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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第五章 エルフの国
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枯れた大地に生まれた命

 ルイーズは辺りを見渡すと目を輝かせている。

 そんな彼女をラウールが制する。


 あれから四日が経過し、まだラシダさんは眠ったままだ。

 アリアはずっと彼女に付き添っている。

 私たちはフイユに来ていた。

 リリーが今日帰るとマリオンさんに聞かされたため、私とラウールが彼女を迎えに来ることになった。そして、ルイーズもフイユに行きたいと言い出したため先方の許可を得たうえで三人で行くことになったのだ。


 そのとき、子供たちが泣いているのに気づく。

 持っていた土の人形が転んだことによって首と腕が折れてしまったようだ。


「少しいいですか?」

「何を? 勝手なことをされたら困ります」


 私たちを制する二人組を無視して、ルイーズはその子供たちのところに行く。

 彼女はかがむと、子供たちを視界に収めた。


「お姉ちゃんがそれを直してあげる」

「なおす?」


 子供は不思議そうに、それでいて警戒心を滲ませながらルイーズを見た。

 彼女はそれを手に取り呪文を詠唱する。すると離れていた首と胴体、腕が再び一体を形成する。

 子供たちは歓喜の声を上げる。その表情にはもう彼女を警戒する気持ちは映っていなかった。


「お姉ちゃん、これどうしたの?」

「魔法でなおしたんだよ」


 そうエルフの子供たちが不安そうにルイーズの腕をつかむ。

 ルイーズはそんな子供たちの頭を撫で、やさしい笑顔を浮かべていた。

 誰とでもすぐに打ち解けられる、やさしい雰囲気を持った女性。


 クロエ様を私は知らない。

 けれど、ルイーズは彼女によく似ているのではないかという気がしたのだ。


「ルイーズとクロエ様って似てない?」

「え?」


 ラウールは驚いたように彼女を見る。だが、すぐに目を細める。


「確かに似ているかもな。変わっていて、自由奔放で」

「人の輪の中にすっと入っていける」


 好かれようとしているわけじゃないく、あくまで自然体で。

 だから、わざとらしさも感じない。

 皆が妃として認め、彼女にもっと長生きしてほしいと思われていたクロエという女性。


「遅れてごめんなさい」


 彼女は屈託のない笑顔で戻ってくる。

 案内してくれた人たちは何かを言いかけたが飲み込み、歩き出す。

 私たちは彼らの後を追う。


 彼らの足がラニで止まる。ラニに案内してもらったのもルイーズが見たいと言い出したためだ。

 リリーともここで待ち合わせをすることになる。

 私とラウールとルイーズは案内をしてくれた二人組に深々と頭を下げる。

 彼らは頭を下げると、ゆっくりと立ち去っていく。

 目の前に広がるのはまだ枯れた、聖地と呼ばれた土地。


 随所で地盤が沈下しているのを見ていると、あのときの状況が鮮明によみがえってくる。

 よくここまで無事に戻ってこれた。


「改めて見ると派手に崩れたね」

「まあな」


 ラウールは苦笑いを浮かべている。


 ラウールはブレソールに戻り、軟禁状態になっていると聞かされた。

 常に監視がいる状態だ。

 ただ、部屋の中で常時監視するというわけにもいかず、町の中で自由に転移魔法を使える彼にはあまり影響はないようだが、彼のおかれた環境が不便にはなっているようだ。


「でも、よく無事だったね」

「さすがにまずいと思ったよ。王妃も俺が生きていたことでかなり焦っていた」

「お父様からもきいたけど、実際に見たかったな」


 ルイーズは苦笑いを浮かべていた。


 私はまだラニを見渡す。

 植物のエネルギーを抽出し、枯れ果てた場所。

 あの要塞の中にある国が、それがこんなに多くの植物に影響を与えているのが不思議な感じだ。

 本当にこの場所は時間とともにリリーの父親の好きだった美しい場所へと戻るのだろうか。


 私は枯れた植物に手を伸ばした。

 植物が淡く白い光を宿し、青々とした葉を茂らせる。

 けれど、ほかの植物に触れても、同じように葉を宿すことはなかった。

 生きているとこの土地が教えてくれたのだろうか。


「あれ、ここ」


 ルイーズが私の手元を見て目を丸めたので、簡単に経緯を説明した。


「不思議だね。この植物には何かあるのかな」


 ルイーズとラウールが不思議そうに問いかけるが、答えは出てこない。


「アリアにも見せたいな」


 私は遠く離れた少女のことを思い描く。


「もうすぐ見せられるさ。それもとびっきりの美しい状態を」


 私はその言葉に唇を噛む。


「そうだね」


 これでたどり着くのだろうか。アリアの故郷に。

 そして、私が王になるとアリアは言う。

 だが、私には実感がなかった。


「ティメオの娘ってことは王位継承権がかなり高いんだな」

「王位継承権?」


 意味は分かる。だが、高いという意味がよく分からなかった。


「あの国は多かれ少なかれ、花の国の血をひかないと王位に就くことができないんだよ。基本的に王の血族がずっと王であり続けた。だから、王の血族がいなくなれば、一般人でも王位につける可能性がある。それを決めるのは、あの国の試練だから」


 アリアが似たようなことを言っていた。


「じゃあ、アリアや、他の花の国の民が生きていたら、王位につけるということなの?」

「そういうことだよ」


 ひっかけたわけではない。口にして、アリアを花の国の民と仮定していた気持ちはぽろりと零れ落ちたのだ。ラウールはアリアが花の国の民であるとは否定しなかった。

 ルイーズもその言葉に首を縦に振る。


「ティメオの娘ということをかたくなに隠すのも、セリア様やアリアが一緒にいるのも、そうした事情があるんだろう。アリアは自分で自分の身を守れる。だが、お前はそういうわけにはいかないからな」

「そうだね」


 今まで私は助けられることが多かった。今でも自分の身を守れるとはいかないだろう。

 そんな私が王になることなどできるのだろうか。


「お父さんってどんな王様だったんだろう」

「聡明で、やさしい人だったと聞いたことがある」


 私にはそのうち幾分かでもお父さんのよいところを持っているのだろうか。

 私の不安を見透かしたようにルイーズが私の手を握る。


「私は美桜さんでもアリアさんでもどっちが女王になっても、すてきな国になると思うわ」

「ありがとう」


 彼女は私の言葉を確かめるようにして首を縦に振る。


「でも、花の国の生き残りってどれくらいいるんだろうね」

「さあ、生きていてもなかなか表には出てこれないだろう」



 ルイーズの問いかけに、ラウールは難しい顔で答える。

 それは特殊な種族だからだろうか。

 他の生き残り。私には花の国に対する愛着もアリアに比べて少ないだろう。

 それでもほかにいるなら会ってみたい気がする。

 仲間意識というと変だが、それに近い感情を抱いていたのだ。


「お待たせ」


 その言葉とともにリリーが現れた。リリーはピンクのワンピースに体を包みんでいる。

 リリーの目が私の手元で生える草に映る。


「美桜が咲かせたの?」

「よくわからない。でも、きっと前の状態に戻ると教えてくれたんだと思う」

「そうだね。きっと近いうちに、きれいな自然で満たされるよね」


 リリーの金の髪が風でなびく。

 彼女はその髪を抑えると微笑んだ。


「ルーナに帰ろうか」


 私はリリーの言葉に頷いていた。



                第五章・終

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