ。

 あらかじめ言わないのは、極力彼女に準備する機会を持たせないためのようだ。

 王妃と比較的早い段階で接見する機会がもたれるため、そこで彼女に打ち明け即座にシモンのことを交渉するか、彼女に最初にあったときは伏せておき、彼女の刺客から狙われたとき、その刺客を捕え、王妃に打ち明け交渉する。


「だいたいわかったわ。私はそれでかまわない。けれど、あなたは美桜の素性は知らなかったで通しなさい」


 アリアはそうラウールに強い口調で伝えた。

 彼は目を見張る。


「でも、そんなことをしたら」

「あなたは余計な重荷を背負う必要はないの。これでソレンヌが失脚するかは分からない。それなのにあなたが加担したとなれば、あなたの立場が悪くなる。あなたは私たちに騙されたことにしておいたほうがいい。美桜もそれでかまわない?」

「構わないよ」


 彼らはあの国で暮らし続けなければならない。花の国といういわば周辺から隔離された国に戻れる私たちと、彼のおかれている立場はわけが違うのだ。


「私もそれがいいと思う。もちろん、私は協力するから」

「ルイーズも知らなかったことにしたほうがいい。あとはロロにも口止めしておきなさい。ルーナはともかくエスポワールに住むなら、そうしたほうがいい」

「それは私も同感ね」


 ルイーズの言葉を打消したアリアの言葉に、セリア様も同意した。


「でも、そんなことをしたら」


 ルイーズは暗い表情で私たちを伺う。

 私たちに全責任を押し付けてしまう可能性を気にしているのだろうか。


「気にしないで。私たちの目標はシモンを無事に助け出し、彼の施された魔術実験を解くことでしょう」


 私はそう明るく言い放つ。

 だが、ルイーズは暗い表情を浮かべたままだ。


「シモンを連れ出したら、ポワドンに連れて行こうと思っている。レジスには私から話をしておくわ」


 アリアはそう鋭い口調で言い放った。

 

 私はそれからしばらくアリアと一緒にセリア様の家に泊まり込んだ。

 その間にラウールに結婚したい相手がいると伝えてもらい、こちらもお城の見取り図を頭に叩き込み、準備をしていったのだ。

 そして、私たちがルナンに入った三日後にブレソールに行くことが決定した。





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