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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第五章 エルフの国
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力を貸す代償

 私とセリア様、ラウールは聖地に来ると、辺りを見渡した。

 お城の監視システムを壊したこともあり、私たちは行きたい場所に直接案内されることになった。

 打ち合わせをしたいと言っても効く耳を持ってもらえず、聖地に連れて行ってもらうことにした。


 もちろん、入国と同時に国王に嫌味を言われ、あの監視役とされる二人も呼び出されていた。


 聖地を選んだのはセリア様で、彼女はここに何かヒントがあると思ったのだろう。

 ラニは相変わらず植物が枯れ、もの寂しい心境を与える。


 アリアからシェルシュの話を聞き、十日余りが経過したが、アリアの言っていた私なりの方法というのがよくわからない。


 名前を呼ぶ、呪文に頼る。 

 様々な方法を考えてみるが、どれもピンとこない。


 私の着ているローブの胸元からアリアが顔を覗かせる。

 いつもはバッグの中に隠れているが、今日に限っては彼女はローブの中にいると言い出したのだ。


「シェルシュのことは気にしなくていいのよ。今のあなたにロールが呼び出せただけでも奇跡なのだから」


 アリアは私の気持ちを感じ取ったのか、そう優しく告げる。

 だが、その力を借りれたら、物事が進展する可能性もあると思う。


 探索するための植物。

 要は目に見えないものを見る方法。

 それはシュルシュに頼るしかないのだろうか。

 ふっと私の脳裏にポワドンやブレソールでの出来事が頭を過ぎる。

 マテオさんが襲われけがをしたときやテッサが襲われたとき。私はその匂いや音を感じ取ったのだ。


 植物が感じたものをそのまま感じ取れる能力も花の国の民が持つ能力の一つだ。

 シェルシュではなく、あのときのように植物が感じている状況を感じることができれば、何か見えてくるかもしれない。


 私は近くの植物に手を触れる。だが、何も感じ取れない。

 枯れているからだろうか。


 私は小声でアリアに話しかける。


「ポワドンやブレゾールで植物のにおいや音を感じ取ったときとは違うの?」

「あれは向こうがあなたに教えてくれようとしたの。今回のは能動的にあなたが感じ、動かさないといけない。受け身と能動的では、後者のほうがややこしい」


 あのときとは何が違うのだろう。

 胸が熱くなり、それが一気に広がり、感じ取ることができたのだ。

 その前は相手のことを考え、それで反応した気がする。

 今でもリリーのことは考えているが、それではいけないらしい。

 その対象となる相手のことが分からないからだろうか。

 私の思いや力が足りないからだろうか。


 一体何がこの地下で起こっているのだろう。

 お父さんだったら、どうしたのだろう。


 地の書を取り込めば変わっているのかもしれない。

 だが、今のままならリリーが有無を言わされずこの国の女王になる。

 そんな時間は私には残されていない。


 どうしたらいいのだろう。

 私は迷い、地面に手を伸ばす。

 さらさらとした土が私の手のひらの上に触れる。


 お願い。力を貸してほしい。

 私にはまだ足りないと分かっている。

 それでも花の国まで戻る時間も、地の書を取り込む時間もない。

 ただ、リリーに後悔してほしくない。

 このままじゃ、あんまりすぎる。

 ローズだって、言葉には出さないが、彼女に会いたがっているのは見ていればすぐにわかる。

 私にできることなら、なんでもするから。


 直後、何か心臓がどくんとはねた。


 地面から紫色の蔦が現れ、私のゆびに絡みつく。

 この感覚はあのエペロームで金のツタが現れたときによく似ている。


 だが、あのときのような神々しさも、柔らかさも感じない。

 体の体力を吸い取られる感じで、体の部位が重くなり、呼吸が荒くなってくる。


「シェルシュ」


 アリアがそう口にした。これがそれなのだろう。

 だが、その植物は私に絡みついているだけで動こうとしない。

 高い金属音が耳を射抜く。


 うるさい小娘だな。何度呼べば気が済むんだ。


 脳裏にダイレクトに声が届く。


「お願い、力を貸してほしい。どうしてもこの国の地下を探りたいの」


 お前に力を貸す義理はない。例え、ティメオの娘であろうと。

 もっとも、命を賭けるというなら別だがな。


「命?」


 そう聞こえたが、アリアもラウールも変な顔をする。

 私にしか聞こえていないのだろう。

 ここでそうするといえば、調査はできるかもしれない。

 けれど、この場を取り繕っても意味がない。

 この私の体力を奪う能力は本物で、おそらく本当に命を奪おうとするだろう。


 私はアリアを花の国に連れて帰ると約束したのだ。

 それだけは絶対に守らないといけない。

 あのエペロームで泣いていた彼女を思い出していた。


「そんなもの賭けられない。私は、アリアと一緒に国に戻る。それまでは死ねないの。国に戻ってから、何を対価にするか決めればいい」

「死ぬって、対価って何を言っているの?」


 アリアが慌てた様子で口にする。


 勝手な言い分だ。

 その娘のためにか? 彼女が過去に何をしたのか知ってもそう言えるのか?


「知らない。でも、苦しんでいるのは分かるから、私はアリアと一緒に国に戻りたい。それがこの世界にとっても必要なんでしょう? だから、国に帰るまでは絶対に死ねない」


 すぐには答えない。

 だが、しばらくたち、笑い声が届いた。


 本当にお前はティメオの娘だな。よく父親に似ている。

 ティメオに免じて、国に戻るまで待ってやろう。


 私の腕に絡みついていた蔦が離れていく。

 だが、私の心臓が激しく鼓動した。まるで短距離走を走った後のように、体が熱を持ち、呼吸が荒くなる。

 アリアが飛び出してくるとその私の指に触れた。

 からみついていた蔦が私から離れる。

 アリアがその蔦を指に絡めていたのだ。


「知識のない状態だとやっぱり危ないわね。この植物はロールとは違って、少したちが悪いのよ。ただ、私にも少しは力を借りれる。私の姿を彼らから隠してくれる?」


 アリアは目を見張ると、唇を噛んだ。

 あの植物に何か言われたのだろうか。

 アリアが何か短い言葉をつぶやくと、その蔦が地面の中にざっと潜り込む。

 彼女の長い睫毛が震える。


「この先、しばらく進んだところに女の魚人がいる。ただ、案の定というべきかルナンの領地内に入っているわ。小柄な、もしかすると子供かもしれない」

「見えるの?」

「これが教えてくれたのよ。あなたがポワドンで植物から匂いを感じ取ったように、こうして植物の力を借りれば、何があるのか把握することができる。ただ、かなり体力を奪われるけどね」


 だが、彼女はそれをいとも簡単に操り、疲労の色もにじませない。

 まるで彼女が言っていたティメオの姿を見ているようだ。

 だが、彼はもうすでに亡くなっているし、アリアとティメオでは性別も髪の色も違う。


「場所は分かったんですよね。そこまでどうするんですか? 向こう側からルイーズに言ってもらうか。どれくらい奥なんですか?」

「ここから隣国に入り、十分くらい歩いたところね。完全にルナンの中よ。さすがに彼女でもこうして隠してあるものを見つかればつかまるかもしれない」

「なら、俺が隣国に入って」

「あなたが行動に起こせばもっと問題よ。あの魚人と、この水不足に何らかの因果関係があれば、こちらの行動を正当化できる。魚人の少女の周りに水と、よくわからないエネルギー体がある。魔力とは違うけど、シェルシュではこれが限界ね」


 アリアは歯がゆそうに遠くを見やった。

 その方向に少女がいるのだろう。


「因果関係がなかった場合、誰かに尻拭いをしてもらう必要がありそうだけど」

「いいわよ。私がしてあげる」


 そういったのはセリア様だ。


「じゃあ、石壁を作ってくれない? 監視から見えないように。その間に私がその場所まで穴をあけるわ。セリアだと場所を把握できていないでしょう?」


 セリア様が呪文を詠唱すると、高い土が連なり、私たちを覆い隠す。


 アリアは壁に手を当てる。そして、深呼吸した。


「少し離れていて」


 アリアは呪文の詠唱を始めた。土がまるで生きているかのようにゆっくりと動き、大地に流れていく。その大地の上で一つの塊を形成し、散り散りになることもない。そして、地面を下る、洞窟のような穴が作り上げられた。その中には階段が作り上げられているのが見える。

 彼女は一瞬でここまで作り上げたのだ。


「行きましょう。その少女がいる部屋の手前までつながっているはずよ」

「本当にあなたは器用ね」

「私としてはもっと不器用に生まれたかったな」


 アリアはそういうと、寂しそうに笑う。


「お前たち、何をやっているんだ」


 石の向こうから叫び声が聞こえる。


「あとは任せて、先に行きなさい」


 私とラウールとアリアの三人がその穴の中に入る。セリア様の声が聞こえたが、私たちは奥へと歩を進めた。そして、入り口部分が再び壁となった。



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